謡う魔剣と少女の物語(仮)

たまぞう

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第2章 奴隷の兄妹

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 兄妹は追手がかかっている恐れがあったので、そのまま宿屋の一室で匿うことにした。
 翌朝、ティナを念のため護衛に置いて、ウィルフレッドとジーンが出かけることにした。
「貴族様のお屋敷に行くのなんて、堅苦しそうだし」とゴルドウィン公爵家を訪ねる二人にティナは言った。
「あぁ、お前の目の前にも一人貴族がいるんだがな?」とウィルフレッド。
「先生は先生だよ」と彼女は笑った。

 ウィルフレッドとジーンは馬に跨り、ゴルドウィン城の城下町まで行くとその様子を眺めた。外門を守る衛兵もどことなく精彩に欠け、街を行く人々も表情が明るいとは言い難い。
「……なんだか寂れてますね?」とジーン。
「数年前はもう少しマシだったがなあ……」とウィルフレッドが溜息交じりに返した。「王都からそれほど離れてもいないというのに、この辺にも時折魔獣の類が姿を現すらしいな?」
「はい、城門外で農民が襲われたと聞きました。狂暴化しているという話もありますね」ジーンは応えて辺りに目を走らせる。
 彼らはさらに馬を進め、古めかしい造りの豪邸の門の前に辿り着いた。門番は面倒くさそうに姿を現すと、無遠慮にウィルフレッドを見つめた。
「元王国騎士団長のウィルフレッド・バーグマンである。火急の要件にて、ローレン・ゴルドウィン公爵にお目通り願いたい」
 さすがに元騎士団長の名を聞いて門番は緊張を見せたものの、
「申し訳ございませんが、公爵様はご病気で臥せっておいでです」と答えた。
 ウィルフレッドはちらりとジーンに目配せした。
「火急の要件であると……」
「お帰りください」と門番は応じるとさっさと奥へと引っ込んでしまった。
「何とも無礼な態度ですね!」とジーンが苛立つ。
「まあいい、どのみち会えるとは思ってはいなかったしな」と小声でウィルフレッドが返した。「少々探りを入れてみるか……」
「それは私が」とジーンがにやりと笑みを見せる。「このお屋敷を一目見て、何となく嫌な気配がしました。旦那様は一旦、ロズリンの宿場にお帰りください。念のため、親父にも連絡をつける手筈をしておきます。私は明日の朝には戻りますので」
 その言葉にウィルフレッドは頷いた。
「ああ、気をつけろ」と残して馬の轡を転じて去って行った。

 さて、一方宿屋に残された若い三人は他愛のない遊びに興じていた。ジーンが退屈しのぎにと置いていったカードを楽しんでいたのだ。
 ダニーはティナの手の内のカード二枚のうち、どちらを引くかさんざん悩んだ挙句、右のカードを選んで引いた。
「うへぇ!」ジョーカーのカードを見て思わず少年は呻き声をあげてしまった。
「やったぁ! さあ、メア、こっちのカードちょうだい」ティナは隣のメアからカードを引いた。「当たり! これで上がりだよ!」
 ティナがメアから引いたカードは手元の数字札と同じ数だった。
「兄ちゃん、次、次!」メアが楽し気に兄からカードを引く、と。「やった、私も上がり!」
「うへぇ、また負けた……」
「あはは、兄ちゃん、顔に出すぎだってば!」とメアが声を上げて笑った。
 怯えた表情をしていた二人だったが、ようやく表情が明るくなってきた。ティナはほっと安堵を覚える。
「しっかし、あの剣、すごいよなあ!」
 負けたのが照れ臭いのか、ダニーが話題を振ってきた。
「うん、家に伝わる謎の剣だよ」
「謎?」
「そう。魔法の剣だけど、来歴も銘も何もわからないんだよ」
 ダニーはじっと見ていたが立ち上がると、
「持ってみていい?」と尋ねた。
「持ち上がる?」
 ティナのいたずらな表情にダニーはそっと柄に手をかけた。
「ふっ、ふぅん! くぅ……!」
 ベッドの端に座っていたメアも立ち上がった。
「兄ちゃん、私も手伝う!」
 二人で力を合わせて持ち上げようとするのだが、やはりびくともしない。とうとう二人は諦めてしまった。
 ティナも集めていたカードを置いて立ち上がると、ベッドサイドのチェストの上に置かれた剣に手を伸ばした。
「ホラ!」と言うや、軽々と持ち上げる。
「す、すげえ……!」とダニーはベッドにへたり込むように腰を下ろした。「最初に見たとき、妹と変わらないくらいの体格のティナが背負っていたから、軽いに違いないと思ったんだよ。そしたら重くてびくともしなかった!」
「ふふ、どうせ売っても売れないってさ。値段付かないって」
 ティナの言葉にダニーは驚いた。
「え? 本当に? そんな立派な剣なのに?」
「……そういう意味の値段が付かない、じゃないと思う……」とメアが遠慮がちに言った。
「もし売れたら、あたしは一人暮らししたいと思ってたんだけどなあ」とティナ。「最初はあまり儲からないって聞くけど、冒険者になって生計立てるのもいいかもね!」
「へえ!」とダニーも目を輝かせた。「……僕も…… 僕たちも自由に生きていけるようになったらなあ……」
「大丈夫だって! きっと、先生が……」と言いかけてティナは口を噤んだ。
「……うん?」
 ティナは二人に声を立てないように身振りで示した。
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