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王太子の心とエマニュエル
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「お前にはわからないかもしれないが、王太子というのは時に疑心暗鬼に囚われるんだ」
黙って頷くフリードリヒを、側近たちは盗み見た。
「どこの国でも王太子になれば、狙う者は多い。王太子妃の椅子は一つ。それを得るために貴族は躍起になる。皆、王太子が大好きなんだ」
…えっと?
「だけどね、それは王太子が好きなだけで、わたし個人にではない」
…。
「王太子という鎧を取っ払って見てくれる貴族なんていない。そんなことを望むなら、さっさと廃太子になって平民になるしかない。だけどね、エマニュエルは違った」
…んなアホな。
テオドールはミハエルの隣に立つエマニュエルに視線を移す。
エマニュエルは小さく微笑み、ミハエルを見つめていた。
「彼女との出会いは、たまたま視察で出かけた教会だったんだ。もちろん貴族令嬢がいるなんて思いもせず、ただよく働く娘だと思ってたよ。何度か足を運ぶうちに――」
…恋したってか?
テオドールはベタな話の展開に、思わずミハエルを見た。
「怒られたんだ」
…?
「怒られた?お兄様が?」
ミハエルはクラリスの言葉に嬉しそうに応える。
「そう。私が。たまたま幼い子どもが目の前で転んだんだ。その子はなかなか泣き止まず、私はポケットのキャンディを差し出そうとした――その時にね…」
懐かしむようにエマニュエルを見ると、エマニュエルもまた懐かしむように微笑む。
「そうでしたわね」
「その時、私はエマニュエルを鬼のような女だと思った(笑)」
頷きながら微笑むエマニュエルに、ミハエルは続ける。
「でも彼女は正しかった。それから何ヶ月か経った頃、彼女は言ったんだ。『あの時は申し訳ありませんでした。ただ身寄りのない子どもたちは、いつでも手を差し伸べてもらえるわけではない。己の力で立ち上がらなければならない』と。
さらに、『その子だけがキャンディを貰ったら、見ている他の子どもたちはどう思うのか』まで考えて行動していた。私は頭を鈍器で殴られた気分だったよ。己の目先だけを見た行動を恥じたね」
首を振りつつ微笑むエマニュエル。
「その手を差し伸べていただけで、彼にとって拠り所になったことでしょう」
「それからずっと後になってから知ったんだ、教会でボランティアをしている娘が貴族令嬢だって。知ったら最後、獲りにいくしかないでしょう?ね、テオドール」
…?なんでまた俺?
テオドールは短く頷くしかなかった。
「…お兄様、案外ロマンチックなんですね」
せっかくの耳心地よい話の最中、クラリスが口を開いた。
…おいおい、空気読めよ。
テオドールは隣のクラリスをチラリと見るが、クラリスはご機嫌斜めだ。
「王族として生まれながら、ご自分だけ政略結婚を免れるなんて、驚きですわ!」
プイっと顔を背けるクラリスに、ミハエルは笑う。
「クラリス、私は自分だけというつもりはない。クラリスの婚儀だって、可能な限りお前の意思を尊重したつもりだ」
フリードリヒは驚いたようにクラリスを見る。
「そんな覚えありませんわよ」
ミハエルはニヤリ。
「言わなくても分かるよ。クラリスはわかりやすいからね」
テオドールだけでなく、隣のフィリップスも頷く。
「私がランズ王国へ嫁ぎたいと?」
「いいや、でもね、三国へ留学に渡り、唯一フリードリヒ殿の話だけが晩餐に上がったよね?」
フリードリヒは嬉しそうに聞き入り、
「まぁほとんど悪口だったけどね?」
がっくりと肩を落とすフリードリヒと側近二人。
「でもクラリスは結婚に夢を抱いてなかった。それだけでなく、王女としての未来を悲観するかのように流されるままだった。そのお前が、自分の意思を思いのまま吐き出す姿を、私は初めて見たよ。その姿がね、出会った頃のエマニュエルと重なったんだ」
…。
「私もね、エマニュエルからしたら第一印象最悪だったらしいけど(笑)」
フリードリヒは苦笑いを作る。
「でも逆に言えば、最大の関心ということ。無関心ほど悲しいものはないからね?」
…驚くほどポジティブ。
テオドールは隣のクラリスを見やり、ある意味尊敬する視線を送ると、クラリスは真っ赤な顔をして俯いた。
「まぁ、お兄様とエマニュエル様がお幸せなら、私は安心しました」
手で顔を仰ぎながら話すクラリスに、ミハエルは微笑む。
「そう?ではこのあとの夜会も楽しんで行ってね」
幸せそうに笑う二人を、クラリスはどうにも複雑な表情で見つめるしかなかった。
黙って頷くフリードリヒを、側近たちは盗み見た。
「どこの国でも王太子になれば、狙う者は多い。王太子妃の椅子は一つ。それを得るために貴族は躍起になる。皆、王太子が大好きなんだ」
…えっと?
