謡う魔剣と少女の物語(仮)

たまぞう

文字の大きさ
18 / 19
第2章 奴隷の兄妹

10

しおりを挟む
 ティナは別館の建物に入ると階段を駆け上がった。ここまでの制圧に大きな物音は立ててはいない、魔女はまだ油断しているだろうと思ったが、二階に辿り着くと俄かに足音をひそめた。
 階段の踊り場の手すりの陰に身をひそめて、二階の気配を読む。いつもより勘が効くような気がするが、油断は禁物だ。二階の端の部屋に人の気配を感じ、そのまま足音をひそめて進んだ。
 ドアの前で身を構え、室内の様子を窺う。ドアの向こうでかすかな声が聞こえる…… 呪文を唱えているようだ。どんな意図で呪文を唱えているのかよくわからない、彼女は身を低めたままドアを開いた、と。
 どうやら魔女は油断していたのだろう、いきなりの訪問者の姿を見て驚いた。
「おい、なんだい? この小娘!」と耳障りな声を上げながら立ち上がった。
「こんにちは!」とティナは陽気に挨拶した。
「これでも食らいな! ファイアボール!」言うが早いか、魔女は素早く火球を飛ばしてきた。
「ひゃ!」とティナは小さく叫び、剣で魔法を遮った。魔法は弾けるというよりも、雲散霧消するかのように素早く消えた。
「えぇ?」と魔女。「魔法が効かない?」
 怯んだ隙にティナは立ち上がり、乱雑に魔女の机を覆っていたテーブルクロスを手に取るや、丸めて魔女の口に捻じ込んだ。
「う、うう!」
 魔女は呻きを上げて口を覆う布を取ろうとするが、ティナは手早くその手を打ち払い、そのままひねり上げるように床に組み伏せた。体重を乗せて自由を奪うと、魔女が着ていたローブを引きはがし、腕をまとめるようにねじり、そのまま身体に巻き付けて体の自由を奪った。
「ぐ、うぅうう!」
 魔女は不満げに唸り声を上げたが、ローブを括り付けられると完全に制圧されてしまった。
「手荒な真似してごめんね、おばさん」と言いながら身を起こすと、足元に転がった魔女を見下ろした。驚くほど、身体が動く、気持ちいいほどだ。
「ティナ!」とそこにウィルフレッドが到着した。
「先生!」
 ウィルフレッドは床の上の魔女を眺め、
「思ったよりも見事に制圧したな」と感想を漏らした。「呪文を唱えられないように口も封じている」
「うん……?」
 無意識に口に布を捻じ込んだが、特にそんな意図はなかった。身体が勝手に反応したのだ。
「向こうに連れて行こう」と彼は魔女をずた袋のように肩の上に担ぎ上げた。

 本館の奥の使用人控室に使用人たちを押し込んだ。既にジーンによって二人の兵士は武器を取り上げられ、柱に括り付けられていた。少々ジーンに脅されたのだろう、顔色の悪い三人組の小悪党たち、後はおどおどとした表情のメイドと初老の執事、そして連行されてきた魔女。
「さて、魔女に呪いをかけさせていたのは誰か、正直に言ってもらおうか?」と囚われた魔女を示してウィルフレッドが揺さぶりをかけた。
 兵士たちは青褪めて視線を逸らす。
「農場の管理人、ハフナーだな?」とジーンが確認すると、さすがに観念したのか、
「そうだよ」と兵士の一人が応じた。
「おい、お前、後で旦那に言いつけるぞ!」と小悪党の一人が小声でたしなめた。
「はぁ? この状況で何を言っていやがる? 俺は端から嫌だったんだよ。金貨2枚程度で裏切るんじゃなかった!」
 小悪党は舌を打ち、視線をそらした。
「あ、あの、私は違うんです!」おどおどした表情のメイドが声を上げた。「脅されてただけです! 本当です! ここをクビになったら、田舎に仕送りできなくて……!」
「わ、私も……!」と執事も慌てて付け加えるように口にした。
 ウィルフレッドとジーンは顔を見合わせた。
「まあ、それは公爵に決めていただこう」とウィルフレッドは囚われた者たちを見て言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界からの手紙

F.conoe
ファンタジー
異世界から手紙が届いた。 それは数日前に行方不明になった姉からの手紙であった。 しんみりと家族で手紙をやりとりする話。 でもラストは。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...