冷酷皇帝とお花畑妃殿下

mako

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エマニュエルの後悔

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翌日、エマニュエル側近が息を切らして執務室に飛び込んできた。


『殿下!皇后陛下が!』


『騒がしいな、どうした?』


『…。』


エマニュエルが側近を睨みつけると

『皇后陛下が服毒されたと事でございます!』


エマニュエルは立ち上がると


『息は!息はもう果てたのか?』


『すぐに解毒処理は済ませたそうなのですが、』


『ですが何だ?』


声を荒げるエマニュエルに


『まだ意識はございません。今夜が峠だと…』


側近の話を聞き終わる前にエマニュエルは離宮へと向った。


どうかしていた。どうかしていたのだ。品行方正と言われてきたエマニュエルが、己を忘れ皇后をはけ口にして苦しめていることは自覚があった。皇族、王族ともに国家に身を預ける身、あまりにも実直にその立場とやらを守り続ける皇后に腹を立てた。昨晩の事を思い浮かべながらエマニュエルは離宮へと急いだ。


ベッドで眠るように瞳を閉じている皇后を目の前に不謹慎ながらもこれほど美しい女性であったのか?

日々、酷い仕打ちをしてきた張本人であるエマニュエルは皇后の顔すらまともに見ていなかったのだ。

侍女らを下がらせエマニュエルは皇后の瞼か開かれるのを待った。2度と開かれる事が無いかもしれないがエマニュエルは唇を噛み締めながら皇后を見つめていた。


皇后のベッドの横に置かれるチェストには皇帝であるエマニュエルの肖像画が幾つもの並べられている。

それだけで何もわからず南帝国に嫁ぎ、それでも幸せを夢見ていたのが見て取れる。どこまでも己の王女としての勤めを堅実に果たそうとしていたのか…



エマニュエルは広くはない部屋をぐるりと見渡した。皇后の私室に入るのは初めてであった。華美ではなくあまりにも殺風景な部屋に驚きながらチェストを開けると何枚もの手紙が入っていた。それらは1度も届けられる事の無かったエマニュエル宛のものであった。


そこには皇后の心の声が溢れていた。離宮でのんびり暮らしているはずの皇后がエマニュエルの仕事を案じていたり、エマニュエルが長く宮を空ける際に無事の帰還を祈祷したハンカチ、それにグランチェスタの紋章が刺繍されている。あまりの美しさにオーダーしたような出来栄えである。



…何故ここまで。


エマニュエルには理解が追い付かなかった。あれほど酷い事をしていた自分に向けられた想いに気付く事なく過ごしてきた。いや気づいていたけれど気付かないフリをしてきたのかもしれない。


エマニュエルは自分だけに向けられる愛情とやらを知らない。皇太子としてのエマニュエルに向けられるものはあっても、ただの1人の男としてそれを受けた事が無い故、怖かったのだ。それがどんなものなのかもわからない。得体の知れない物がとてつもなく恐ろしく感じていたのだ。

だからこそ皇后と距離を取っていたのかもしれない。その得体の知れないものがこれほど感情を揺さぶる温かさを持っていたと知っていたならば結果は違っていたかもしれない。そう思うとエマニュエルはただただ皇后の意識が戻るのを祈るようにして待ち続けた。


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