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第2章 奴隷の兄妹
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ウィルフレッドは執事を連れて公爵の寝室へと向かうことにし、控室を出て行った。まずは呪いの様子を見なくてはならない。
「ダニーとメアは?」とティナがジーンに尋ねた。
「この悪党どもを見ると怖がるんで、向こうにいますよ。キッチンに何か食べる物がないか、漁らせています」
「なるほど、そうだね、おなかも減ったよね」とティナが快活に答えた。「ねえ、おばさん、呪いの呪文を唱え続けないと、効果ないの?」
口を覆われ、手足の自由を奪われた魔女は不機嫌そうに小さく頷いた。
「どうして呪いをかけたの? やっぱりお金?」
ティナのあっけらかんとした問いに魔女は小さく肩を揺らした。どうやら笑っているようだ。
「……ハフナーとかいう人に義理立てしてる?」
魔女は目元をわずかに笑ませ、首を振った。
ティナはジーンを見やった。
「魔女のおばさんと少し話をしたい……」
「危険ですよ」
「これがあるよ」と彼女は剣を魔女に向けた。魔女は怯えたように剣を見て、俄かに身を引いた。
「……危ないと思ったら、こちらも手を打ちますからね?」と彼は念を押した。
「うん」
ティナはそっと魔女の口を自由にした。
「……その剣を下げておくれよ。身体がひりひりする」
「……これ?」
「どんな魔法がかかっているのか知らないけど…… どうやら魔法を無効化するようだね。あたしにゃ破れそうもない」
「そうなの?」とティナ。
「アンタもさっき見ただろ? あたしの火の魔法が吸い込まれるように消えちまった」言いながら魔女はまじまじと剣を見やる。「あたしだって、ちょっとは名の知れた魔女だよ。悪魔と取引をして既に百年以上、とうに人間やめちまったのさ。このあたしが見たことのないような魔法の剣だね」
「……」ティナは興味深そうに魔女を見返す。「……魔法の剣の話を知ってる?」
「初代魔王様の剣は他の者に触れることができなかったとさ」
「うん、聞いたことがある。魔力が強過ぎたの?」
魔女はにやりと笑みを見せた。
「初代魔王様は天界から追放されたんだよ。で、持っていた剣は天界の剣だったのさ。だから配下の魔属性の者は触れることができなかったんだ」
「へえ……」
ティナの脳裏になぜか孤独な後ろ姿が浮かび上がった。配下と言えど、手を取り合うことも難しいのだと思うと、哀れな気がしたのだ。
「なんだか寂しそうだね」と彼女は呟いた。
魔女は苦笑した。
「妙なことを言う子だね。アンタだって同じかもしれないよ? その魔剣を持つ限り、まともな人生なんてものは望めない」
「……」
「それが力の代償なんだよ」
「力の……」とティナは呟いた。「おばさんはどんな代償を支払ったの?」
魔女はその言葉に微かに目を泳がせ…… そして伏せた。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだ、とティナは気付いた。そこに控室のドアを開く者の姿があった。
「ティナ様、バーグマン伯爵がお呼びです。三階の奥の旦那様の寝室においでくださいと……」
「バーグマン?」とティナは思わず素っ頓狂な声を上げ、「ああ、先生のことね」
その様を見てジーンが笑った。
「ははは、ピンと来てませんでしたね?」
「うん、まあ」とティナは笑み返す。「じゃあ、おばさん、もう一度、口を塞がせてもらうね」
「ああ」と魔女は頷いた。
「ダニーとメアは?」とティナがジーンに尋ねた。
「この悪党どもを見ると怖がるんで、向こうにいますよ。キッチンに何か食べる物がないか、漁らせています」
「なるほど、そうだね、おなかも減ったよね」とティナが快活に答えた。「ねえ、おばさん、呪いの呪文を唱え続けないと、効果ないの?」
口を覆われ、手足の自由を奪われた魔女は不機嫌そうに小さく頷いた。
「どうして呪いをかけたの? やっぱりお金?」
ティナのあっけらかんとした問いに魔女は小さく肩を揺らした。どうやら笑っているようだ。
「……ハフナーとかいう人に義理立てしてる?」
魔女は目元をわずかに笑ませ、首を振った。
ティナはジーンを見やった。
「魔女のおばさんと少し話をしたい……」
「危険ですよ」
「これがあるよ」と彼女は剣を魔女に向けた。魔女は怯えたように剣を見て、俄かに身を引いた。
「……危ないと思ったら、こちらも手を打ちますからね?」と彼は念を押した。
「うん」
ティナはそっと魔女の口を自由にした。
「……その剣を下げておくれよ。身体がひりひりする」
「……これ?」
「どんな魔法がかかっているのか知らないけど…… どうやら魔法を無効化するようだね。あたしにゃ破れそうもない」
「そうなの?」とティナ。
「アンタもさっき見ただろ? あたしの火の魔法が吸い込まれるように消えちまった」言いながら魔女はまじまじと剣を見やる。「あたしだって、ちょっとは名の知れた魔女だよ。悪魔と取引をして既に百年以上、とうに人間やめちまったのさ。このあたしが見たことのないような魔法の剣だね」
「……」ティナは興味深そうに魔女を見返す。「……魔法の剣の話を知ってる?」
「初代魔王様の剣は他の者に触れることができなかったとさ」
「うん、聞いたことがある。魔力が強過ぎたの?」
魔女はにやりと笑みを見せた。
「初代魔王様は天界から追放されたんだよ。で、持っていた剣は天界の剣だったのさ。だから配下の魔属性の者は触れることができなかったんだ」
「へえ……」
ティナの脳裏になぜか孤独な後ろ姿が浮かび上がった。配下と言えど、手を取り合うことも難しいのだと思うと、哀れな気がしたのだ。
「なんだか寂しそうだね」と彼女は呟いた。
魔女は苦笑した。
「妙なことを言う子だね。アンタだって同じかもしれないよ? その魔剣を持つ限り、まともな人生なんてものは望めない」
「……」
「それが力の代償なんだよ」
「力の……」とティナは呟いた。「おばさんはどんな代償を支払ったの?」
魔女はその言葉に微かに目を泳がせ…… そして伏せた。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだ、とティナは気付いた。そこに控室のドアを開く者の姿があった。
「ティナ様、バーグマン伯爵がお呼びです。三階の奥の旦那様の寝室においでくださいと……」
「バーグマン?」とティナは思わず素っ頓狂な声を上げ、「ああ、先生のことね」
その様を見てジーンが笑った。
「ははは、ピンと来てませんでしたね?」
「うん、まあ」とティナは笑み返す。「じゃあ、おばさん、もう一度、口を塞がせてもらうね」
「ああ」と魔女は頷いた。
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