不運が招く人間兵器の異世界生活

紫苑

文字の大きさ
17 / 247
第一章

16.怒声と正式就任と訓練

風の加護は剣を振ることで俺に向かってきた。この風は「鎌鼬」のようだ。
その風を俺は手のひらで受け止めて、消し去った。
もちろん無傷だ。精霊の加護を理解出来ない力など俺にとっては塵に等しい。
会場はその光景に固まるが、俺は逆に動き、相手の腕を取り、背負い投げ。
あ、やべ、やり過ぎた!
相手の身体を闘技場の壁までぶっ飛ばしてしまったのだ。
もちろん相手は無傷ではなく、挙げ句意識も飛んでしまったようだ。
大変申し訳ないことをした。
「いやはや、やり過ぎた・・・・・・・」
俺はその第二騎士団長オークレイだっけ?に一瞬で駆け寄り、治癒術をかける。このくらいの術ならば、副作用は現われない。
飛んでしまった意識も戻してやる。
「っ!!!おま、な、な、な、何者なんだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
恐怖の色を含んだ絶叫が闘技場に響き渡る。
そんなに怖がらなくてもよくないか?
俺が「ほれ」と手を差し伸べても、手を取ろうとせず、後退しようとするが壁しかないので叶わず。
どうしようかと思っていると肩をポンと叩かれ、振り向くとジオルドが「ほらみろ」という清々しい表情で、
「スイの実力がわかったようだな。では、全員でスイを倒すぞ!かかれっ!!!」
その号令とともに俺を侮っていた騎士団長たちは表情を引き締め、攻撃をしかけてくる。
しかし、それでも俺には勝てない。
つか、ジオルド!てめー俺は今何の武器も持ってないんだよっ!
お前は俺をどうしたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁつ!
と、思うのも束の間、あっという間に体術だけで全員を伸してしまった。
拍子抜けなのと、あとは、
「こんの腰抜け共がぁぁぁぁぁっ!何だこの体たらくはっ!それでも騎士かっ!!!何のための肉体だっ!その綺麗についた筋肉はただの飾りかっ!!」
闘技場が俺の怒号により木霊とともに揺れる。
「精霊たちよ、暫くこの者たちから去ってくれるか?俺が君たちに相応しい騎士に育てる。それまで待ってくれないか?」
倒れている騎士たちの周りを心配気に飛んでいた精霊たちに語りかけると、『いいよ、君の頼みなら』と素直に応じてくれたのだ。
そして、倒れている騎士たちから加護は消え去ったのだ。
加護は消え去ったけど、加護を与えていた精霊たちは何故か俺の傍から離れない。
「ん?自由に遊んで良いんだぞ?」
『いいえ、お兄さんが頑張っているのに、私たちだけ遊べないわ~』
先ほどとは違う精霊が話しかけてくれた。と、言いつつ俺の肩に止まって髪の毛をいじったり鼻歌を歌ったり、好き放題だ。
「は~。貴方たちに加護を与えていた精霊たちは俺が預かる。というか、俺から離れない・・・・・・。なので、この精霊たちに報いるよう努力をしろっ!」
『きゃ~~~お兄さん格好いい!!!ちゅっ☆』
頬に小さなキスを戴きました。あ~~~嬉しい、和む~~~~。
「スイ・・・・・・、私たちはこれからどうしたらいいのだ?」
ジオルドが俺に問いかける。
それはそうだろう、どう訓練したら良いのかわかるはずないのだから。
「殿下たちの動きは重心を定めることに重きを置いていない。筋力はあってもそれは剣を、加護を使う用の筋肉で、本来の力を引き出す体力などが根こそぎない。殿下たちに比べて俺は細いだろう?だけど、何故強いか。それは力の主体である重心の大切さを理解しているからだ」
「重心を必要とする体術はある程度皆使えるが」
「それでは甘い。剣の捌き方一つ見ても、重心が据えるべき箇所に定まっていないから、剣先がぶれる。まず、明日から10キロを朝晩走り体力を付けて体幹を鍛える。俺も付き合う。時間が空いた時は、重心の定め方を教える。これが出来て、初めて殿下たちに加護を返そう。あとは、個別指導だな」
俺は一人一人の力の分析を始める。一番早く精霊の加護を戻せそうなのが、多分第一騎士団団長だろう。名前はまだ知らない。
あれだけ甘いトマトを作れるのだ。精霊は彼を本当に愛しているのだろうことは明確だ。そして、一番遅いのが先ほどのアホの第二騎士団長オークレイだろう。精霊は一番早く彼を見放した。
一体彼は精霊の存在をどう思っているのだろうか。
まずは、
「ごほんっ!的確な意見感謝する、スイ殿。これをもって正式にスイレン・フウマを第四騎士団団長に任命する!異論は認めん!よいな!」
「「「はっ!!!」」」
倒れていた騎士団長たちも起き上がり忠誠の礼をとる。無論俺もだ。