「だけどね、それは王太子が好きなだけで、わたし個人にではない」
…。
「王太子という鎧を取っ払って見てくれる貴族なんていない。そんなことを望むなら、さっさと廃太子になって平民になるしかない。だけどね、エマニュエルは違った」
…んなアホな。
テオドールはミハエルの隣に立つエマニュエルに視線を移す。
エマニュエルは小さく微笑み、ミハエルを見つめていた。
「彼女との出会いは、たまたま視察で出かけた教会だったんだ。もちろん貴族令嬢がいるなんて思いもせず、ただよく働く娘だと思ってたよ。何度か足を運ぶうちに――」
…恋したってか?
テオドールはベタな話の展開に、思わずミハエルを見た。
「怒られたんだ」
…?
「怒られた?お兄様が?」
ミハエルはクラリスの言葉に嬉しそうに応える。
「そう。私が。たまたま幼い子どもが目の前で転んだんだ。その子はなかなか泣き止まず、私はポケットのキャンディを差し出そうとした――その時にね…」
懐かしむようにエマニュエルを見ると、エマニュエルもまた懐かしむように微笑む。
「そうでしたわね」
「その時、私はエマニュエルを鬼のような女だと思った(笑)」
頷きながら微笑むエマニュエルに、ミハエルは続ける。
「でも彼女は正しかった。それから何ヶ月か経った頃、彼女は言ったんだ。『あの時は申し訳ありませんでした。ただ身寄りのない子どもたちは、いつでも手を差し伸べてもらえるわけではない。己の力で立ち上がらなければならない』と。
さらに、『その子だけがキャンディを貰ったら、見ている他の子どもたちはどう思うのか』まで考えて行動していた。私は頭を鈍器で殴られた気分だったよ。己の目先だけを見た行動を恥じたね」
首を振りつつ微笑むエマニュエル。
「その手を差し伸べていただけで、彼にとって拠り所になったことでしょう」
「それからずっと後になってから知ったんだ、教会でボランティアをしている娘が貴族令嬢だって。知ったら最後、獲りにいくしかないでしょう?ね、テオドール」
…?なんでまた俺?
テオドールは短く頷くしかなかった。
「…お兄様、案外ロマンチックなんですね」
せっかくの耳心地よい話の最中、クラリスが口を開いた。
…おいおい、空気読めよ。
テオドールは隣のクラリスをチラリと見るが、クラリスはご機嫌斜めだ。
「王族として生まれながら、ご自分だけ政略結婚を免れるなんて、驚きですわ!」
プイっと顔を背けるクラリスに、ミハエルは笑う。
「クラリス、私は自分だけというつもりはない。クラリスの婚儀だって、可能な限りお前の意思を尊重したつもりだ」
フリードリヒは驚いたようにクラリスを見る。
「そんな覚えありませんわよ」
ミハエルはニヤリ。
「言わなくても分かるよ。クラリスはわかりやすいからね」
テオドールだけでなく、隣のフィリップスも頷く。
「私がランズ王国へ嫁ぎたいと?」
「いいや、でもね、三国へ留学に渡り、唯一フリードリヒ殿の話だけが晩餐に上がったよね?」
フリードリヒは嬉しそうに聞き入り、
「まぁほとんど悪口だったけどね?」
がっくりと肩を落とすフリードリヒと側近二人。
「でもクラリスは結婚に夢を抱いてなかった。それだけでなく、王女としての未来を悲観するかのように流されるままだった。そのお前が、自分の意思を思いのまま吐き出す姿を、私は初めて見たよ。その姿がね、出会った頃のエマニュエルと重なったんだ」
…。
「私もね、エマニュエルからしたら第一印象最悪だったらしいけど(笑)」
フリードリヒは苦笑いを作る。
「でも逆に言えば、最大の関心ということ。無関心ほど悲しいものはないからね?」
…驚くほどポジティブ。
テオドールは隣のクラリスを見やり、ある意味尊敬する視線を送ると、クラリスは真っ赤な顔をして俯いた。
「まぁ、お兄様とエマニュエル様がお幸せなら、私は安心しました」
手で顔を仰ぎながら話すクラリスに、ミハエルは微笑む。
「そう?ではこのあとの夜会も楽しんで行ってね」
幸せそうに笑う二人を、クラリスはどうにも複雑な表情で見つめるしかなかった。
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