公爵令嬢の出来る事【完】

mako

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フリードリヒ・ルーゼンベルク

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フリードリヒは、戸惑っていた。

もっとも、それを顔に出すことも、言葉にすることもない。
だが、内心では確かに、困惑していた。

第八妃――チェチーリア・アルストメリア。
その名を聞いたときも、その姿を初めて謁見の間で見たときも、彼の中に生まれた感情は「何もない」だった。

興味もなければ、期待もない。
それは第一妃であれ、第二妃であれ、何も変わらなかった。彼女たちがいかに高貴な血を引いていようと、どれほど洗練された教養を備えていようと、フリードリヒにとっては――ただの政略の駒にすぎなかったのだ。

美しさも、教養も、名声も、忠誠も――帝国という巨大な歯車の中で、誰か一人の女が持ち得る価値など、たかが知れている。

では、なぜこんなにも「数字」を重ねなければならないのか。

八人目。
本当に必要なのか。
それとも、誰かの自己満足か、旧い伝統の惰性か。
それを求められるたび、フリードリヒは心のどこかが冷えたように静まっていった。

妻など、もはや自分にとって意味のない存在だった。

「――だが」

つぶやいた声は、空気に溶けて誰にも届かない。
窓の外、遠く霞む帝都の街並み。その中で、今まさに“第八妃”が庶民の中に混ざって視察をしているという。
孤児院だの、市場だの。誰にも命じられたわけではない。
彼女が自ら望んで、動いたのだ。

妃とは、飾られるもの。閉ざされた庭園の中で、美しく微笑み、外の世界とは隔絶された場所にいればよい。
帝国の妃とはそういう存在だったはずだ。

それを、彼女は破った。

勝手に、自然に、あるいは無邪気に――。
それが計算か、理想か、ただの暇つぶしか、まだ分からない。

「……やっかいな女だ」

再び呟いた言葉には、今度は少しだけ色が混ざっていた。
それが苛立ちなのか、関心なのか、自分でも分からない。

レイモンドが言っていた。

『火がつくよ。彼女に、そしてお前に』

そんなことが、あるはずがない。
――だが、どこかで「もしも」と思ってしまった自分がいた。

フリードリヒは、窓辺から目を離し、静かに背を向けた。
その背中に、王としての威厳は揺るぎなくあるはずだった。
だが、心の奥に、ほんのわずかな違和が残っていた。

そしてそれは、彼がまだ知らぬ物語の始まりだった。
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