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第2章 奴隷の兄妹
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「二人は隠れて」と声を潜めてティナは囁いた。
彼女のその表情にダニーは察知した、追手かもしれない! 彼は妹の手を掴むと、急いでベッドの陰に隠れた。ティナはそっとドアに寄り添うように外の様子を窺った。重い足音はそこそこに筋肉質の男三人分。
この部屋に武器はない…… 手元の魔剣以外。これを使う覚悟をするしかない。そう思った瞬間、剣の呻りが僅かに大きくなった。
呼応している、その音とともに、ティナの体にも力が漲る気がした。
ガタッ! ドアを蹴破って男たちが乱入してきた。
「このクソガキども! さっさと帰るぞ!」
「お断りだよ!」ティナは大声で言い返し、一人目の男を剣で薙ぎ払った。
「ぐはぁ!」
予期せぬ反撃を食らって一番前の男は部屋の端まで吹き飛んだ。
「ええ、手加減したのに、見事に跳んだ!」思わず自分の行為に驚いてしまう。
「な、なんだぁ? 何してやがる?」二人目は一人目の男が何かしくじったとでも思ったらしい。
「別の娘っ子がいるぞ、こいつも連れて帰ろうぜ!」三人目は目の前のティナを値踏みしている。
ティナは妙に気分が高揚するのを感じた、いや、既に興奮状態で大声で笑い始めていた。
「やれるもんなら、やってみな、この悪党が!」
力が体中を駆け巡る、何の恐怖もない。力一杯に剣を振り回すと開いたドアに当たり、木製のドアは瞬間に木っ端微塵に吹き飛んだ。
「ひ!」
軽口を叩いていた男たちが瞬間に顔を強張らせる。二番目の男は剣が目前を掠めただけで思わず腰を抜かし、三番目の男は慌てて逃げ出そうとした、が……
「逃がすか!」と野太い声が轟いた。帰ってきたウィルフレッドが男を殴り、殴られた男は煽りを食らって宿の廊下の壁にぶち当たった。
「ティナ!」とウィルフレッドが呼ばわった。
「大丈夫だよ、先生!」とティナが応える。彼女は若い娘には似つかわしくない鬼のような形相で、腰を抜かした男の股の間近に巨大な剣を突き立てた。
「上等だ、そっちのお嬢ちゃんは腰を抜かしているようだな」とウィルフレッドは苦笑した。
彼らは襲撃者を手早くシーツを割いて作ったロープで括り付けた。騒ぎが収まった頃合を見て宿屋の主人が怖々と覗きに来たが、ウィルフレッドは主人の逃げ道を塞ぐように立ちはだかり、
「子供たちのことは黙っていてくれと頼んだと思ったが?」と言った。
宿屋の主人は真っ青な顔でその場にへたり込んだ。
「す、すみません、旦那ぁ、昨日の金貨は返します……」彼は上着のポケットから慌てて金貨を取り出した。
「いや、それは取って置け。ドアの建付けを直さなくてはなるまい?」
建付けどころの問題ではない、ドアはすっかり破壊されているのを見て、宿屋の主人はさらに顔色が悪くなった。
「い、いえ、そんな、恐れ多い…… ドアもお代も結構ですんで……!」
ウィルフレッドは目を瞬き、
「そうか? そこまで言うなら厚意に甘えさせてもらおうか?」と言いつつ、主人の手から金貨を取り戻した。「こいつらは何者だ?」
「え、へぇ、この近くの農場の管理人ハフナーの旦那の用心棒で」
「ふむ」とウィルフレッド。
宿屋の主人は声を潜めた。
「農場はご領主様の物で、そこの管理をしている旦那ですよ、そりゃ、怖くて逆らえませんや。その用心棒たちも笠に着て好き放題しやがって」
「なるほどな」とウィルフレッド。町の衛兵たちはやる気がなさそうだったし、そんな相手の使用人を捕まえてもすぐに釈放してしまうに違いない。「よし、こいつらは公爵家直属の衛兵に引き渡そう」
「こ、公爵様に?」
「そうだ。この領の揉め事だからな」
宿屋の主人は表情を暗くした。
「……どうした?」
「へぇ、公爵様はご病気だとかで……」
どうやら町民たちも領主が病気と聞いているらしい。
「どんな病気か聞いたことがあるか?」とウィルフレッドは尋ねた。
「いえ、それが…… 噂ばかりで」と彼は言い淀んだ。
「言ってみろ」
