謡う魔剣と少女の物語

たまぞう

文字の大きさ
18 / 38
第2章 奴隷の兄妹

10

しおりを挟む
 ティナは別館の建物に入ると階段を駆け上がった。ここまでの制圧に大きな物音は立ててはいない、魔女はまだ油断しているだろうと思ったが、二階に辿り着くと俄かに足音をひそめた。
 階段の踊り場の手すりの陰に身をひそめて、二階の気配を読む。いつもより勘が効くような気がするが、油断は禁物だ。二階の端の部屋に人の気配を感じ、そのまま足音をひそめて進んだ。
 ドアの前で身を構え、室内の様子を窺う。ドアの向こうでかすかな声が聞こえる…… 呪文を唱えているようだ。どんな意図で呪文を唱えているのかよくわからない、彼女は身を低めたままドアを開いた、と。
 どうやら魔女は油断していたのだろう、いきなりの訪問者の姿を見て驚いた。
「おい、なんだい? この小娘!」と耳障りな声を上げながら立ち上がった。
「こんにちは!」とティナは陽気に挨拶した。
「これでも食らいな! ファイアボール!」言うが早いか、魔女は素早く火球を飛ばしてきた。
「ひゃ!」とティナは小さく叫び、剣で魔法を遮った。魔法は弾けるというよりも、雲散霧消するかのように素早く消えた。
「えぇ?」と魔女。「魔法が効かない?」
 怯んだ隙にティナは立ち上がり、乱雑に魔女の机を覆っていたテーブルクロスを手に取るや、丸めて魔女の口に捻じ込んだ。
「う、うう!」
 魔女は呻きを上げて口を覆う布を取ろうとするが、ティナは手早くその手を打ち払い、そのままひねり上げるように床に組み伏せた。体重を乗せて自由を奪うと、魔女が着ていたローブを引きはがし、腕をまとめるようにねじり、そのまま身体に巻き付けて体の自由を奪った。
「ぐ、うぅうう!」
 魔女は不満げに唸り声を上げたが、ローブを括り付けられると完全に制圧されてしまった。
「手荒な真似してごめんね、おばさん」と言いながら身を起こすと、足元に転がった魔女を見下ろした。驚くほど、身体が動く、気持ちいいほどだ。
「ティナ!」とそこにウィルフレッドが到着した。
「先生!」
 ウィルフレッドは床の上の魔女を眺め、
「思ったよりも見事に制圧したな」と感想を漏らした。「呪文を唱えられないように口も封じている」
「うん……?」
 無意識に口に布を捻じ込んだが、特にそんな意図はなかった。身体が勝手に反応したのだ。
「向こうに連れて行こう」と彼は魔女をずた袋のように肩の上に担ぎ上げた。

 本館の奥の使用人控室に使用人たちを押し込んだ。既にジーンによって二人の兵士は武器を取り上げられ、柱に括り付けられていた。少々ジーンに脅されたのだろう、顔色の悪い三人組の小悪党たち、後はおどおどとした表情のメイドと初老の執事、そして連行されてきた魔女。
「さて、魔女に呪いをかけさせていたのは誰か、正直に言ってもらおうか?」と囚われた魔女を示してウィルフレッドが揺さぶりをかけた。
 兵士たちは青褪めて視線を逸らす。
「農場の管理人、ハフナーだな?」とジーンが確認すると、さすがに観念したのか、
「そうだよ」と兵士の一人が応じた。
「おい、お前、後で旦那に言いつけるぞ!」と小悪党の一人が小声でたしなめた。
「はぁ? この状況で何を言っていやがる? 俺は端から嫌だったんだよ。金貨2枚程度で裏切るんじゃなかった!」
 小悪党は舌を打ち、視線をそらした。
「あ、あの、私は違うんです!」おどおどした表情のメイドが声を上げた。「脅されてただけです! 本当です! ここをクビになったら、田舎に仕送りできなくて……!」
「わ、私も……!」と執事も慌てて付け加えるように口にした。
 ウィルフレッドとジーンは顔を見合わせた。
「まあ、それは公爵に決めていただこう」とウィルフレッドは囚われた者たちを見て言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...