『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか？【完】

束の間の息抜き

ヴィクトリアは吹っ切れたかのように執務に没頭する毎日を送っている事に側近のレオンは安堵していた。


『妃殿下、たまには息抜きでもされてはいかがですか？』

朝から晩まで執務室に籠もるヴィクトリアを案じてレオンがお茶を差し出した。

…。


レオンの言葉が耳に入っていないヴィクトリアを見つめながら


…加減というものを知らぬか？妃殿下は。


レオンは再度


『妃殿下！』


ヴィクトリアは驚いたように顔を上げると凝視するレオンに対し


『ご、ごめんなさい。何だったかしら？』


差し出されたカップを笑顔で受け取ると幸せそうに口を付けた。


…どんだけ執務が好きなんだよ。


『ですからたまには息抜きでもと…。もちろん王宮から出られては困りますが、この広い王宮には息抜きをする場所など幾らでもありますよ？』


ヴィクトリアは少し考えながら伸びをすると

『そうね、ここで書類と格闘してばかりでは眉間にシワが深く刻まれますものね。レオン、ありがとう。』


目の前の書類を確認しながら

『急ぎのものは無さそうだし午後からは図書室でゆっくりしようかしら。』


…まだ活字を読むのか？


レオンは同じく眉間にシワを刻みながらも頷いた。






『いいですか？くれぐれも…』


レオンの言葉を遮るようにヴィクトリアは

『分かってるわ、王宮からは出るな！でしょう？そんなに心配しなくても大丈夫よ。それにね王宮の門を誰もやすやすと通してはくれないでしょうに。』


ヴィクトリアは書類を片付けながらレオンに言うと


『何か急ぎの案件が出てきたら呼びに来てちょうだいね。』


弾むように出ていくヴィクトリアの背中を見送りながら小さく微笑んだレオンであったが、この時はまだこれから起こる騒動など知る由もなかった。