「……世にも恐ろしい獣のような姿になったと言う者も……」
ウィルフレッドとティナは顔を見合わせた。
彼女のその表情にダニーは察知した、追手かもしれない! 彼は妹の手を掴むと、急いでベッドの陰に隠れた。ティナはそっとドアに寄り添うように外の様子を窺った。重い足音はそこそこに筋肉質の男三人分。
この部屋に武器はない…… 手元の魔剣以外。これを使う覚悟をするしかない。そう思った瞬間、剣の呻りが僅かに大きくなった。
呼応している、その音とともに、ティナの体にも力が漲る気がした。
ガタッ! ドアを蹴破って男たちが乱入してきた。
「このクソガキども! さっさと帰るぞ!」
「お断りだよ!」ティナは大声で言い返し、一人目の男を剣で薙ぎ払った。
「ぐはぁ!」
予期せぬ反撃を食らって一番前の男は部屋の端まで吹き飛んだ。
「ええ、手加減したのに、見事に跳んだ!」思わず自分の行為に驚いてしまう。
「な、なんだぁ? 何してやがる?」二人目は一人目の男が何かしくじったとでも思ったらしい。
「別の娘っ子がいるぞ、こいつも連れて帰ろうぜ!」三人目は目の前のティナを値踏みしている。
ティナは妙に気分が高揚するのを感じた、いや、既に興奮状態で大声で笑い始めていた。
「やれるもんなら、やってみな、この悪党が!」
力が体中を駆け巡る、何の恐怖もない。力一杯に剣を振り回すと開いたドアに当たり、木製のドアは瞬間に木っ端微塵に吹き飛んだ。
「ひ!」
軽口を叩いていた男たちが瞬間に顔を強張らせる。二番目の男は剣が目前を掠めただけで思わず腰を抜かし、三番目の男は慌てて逃げ出そうとした、が……
「逃がすか!」と野太い声が轟いた。帰ってきたウィルフレッドが男を殴り、殴られた男は煽りを食らって宿の廊下の壁にぶち当たった。
「ティナ!」とウィルフレッドが呼ばわった。
「大丈夫だよ、先生!」とティナが応える。彼女は若い娘には似つかわしくない鬼のような形相で、腰を抜かした男の股の間近に巨大な剣を突き立てた。
「上等だ、そっちのお嬢ちゃんは腰を抜かしているようだな」とウィルフレッドは苦笑した。
彼らは襲撃者を手早くシーツを割いて作ったロープで括り付けた。騒ぎが収まった頃合を見て宿屋の主人が怖々と覗きに来たが、ウィルフレッドは主人の逃げ道を塞ぐように立ちはだかり、
「子供たちのことは黙っていてくれと頼んだと思ったが?」と言った。
宿屋の主人は真っ青な顔でその場にへたり込んだ。
「す、すみません、旦那ぁ、昨日の金貨は返します……」彼は上着のポケットから慌てて金貨を取り出した。
「いや、それは取って置け。ドアの建付けを直さなくてはなるまい?」
建付けどころの問題ではない、ドアはすっかり破壊されているのを見て、宿屋の主人はさらに顔色が悪くなった。
「い、いえ、そんな、恐れ多い…… ドアもお代も結構ですんで……!」
ウィルフレッドは目を瞬き、
「そうか? そこまで言うなら厚意に甘えさせてもらおうか?」と言いつつ、主人の手から金貨を取り戻した。「こいつらは何者だ?」
「え、へぇ、この近くの農場の管理人ハフナーの旦那の用心棒で」
「ふむ」とウィルフレッド。
宿屋の主人は声を潜めた。
「農場はご領主様の物で、そこの管理をしている旦那ですよ、そりゃ、怖くて逆らえませんや。その用心棒たちも笠に着て好き放題しやがって」
「なるほどな」とウィルフレッド。町の衛兵たちはやる気がなさそうだったし、そんな相手の使用人を捕まえてもすぐに釈放してしまうに違いない。「よし、こいつらは公爵家直属の衛兵に引き渡そう」
「こ、公爵様に?」
「そうだ。この領の揉め事だからな」
宿屋の主人は表情を暗くした。
「……どうした?」
「へぇ、公爵様はご病気だとかで……」
どうやら町民たちも領主が病気と聞いているらしい。
「どんな病気か聞いたことがあるか?」とウィルフレッドは尋ねた。
「いえ、それが…… 噂ばかりで」と彼は言い淀んだ。
「言ってみろ」
「……世にも恐ろしい獣のような姿になったと言う者も……」
ウィルフレッドとティナは顔を見合わせた。
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