たまたま王太子妃になっただけ【完】

mako

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約束

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アナリス王宮にも早々に勝利の一報が届けられた。

歓喜を挙げる王宮、オリヴィアは状況を把握するまでに時間を有した。

アナリス大王国に仕える者たちとは異なりオリヴィアは既に降伏しているジュリラン大王国の王女として長い時間を過ごしていたのだ。それにアレクセイの話した帝国を食う。つまりフランツ帝国征服などジュリラン大王国で育ったオリヴィアにとっては、夢物語である。あまりのスケールの大きさに心の中ではアレクセイの独りよがりではとの懸念も抱いていたのが事実だ。


それでも己の身はどうなっても構わないがアナリスの民を思うとこの数日、心が折れそうになっていたのである。しかしアナリスの民らは少しとして主を疑う事無く全力で支持をしていた。何も分かっていなかったのは自分なのだとオリヴィアは目の前の現実を客観視していた。


『妃殿下、もうすぐ殿下が戻られますよ!』


微笑むスザナに悟られまいとオリヴィアは自分を鼓舞し必要以上のテンションで答えた。


『さあ、皆。お迎えの準備は抜かり無くお願いしますね。』


気持ちの良い返答を全身に受けオリヴィアの心は崩壊の寸前であった。


粒のように見えたものが、やがて大きくなりアレクセイ率いる騎士団と確認できる大きさにまでなってきた。

威厳を出すのか、騎士団の英断はそのペースを崩す事無くゆっくりと見せつけるかのように王宮に入る…はずがアレクセイは騎士団を置いて1人馬に跨りまるで早馬のように王宮に戻ると、白馬の王子様のようにヒョイっと降りてオリヴィアの目の前に跪き手を取るとキスを落とした。見上げた顔は少年のようで、帝国を制圧してきた統率者とはまるで思えぬ表情であった。


オリヴィアは朝から奮い立たせている己を再度鼓舞し笑顔で

『おかえりなさいませ。』

そう応えるも知らぬうちに頬を伝う涙の粒に自分でも驚き目を見開いた。その美しい涙は主の心知らずか無常にも止まらずツタツタと頬を伝っていた。


『殿下、妃殿下はもう限界です。』


スザナはアレクセイに言うと、アレクセイは振り返り出迎えの者たちへ手を挙げて応え、オリヴィアを抱えて王宮に入って行った。


『心配掛けて悪かったね。』


アレクセイは眉を下げてオリヴィアに頭を下げた。
オリヴィアは俯いたまま

『私は王太子妃を名乗る資格はありません…』


オリヴィアは顔を挙げてアレクセイを見た。アレクセイは真っ直ぐオリヴィアを見つめる。その視線後ろめたくオリヴィアはサラリと視線を流し


『私はあの偉大な帝国が貴方の率いるアナリス大王国が制圧するなど夢物語だと心のどこかで思っていたのです。この国の者は誰一人貴方を疑う事もせず変わらぬ日々を送っておりました。それなのに…私は。』


オリヴィアは再度アレクセイに視線を戻した。


『そうだね、オリヴィアは王太子妃ではなくなる。』

…。

もちろん如何なる処罰も受ける覚悟だ。


『オリヴィアは王太子妃ではなく皇后となるんだからね。』 


オリヴィアは驚き目を見開く。


『アナリス大王国はアナリス帝国として新たなる道を開く事になる。』


『アナリス帝国…?』


『そう、帝国。』


『…。』


『オリヴィア、オリヴィアは間違ってないよ。逆に正直に話してくれてありがとう。ここの者たちとオリヴィアとではアナリスで過ごしてきた時間が違うからね。特にジュリラン王女として生きてきたオリヴィアにとってそのように思った事は間違ってないしそれを恥じる事ではない。』

 
『それでも、それでも私は貴方が無事帰還する日をお祈りしておりました。わずかな期待をして…本当良かった…。』


オリヴィアは自分に言い聞かせるように呟くと途切れなく流れる涙を拭う事も忘れて何度も何度も呟いた。


『良かった…良かった』



アレクセイは優しく頷くとオリヴィアを抱き込んだ。オリヴィアは生まれて初めて声をあげて泣いた。子どものように…

アレクセイは優しく背中を擦りながらオリヴィアが落ち着くまでいつまでもいつまでも優しく包んでいた。

『オリヴィア?』

落ち着きを取り戻したオリヴィアは正気に戻り急いでアレクセイの胸から離れ


『失礼いたしました。』


恥ずかしそうに俯くとアレクセイは小さく笑い


『オリヴィア、約束覚えてる?』


…?

『約束ですか?』


アレクセイはニヤリと笑いオリヴィアへ耳打ちをする。オリヴィアは固まり恐る恐るアレクセイを見るとアレクセイはいたずらっ子のように微笑むと


『覚えてるね?』


オリヴィアは小さく頷いた。












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