そして、第一から第四までの殿下及び騎士団長・副団長、そして王族一族がただっ広い箇所に会した。この部屋は豪華ではないにしろ、使用されている物が超一流で、壊すことがないよう細心の注意を払う。
「では、先ほどの件についてだがスイ殿、彼らは加護を全く使えないのか?」
王族がテーブルに付く中、俺たち騎士団はそれぞれの殿下の後ろに控える。
「はい、不都合などございましたら訓練以外では精霊たちに戻って貰うよう頼むこともできます。しかし、それではいつまでも成長はしません。先ほどのことからいかに加護に頼り、精霊を蔑ろにしているかがわかりましたから」
「そうか。ならば、そのままで良い。で、その期間はおおよそどのくらいだ?」
「ひと月ほど戴けたら彼らを今まで以上に強くできます」
「ひと月か・・・・・・・・」
王は考える素振りを見せ、そして、集う王族たちに問うた。
「私はひと月後、バーミリアを制圧しようと考えておる!国間で決められていた召喚を勝手に行い、召喚者を蔑ろにし、そして、森を汚し、生き物を死の淵まで陥れ、民を苦しめ死なせている国を放置するわけにはいかん!バーミリアを制圧し、属国とする!皆の考えはいかに?」
陛下は威風堂々と宣言する。意見を求めていながら、誰も否定できない言い方。だが、誠実さがわかる。
この王は、『生きる物』が基準であって、『自分』を一番に見ていないのだ。王にあって王にならざるこの清き心。だからこそ、子供たちは素晴らしい加護を得ているのだろう。
ジオルド、ジルフォードの他の殿下の精霊の加護も素晴らしく綺麗で強い。だが、弱い。矛盾しているがその表現が正しいのだ。精霊の声が聞こえない以上は・・・・・・。
「では、制圧までのひと月は各々励め!良いな!」
「「「はっ!!!」」」


「スイ、待ってくれ。渡したい物がある」
「ジルフォード殿下。渡したい物とは?」
「これだ」
俺の目の前に小箱が差し出される。指輪が入っていそうな豪奢な箱だ。一体何があるのだろうか?
ジルフォードが開けるとそこには黒い宝石が付いたピアスがある。俺は宝石については詳しくない。
「これはブラックダイヤだ。騎士団団長を務める物には王子からその団色のピアスを渡すしきたりがある。付けてはくれないか?」
『つけてあげて。この子の覚悟受け取ってあげて』
ジルフォードの傍にいる精霊が俺に切に願ってくる。本当に大切にされているんだな、精霊に。
「喜んで、頂戴いたします」
元々開いていたピアス穴に装着すると、何故か身体が温まる。
「ありがとう、受け取ってくれて。内心怖かったんだ」
「俺は貴方の騎士になったんですよ?命令でもすればいいことです」
「それでは駄目だ!お互いの意志を尊重しないなどあってはならないのだ!」
な、何か凄い力説です。どうしたんでしょう?
「あの戒めだって俺の意志とは無関係にされた!私は同じ事をしないように勤めたいのだ」
ああ、本当にこの人は優しいのだ。外に出ていないから汚れてもいない、擦れてもいない。だから、精霊たちは『心配』で愛しているのだ。
護る人がこの世界でまた増える。俺の手でどれだけの人が護れるのだろうか・・・・・・。
そもそも俺は護れるのだろうか。
ジルフォードはまだ王族たちとの話があるので、部屋に留まるが、俺はアルバートたちと部屋を辞した。
退出すると第一騎士団の団長・副団長、第二騎士団の副団長が待ち構えていた。
「挨拶をしていなかったから貴殿を待っていた。私は第一騎士団団長、レオンハルト・アラベスク。隣が」
「副団長のユーステス・ロッテです。よろしくお願いいたします」
「私は第二騎士団副団長ヴォルフ・ミルバートンです。先ほどは団長が大変失礼をいたしましたこと、代わりにお詫びいたします」
三人の態度は俺に対して全く敵意を感じない。
「俺こそ貴方たちの力を勝手してしまい申し訳ない。だから、絶対に強くさせる!」
フンスッ!と鼻息荒く伝えると、レイフォードが「ぷっ」と小さく吹き出し、それが合図となり皆で笑ったのだ。
「立ち話も何だから、第三の執務室に行こう」
「そうですね。美味しい茶葉も手に入りましたし」
「では、そうさせてもらおう。今後の話もあるからな」
「団長が行かれるのでありましたら俺も行きます。ヴォルフも行こうぜ?どうせあの団長は部屋に戻っていないんだろうし」
「だろうな。俺も行って強さの秘訣などを聞き出す!」
この時第二団長があまり皆に好まれていないことは、雰囲気で理解した。その理由が、過去に起きた事件よるものだとは俺が副官を得る時に知ったのだ。
感想 6

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。