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第2章 奴隷の兄妹
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一方ティナは高い城壁を物ともせずに飛び越え、庭の芝生にきれいに着地した。
「やればできるじゃん」と独り言ちて、彼女は素早く城を目指して走った。庭は手入れがされているとはとても言えず、丈高い雑草が脚に絡みつく。叢を抜けると古めかしい石造りの城へと歩を進めた。そこもやはり清掃もされず、ところどころ壁にひびが入っている。
「これはひどいね」と呟き、かつては壮麗だったに違いない古びた渡り廊下から建物に入った。
念のため背に背負っていた剣を下ろし、包んでいたシーツをその場に打ち捨てた。錆の偽装はまだ半分ほど残っているが、要はこの度肝を抜くような武器を構えていることが、言ってしまえば最大の防御だ。
内装は凝ったものだったようだが、既に色褪せている。また、装飾の一部は誰かが換金目的で盗んだのだろう、削り取った跡があった。
曲がり角を曲がったところで、一目散に逃げたはずの兵士が飛びかかってきた。彼女の体はまるでその襲撃を知っていたかのようにあっさりとかわすと、剣を軽く薙いで兵士の脛を弾いた。
「うが!」と低い叫びをあげて兵士はその場に突っ伏した。「く、くそ! この狼藉者め!」
「ええと、取次は一応頼んだよね? なかなか出て来なかったから…… ええと、お邪魔してまーす!」
「こ、このガキィ!」
「えぇ? ガキじゃないよ、失礼しちゃうっ!」と彼女はお道化た、と、物陰からもう一人の兵士が剣を構えて飛び出してきた。ティナは身をかわして一歩引くと、
「アンタたち、あの三人組の仲間でしょ?」と尋ねた。
「!」
痛いところを突かれたのか、男は歯ぎしりしながらさらに剣を振るってきた。彼女は自分の身長よりも大きな剣を振りかぶり、その攻撃を受け止めた。すかさず蹴りを兵士の股間に食らわせる。
「ぐは!」
イメージしているよりも身体がよく動く。彼女はさらに剣を突いて男のみぞおちに一撃を食らわせ、男はたまらず床に崩れ落ちた。そこに新たな気配が現れた。彼女は身構えて振り向いたが、そこにいたのはジーンだった。
「ティナ様、お見事です」と彼は笑みを向けた。そして捕まえていた初老の男に、床に崩れている二人の姿を見せた。「同じ目に遭いたくなかったら協力してもらえますかね?」
初老の男はどうやら執事のようだ。二人の兵士が既に制圧されてしまったのを見て取って、諦めた様子で、
「お、お赦しを!」とかすれた声で言った。
「使用人は何人いる?」
「はい、ご、五人です。メイドともう一人、その……」
「もしや、魔女かな?」とジーンが尋ねると執事はにわかに青褪めた。「メイドに門を開かせてもらおうか。魔女は……」
「う、別館の二階にいるかと」と執事は怖々と返した。
「あたしが行くよ」とティナが応じ、踵を返して去って行った。
「やればできるじゃん」と独り言ちて、彼女は素早く城を目指して走った。庭は手入れがされているとはとても言えず、丈高い雑草が脚に絡みつく。叢を抜けると古めかしい石造りの城へと歩を進めた。そこもやはり清掃もされず、ところどころ壁にひびが入っている。
「これはひどいね」と呟き、かつては壮麗だったに違いない古びた渡り廊下から建物に入った。
念のため背に背負っていた剣を下ろし、包んでいたシーツをその場に打ち捨てた。錆の偽装はまだ半分ほど残っているが、要はこの度肝を抜くような武器を構えていることが、言ってしまえば最大の防御だ。
内装は凝ったものだったようだが、既に色褪せている。また、装飾の一部は誰かが換金目的で盗んだのだろう、削り取った跡があった。
曲がり角を曲がったところで、一目散に逃げたはずの兵士が飛びかかってきた。彼女の体はまるでその襲撃を知っていたかのようにあっさりとかわすと、剣を軽く薙いで兵士の脛を弾いた。
「うが!」と低い叫びをあげて兵士はその場に突っ伏した。「く、くそ! この狼藉者め!」
「ええと、取次は一応頼んだよね? なかなか出て来なかったから…… ええと、お邪魔してまーす!」
「こ、このガキィ!」
「えぇ? ガキじゃないよ、失礼しちゃうっ!」と彼女はお道化た、と、物陰からもう一人の兵士が剣を構えて飛び出してきた。ティナは身をかわして一歩引くと、
「アンタたち、あの三人組の仲間でしょ?」と尋ねた。
「!」
痛いところを突かれたのか、男は歯ぎしりしながらさらに剣を振るってきた。彼女は自分の身長よりも大きな剣を振りかぶり、その攻撃を受け止めた。すかさず蹴りを兵士の股間に食らわせる。
「ぐは!」
イメージしているよりも身体がよく動く。彼女はさらに剣を突いて男のみぞおちに一撃を食らわせ、男はたまらず床に崩れ落ちた。そこに新たな気配が現れた。彼女は身構えて振り向いたが、そこにいたのはジーンだった。
「ティナ様、お見事です」と彼は笑みを向けた。そして捕まえていた初老の男に、床に崩れている二人の姿を見せた。「同じ目に遭いたくなかったら協力してもらえますかね?」
初老の男はどうやら執事のようだ。二人の兵士が既に制圧されてしまったのを見て取って、諦めた様子で、
「お、お赦しを!」とかすれた声で言った。
「使用人は何人いる?」
「はい、ご、五人です。メイドともう一人、その……」
「もしや、魔女かな?」とジーンが尋ねると執事はにわかに青褪めた。「メイドに門を開かせてもらおうか。魔女は……」
「う、別館の二階にいるかと」と執事は怖々と返した。
「あたしが行くよ」とティナが応じ、踵を返して去って行った。
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