政略結婚ですが何か?【完】

mako

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謝罪

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エイドリアンは急ぎエマニュエルの私室に向かい扉を開けるとシルヴィアが驚き目を見開く。


『王女は?』

珍しく声を上げるエイドリアンは部屋を見渡す

『出掛けたのか?』


シルヴィアは

『王女は何も言わずにお出かけになる事はございません。』


『ならばどこに居る?』

シルヴィアは軽く睨み付け


『離宮の奥の花壇かと。』

『花壇?何故あのような所へ?』

シルヴィアは真っ直ぐにエイドリアンを見て

『王女は手入れの行き届いているバラ園よりも自然に咲く野花を好まれますので。』


シルヴィアの返答を最後まで聞き終わる前にエイドリアンは花壇へ走り出した。


離宮の奥まで来るとエマニュエルが花壇の前に座り込んでいた。エイドリアンはエマニュエルの頬を伝う一筋の涙を確認すると敢えてエマニュエルの後ろ側に回り静かにエマニュエルに近づいた。


『エマニュエル王女。』

エマニュエルは声の主を把握し笑顔で振り返る。


『あら、殿下。こんな所までいかがされました?』

いつものエマニュエルである。


『君こそどうした?』

エイドリアンがいつもの様に笑顔で話すと

エマニュエルは花壇の花々に癒やされるように笑顔で語りだした。


『殿下、私の話に耳を傾けて下さいますか?』

エマニュエルの言葉にエイドリアンは心が痛みながらも笑顔で返す。

『もちろん。』


『私たち姉妹は実は仲が良くないのです。お姉様は私のことが大嫌いかと思います‥。お姉様は幼き頃より大王国の王妃になるべく育てられ、大変な努力をなさっておりました。その努力で現にアリア大王国の王太子妃となられました。私はお姉様の努力を誰よりも知っておりますのでそれは嬉しく思っておりました。』


黙って頷くエイドリアン。


『しかしそうも言ってられなくなりましたの。大陸の均衡を保つべく、ラダン大王国が第2王女を求める事となりました。もちろんそれは私も理解しております。ですがお姉様はまた妹である私と対比されますので穏やかではおられません。そして私とてそんなお姉様を、思いながらも逃げる訳には参りません。何故なら私もリントン王国の王女ですから。』


エイドリアンはエマニュエルを案じながらも黙って聞いている。


『大陸2大勢力がこのまま繁栄が続く事が何よりではありますが、恐らくそうも参りません。それはラダン大王国よりもアリア大王国の方がその思いは大きいかもしれません。ですが私がこの国に嫁ぐからにはアリア大王国に劣る訳にはいかないのです。もちろんお姉様も同じ思いでしょう。

私は代々続く王族の血を持つ者として己の思いを殺してでも前を向かなくてはならない。そんな思いでこちらに参りました。』


エマニュエルからはいつしか笑顔が消え、小さく震えているようにみえた。

『これは己の定め。この国の為に。私は全身全霊で尽力する為に‥』

一言一言噛みしめる様に話すエマニュエルの頬には涙がこぼれ落ちている。エマニュエルは拭う事もせず真っ直ぐエイドリアンを見つめた。


『要らないなら私をお捨て下さいませ。』


その重い言葉にエイドリアンは雷にうたれたように目を見開き固まった。


しばらくの沈黙の後エイドリアンはやっと言葉を発する事が出来た。


『すまなかった。全ては私の力の無さ。君の言う通り我が国が怠惰であった。』

エイドリアンがエマニュエルを真っ直ぐに見て答えた。

『そして貴女のその覚悟を踏みにじる事になった事、全て私の責任だ。申し訳ない。』

エイドリアンはエマニュエルに跪き頭を垂れる。


王太子のその姿にエマニュエルは驚きそれには答えずエイドリアンに背を向けた。

『約束して下さいますか?』


エマニュエルの問にエイドリアンは


『約束する。君を信じ、守ると。』


エマニュエルは振り返り

『いいえ、私を信じなくても守らなくても結構です。ですがどんな時も真実を諦めず、最善の道を歩んで下さいませ。

時に私が間違いを起こした時は妻だからと守らず律して下さい。公正に罰して下さい。そしてこの国の繁栄を止める事無く前にお進み下さいませ。』


穏やかに語るエマニュエルにエイドリアンは静かに答える。


『分かった、約束する。』


エイドリアンはこのような女性いや人間を見た事が無かった。保身とは縁遠く真っ直ぐな人間を。目の前のエマニュエルがあまりに眩しく輝かくのを直視出来ない自分に気づいた。エイドリアンはリントン王国第2王女を王太子妃とする事に迷いはもうどこにも無かった。

それがラダン大王国の王太子としてなのか、一人の男はとしてなのか、エイドリアンには分からなかった。

ただこの王女を離してはならぬそれだけは確信していたのである。






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