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第2章 奴隷の兄妹
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明け方にゴルドウィン城の周辺を探っていたジーンが戻ってきた。彼は壊れたドアを見て驚いたものの、すぐに状況を見て把握した。
「例の農園の管理者とやらの襲撃ですか?」
「そうだ」とウィルフレッド。「兄妹を狙って三人ほどゴロツキが来たが、捕らえて宿屋の倉庫を借りて確保している。子供たちは隣の部屋で休ませている。で、どうだ、何かわかったか?」
「それが……」と彼が言いかけたところで、眠そうな顔をしたティナが部屋に入ってきた。
「おかえり、ジーン」とあくび交じりに告げた。「こっちの部屋に剣を置きっぱなしにしたのを思い出して。人の声も気になったし」
ウィルフレッドはティナが手近なベッドに腰を下ろすのを見守った。
「どうもゴルドウィン城は妙なことになっていますね」とジーンが口を切った。「随分と楽に忍び込めましたよ。番兵も二人しかいないし、部屋の多くは埃まみれでろくに掃除もされてはいないようで。こちらに戻る途中で例の農園も覗きましたが、手勢が必要な様子なので、伝書烏で親父に応援を頼みました」
「さすがに手際がいいな」と頷き、ウィルフレッドは眉をひそめた。「しかし…… 確かに鉱山は寂れてしまったが、仮にも公爵家だぞ? それほど困窮しているのか? ろくに掃除もされていないとは……」
「さようで。で、妙な気配がしたんで、ちょいと漁ってみましたら……」
彼は背負っていたバッグから妙なものを取り出した。かすかにハーブの香りがする。
「なにそれ?」とティナが手を伸ばしかけたのをジーンが制した。
「触っちゃいけません、魔女の呪い袋です。ローズマリーで編んだ呪い除けの籠に入れてますが」
「の、呪い……」とティナは顔をしかめた。
「なるほど、ロズリンで噂の公爵の病気とやらは呪いによるものか」とウィルフレッドは頷いた。
「何者かに仕組まれたんでしょう。おそらくは……」
「例の農場管理人か」とウィルフレッド。「ミスリル鉱脈を見つけて、領主に知られないように裏取引をするには、病気で倒れていてもらった方が都合がいいと」
「そんなところでしょう。もしかしたら、密売組織も絡んでいるのかも……」
ウィルフレッドは渋い面持ちで顎に手をやった。
「ふむ、もしや公爵も噛んでいるかと思ったが、それはなさそうだな。……となると」
言いかけて彼は口を閉じた。
「何でしょう、煙いような臭いが……」
「それ!」と言ってティナが呪い袋を指さした。「煙が出てるよ?」
ジーンは慌ててローズマリーの籠ごと呪い袋を陶器の洗面器に放り込んだ。燻ぶったような煙がじわじわと立ち上っている。
「ティナ、それに剣をかざしてみろ」とウィルフレッドが言った。ティナはサイドチェストの上の剣を手にすると、呪い袋に刃をかざした。
と、まるでそれに呼応するかのように、袋から青白い炎が立ち上った。それは瞬間に燃え上がると、外側のローズマリーの籠には全く燃え移らずに灰になってしまった。
「こ、こいつは驚いた……!」とジーン。
「まさかと思ったが……」ウィルフレッドはかすかに声を震わせた。「……伝承の通りだな」
「え? 何?」とティナ。
「先日、シモンズ伯のところで聞いただろう? 三百年前に勇者が扱ったという剣の話……」
「うん?」
「子供の頃に聞いた御伽噺では、勇者の剣は邪悪な魔法を退けたと聞いたことがあってな。真に受けていたわけではなかったが……」
「じゃあ、これは勇者が使っていた剣ってこと?」とティナ。
「さあ、そこまではわからないが…… しかし、邪悪な魔法を退ける効果があるように見受けられる……」
「例の農園の管理者とやらの襲撃ですか?」
「そうだ」とウィルフレッド。「兄妹を狙って三人ほどゴロツキが来たが、捕らえて宿屋の倉庫を借りて確保している。子供たちは隣の部屋で休ませている。で、どうだ、何かわかったか?」
「それが……」と彼が言いかけたところで、眠そうな顔をしたティナが部屋に入ってきた。
「おかえり、ジーン」とあくび交じりに告げた。「こっちの部屋に剣を置きっぱなしにしたのを思い出して。人の声も気になったし」
ウィルフレッドはティナが手近なベッドに腰を下ろすのを見守った。
「どうもゴルドウィン城は妙なことになっていますね」とジーンが口を切った。「随分と楽に忍び込めましたよ。番兵も二人しかいないし、部屋の多くは埃まみれでろくに掃除もされてはいないようで。こちらに戻る途中で例の農園も覗きましたが、手勢が必要な様子なので、伝書烏で親父に応援を頼みました」
「さすがに手際がいいな」と頷き、ウィルフレッドは眉をひそめた。「しかし…… 確かに鉱山は寂れてしまったが、仮にも公爵家だぞ? それほど困窮しているのか? ろくに掃除もされていないとは……」
「さようで。で、妙な気配がしたんで、ちょいと漁ってみましたら……」
彼は背負っていたバッグから妙なものを取り出した。かすかにハーブの香りがする。
「なにそれ?」とティナが手を伸ばしかけたのをジーンが制した。
「触っちゃいけません、魔女の呪い袋です。ローズマリーで編んだ呪い除けの籠に入れてますが」
「の、呪い……」とティナは顔をしかめた。
「なるほど、ロズリンで噂の公爵の病気とやらは呪いによるものか」とウィルフレッドは頷いた。
「何者かに仕組まれたんでしょう。おそらくは……」
「例の農場管理人か」とウィルフレッド。「ミスリル鉱脈を見つけて、領主に知られないように裏取引をするには、病気で倒れていてもらった方が都合がいいと」
「そんなところでしょう。もしかしたら、密売組織も絡んでいるのかも……」
ウィルフレッドは渋い面持ちで顎に手をやった。
「ふむ、もしや公爵も噛んでいるかと思ったが、それはなさそうだな。……となると」
言いかけて彼は口を閉じた。
「何でしょう、煙いような臭いが……」
「それ!」と言ってティナが呪い袋を指さした。「煙が出てるよ?」
ジーンは慌ててローズマリーの籠ごと呪い袋を陶器の洗面器に放り込んだ。燻ぶったような煙がじわじわと立ち上っている。
「ティナ、それに剣をかざしてみろ」とウィルフレッドが言った。ティナはサイドチェストの上の剣を手にすると、呪い袋に刃をかざした。
と、まるでそれに呼応するかのように、袋から青白い炎が立ち上った。それは瞬間に燃え上がると、外側のローズマリーの籠には全く燃え移らずに灰になってしまった。
「こ、こいつは驚いた……!」とジーン。
「まさかと思ったが……」ウィルフレッドはかすかに声を震わせた。「……伝承の通りだな」
「え? 何?」とティナ。
「先日、シモンズ伯のところで聞いただろう? 三百年前に勇者が扱ったという剣の話……」
「うん?」
「子供の頃に聞いた御伽噺では、勇者の剣は邪悪な魔法を退けたと聞いたことがあってな。真に受けていたわけではなかったが……」
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