謡う魔剣と少女の物語

たまぞう

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第2章 奴隷の兄妹

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 まだ体調が完全ではない公爵ともども、ティナたち一行は夜半を過ぎる時間帯には公爵の居城に戻った。疲れが出たのか、公爵は馬車の中で少し仮眠を取り、到着するとティナたちにも部屋が提供された。
「公爵様が元気になったら、お城もきれいにできるね」とティナはウィルフレッドにこっそり言った。
「この領はかつてミスリルで栄えていたが、廃坑になって傾いてしまった。しかしそれくらいではここまでに至らなかった」とウィルフレッドは古い調度品を見やりながら言った。「十数年前にひどい不作と流行り病が流行ったことを知っているだろう?」
「うん」とティナは頷いた。自分自身の両親を失ったその一大事を忘れることはなかった。「あたしは赤ん坊だったけど、話だけは聞いてるよ」
「あの当時、不作が原因で国庫も火の車だった。だが有志の貴族たちが二十年間の期限で国に対して融資したんだ。ゴルドウィン家もかなりの金額を出している。加えて自領内の領民にも援助しているからな。城の修繕など後回しになったのだろう」
「……そっか…… 貴族も大変なんだね」
 ウィルフレッドは彼女の言葉に頷いた。
「まあな。この国では貴族も大きな責任を担う。貴族が特権ばかりの国は、民衆の不満が溜まって大変なことになる」
「うーん……」とティナは渋い顔をした。
「ははは、お前には難しいか…… 隣の部屋のベッドを借りて、少し休むといい。明日も公爵の体調を診てくれないか?」
「うん」とティナは頷いた。「おやすみなさい」
 ウィルフレッドは部屋を去って行くティナを見送った。物心つくかつかないかの年頃から、今までまるで自分の子供のように面倒を見てきた。
「……どれ、次の町では親の真似事でもしてみるか」と独り言ちた。

 数日ほど公爵の解呪のために屋敷に滞在している間に、ティナは公爵と徐々に親しくなった。最初は緊張していたティナだったが、快活な公爵の話し方に緊張も薄れ、公爵も素直なティナに好感を持った。公爵邸には鉱山で働かされていた使用人たちも戻ってきており、ダニーとメアの兄妹もすぐに打ち解けて仕事を共にした。
「無実の罪を擦り付けられて投獄されていた秘書官もしばらく体を休めてから復帰するそうで、儂も安心した」と公爵はウィルフレッドに穏やかに告げた。「本当に今回のことではいろいろと世話になってしまったな」
「お役に立てて光栄です、閣下」とウィルフレッドは返した。
「お前にも助けられた」と彼はティナに目をやった。「そうそう、後ほどかつてこの城下の鍛冶工房で働いていた者がくるはずだ。また城下で工房を開きたいと申してな。お前の兄の話も聞けるかもしれぬ」
 ティナは表情を明るくした。
「ありがとうございます!」

 鍛冶職人はほどなくして屋敷を訪ねてきた。公爵が仕事の話を終えた後に、彼はティナのもとに歩み寄ってきた。
「初めまして、ボスコークの孫、ティナです」と彼女は緊張気味に自己紹介した。が、職人はおおらかに笑い、
「俺はコルトスだ。いやあ、本当にレナードによく似てるじゃないか!」と肩を叩いた。まだ若いドワーフだ。
「兄ちゃんを知ってるの?」とティナ。
「ああ、知ってるともさ! 以前この城下にあった工房で一緒に下働きをした。真面目で気のいいやつだ! 酒場でハフナーの旦那のところの若い奴に女の子が難癖付けられてたのを助けて、それ以来目を付けられちまって……」
「兄ちゃん、大丈夫だったの?」
「ああ。生前の親方が手を回してくれて、別の町に行ったよ」
 ティナは目を瞬いた。
「どこの町?」
「ディアストラの町だ。その後のことはよく知らないんだが、一度ディアストラで見かけたことがある。声をかけようと思ったんだが……」
「ど、どうしたの?」
「いやあ、別嬪さんと楽しそうに連れ立って歩いていたもんで…… 邪魔しちゃ悪いだろ」と言って彼は笑った。
 ティナは安堵した表情を浮かべた。
「そっか、無事に逃げられたんだね。おまけに女友達って。兄ちゃん、やるな!」
 コルトスは明るく笑い声をあげた。
「ほんのちょっと前の話だ。今もディアストラにいるかどうかはわからないが、幾つか工房を当たれば知っている奴もいるだろう。直に会えるだろうさ!」
「うん、どうもありがとう!」と彼女は笑み返した。「あたしたち、明日にはこの町を発つつもり。ディアストラに行く予定だったから、兄ちゃんのことも探してみるね!」
「ああ、会えたらコルトスがまた飲みに行こうと言ってたと伝えてくれよ」と言い残して彼は去って行った。
「レナードの消息もわかりそうだな?」
 背後のやや離れたところでやり取りを聞いていたウィルフレッドが言った。
「うん、無事にしているみたいで、本当に良かった」とティナ。
「ああ。レナードの顔は儂が憶えているから、人違いをすることもないだろう。直に見つかるに違いない」
 ティナはその言葉に明るい表情で大きく頷いた。

 翌早朝、ティナとウィルフレッド、ジーンは旅支度を整え、それぞれの馬を伴って公爵邸の門の前にいた。
「騎士団長…… いや、ゴールドマン伯爵よ、旅の帰りにはぜひ寄ってくれ。ティナにもささやかな礼をしたい」
 公爵の言葉にティナは慌てた。
「あ、いえ、そんな、公爵様、どうかお気になさらないでください」
 そんなティナの肩を軽く叩いたウィルフレッドは、
「お言葉に甘えて。帰りにはぜひお邪魔させていただきます」と応じた。公爵ははつらつとした笑みを見せた。
「旅の安全を祈っているぞ」
「ありがとうございます」と彼らは口々に返した。
 ティナは少し離れたところに立っていたダニーとメアの兄妹、そして悪党から解放された公爵邸の使用人たちに歩み寄った。
「ダニー、メア、元気でね。帰りにはもう一度お屋敷に寄るからね!」
「ああ、本当にありがとう、ティナ。あんたのその不思議な剣のおかげで、俺たちも助かったよ」とダニーが言うと、メアはティナに飛び込むように抱擁した。
「ティナ! ありがとうね! また遊びに来てね!」
「うん。仕事、頑張ってね、二人とも」
 ティナがほかの使用人たちを見ると、彼らも穏やかに頷いていた。この兄妹はこの屋敷の使用人として立派に働いていけるだろう。

 朝の陽光は穏やかに旅立つ三人の背中を照らし、公爵と使用人たちはその背に旅の安全を祈った。
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