『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか?【完】

mako

文字の大きさ
37 / 72

王太子夫妻のひと時

しおりを挟む
謁見の間の前には、謁見の間で王族と謁見するまでの時間を待つ部屋が幾つもある。言わば順番待ちの部屋である。


その小さな部屋に前代未聞、王太子と王太子妃が並んで椅子に腰をおろしていた。


…。


…。


案の定5分と保たないうちにアレクセイはため息とともに立ち上がると扉の向こうに控える衛兵に声を掛けた。


『悪いが茶を頼む』


順番待ちの部屋にはもちろん侍女などいない。申し訳なさそうに言うアレクセイに衛兵は頭を少し垂れると急いでその場を後にしようとした。


『待て。悪いが────も頼む。』


小声で付け加えると衛兵は小さく微笑み急ぎ足でその場を後にした。



アレクセイは部屋に戻るとヴィクトリアの前に腰を下ろした。


ヴィクトリアは一人で何やらブツブツと呟きながら首を捻ってみたり怒りをあらわにしたりと忙しそうである。アレクセイはその様子を黙って観察している。その視線に気づいたのか気づいてないのかヴィクトリアはアレクセイに鋭い視線を投げつけた。


『殿下!』


いきなりの飛び火に少し後のめりになると


『おかしくないですか?何がどうしたら我々が謁見の間から締め出されているのですか!そもそも何故王女は私を鬼の形相で睨みつけるのですか?』


さあ、答えて!とでも言いたげに両手を広げるヴィクトリアにアレクセイは1つずつ丁寧に答える。


『うん、おかしいのは間違いない。私はこの歳までここに入った事などないからね?あちらで迎え入れる立場だから。』


大きく頷くヴィクトリア。


『そして何故かは…隣国の王太子兄妹が何やら込み合った話があるとかで…もちろん非公式で勝手にやってきたんだからそれこそ彼らがここを使えば良いのだが、あの王女の話から逃げ出すにはこれしか無かったから?かな。』


激しく同意するヴィクトリア。


『鬼の形相で睨みつけるのは…なんだろう?君がハロルド殿下に告げ口したとでも思ったのかな?』


ヴィクトリアは驚いたように


『告げ口なんていつしましたか!んな事するわけないしそもそもそんなルートないわ!』


『待て待て、落ち着け。あくまで私の見解だから!で?ヴィクトリアは何故私を睨みつけたのだ?』



いきなりの問にヴィクトリアは平然と


『そりゃ怒りを周囲に撒き散らす訳にはいきませんからね?夫である殿下にしか当たり散らせませんもの。』


大概勝手な言い分ではあるが…何故かアレクセイは顔を赤らめている。


…?


『お待たせしました。』


ノックとともに掛けられた言葉にアレクセイは短く応える。


『入れ』


運ばれてきたのはこの部屋には似つかわしく無い豪華な茶菓子とお茶が運ばれてきた。

色とりどりのマカロンがお皿に並び楽しそうである。それに見惚れるヴィクトリアもまた楽しそうに眺めセットされるのを嬉しそうに見つめていた。


先ほどまでの怒りはどこへやら。ヴィクトリアは上機嫌で小さなお茶会を楽しんでいる。


『殿下も召し上がりましょうよ。気分が上がりますわよ?』


アレクセイはにっこり微笑みながら


『ありがとう。後で頂くよ』


カップのお茶を優雅に飲みほした頃レイモンドから声が掛かりアレクセイはヴィクトリアに1つ頷き謁見の間へと向かった。ヴィクトリアもまた席を立つと衛兵を呼び小声で


『ごめんなさい。貴方にお願いする事ではないのだけど…あそこのマカロンを王太子執務室へ届けておいてくださる?』


…?不思議そうにヴィクトリアを見る衛兵に

『せっかくご自分でお願いしたのに召し上がる暇もなくて…』


これまた衛兵は不思議そうにヴィクトリアを見ながら


『殿下はマカロンは召し上がりませんよ?何でもあの食感が苦手なようですから。』


…?


『殿下がリクエストされたんでしょう?』


『はい。殿下は妃殿下の好物をとの事で…ですからお持ちしなくても…』


ヴィクトリアの顔を申し訳なそうに見るとヴィクトリアはこれまた申し訳なさそうに


『そうね、呼び止めてしまってごめんなさい。』


何故か真っ赤になりながらアレクセイの後を追った。


…そんなに不機嫌そうに見えたのかしら?


ご機嫌取りなどされた経験の無いヴィクトリアは戸惑いながら謁見の間の扉を開いた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...