たまたま王太子妃になっただけ【完】

mako

文字の大きさ
40 / 62

ステファニーの心

しおりを挟む
ステファニーが侯爵夫人となり初めての王宮主催の夜会が執り行われる。もちろんランドルト侯爵家にもその招待状は届けられた。

会場に入場する貴族らが長い列を成している。
ステファニーらが入場する頃には多くの貴族らが階段を降りる2人を拍手で待ち構えている。その後に続く公爵家が霞むほどに2人への拍手が鳴りやむことは無かった。

流石の王族らが入場する際には音楽までも代りファンファーレが響き渡る。ステファニーはいつもこのファンファーレと共に入場していたのでその前を経験した事を密かやに喜んでいた。



他国からの王族や貴族らで賑わう夜会の為に2人は各々社交に繰り出していた。




ラインハルトは迫りくる令嬢らから逃げるように控室に向かうと途中の控え室から大声で怒鳴りつける声が聞こえてきた。


ラインハルトは怪訝そうに立ち止まると中から


『離れろ!それ以上近寄る事を許さない!』


男の声が苦しそうにもがくように発せられる。

『あら、苦しいのでしょう?遠慮なさらなくとも大丈夫ですから。さぁ。』


『よるな!』


バタンガタンと何やらが投げつけられる音まで合わさるのが聞こえてくる部屋の中。流石のラインハルトも男女間のイザコザまで関与しないししたくは無いがどうも穏やかではない。面倒くさそうに頭を巡らせているといきなり扉が開かれると男が苦しそうに飛び出してきたのである。とっさに倒れそうな男に手を差し伸べると隣りの部屋へ連れ込んだ。


…。

もがき苦しむ男にラインハルトは


『どうしたのだ?』


男の顔を確認すると、何と義理弟であるアラン・ランドルトであった。


『おい!アラン。どうした?大丈夫なのか?』


アランは苦しそうに顔を真っ赤にして息は荒い。ラインハルトはハッとしすぐさま隣りの部屋へ向かうも部屋には誰も居ない。


『くっそっ』



ラインハルトは苦しむアランに水を差し出すと

『媚薬か…。何に盛られたかわかるか?』


ラインハルトの問に苦しそうに首を振る。


ラインハルトは先ず側近を呼びステファニーに心配させぬよう命じた。ラインハルトの思惑外れ、ステファニーはすぐさま飛んできた。


『お兄様!』


ステファニーを見て驚いたラインハルトは側近を睨みつけながら


『お前が心配することではない。大丈夫だから。すぐに元に戻る。明日には侯爵邸へ帰れるから今日の所はお前は1人で帰れ。』


すぐに部屋から出そうとするもステファニーは

『では私もここで泊まりますわ!』


『はぁ?状況が把握できぬか?』


『いいえ、出来てますわ!王宮で飲食した旦那様が媚薬を盛られたのですね?どうゆう管理をなさっていたのかしら?この責任はどなたに?』


王族相手にここまで言及できるのはステファニーしか居ない。


『そんな事は後でよろしいわ。お兄様はいつまでも取り囲まむ令嬢から逃げ回っていてもはじまりませんわよ?それに王族がいつまでも会場から姿を消しているのもあまりよろしくないですわ!』


ステファニーはラインハルトの側近を顎で使うとさっさとラインハルトを会場へ戻せと促した。

ラインハルトは側近を制して一人で部屋を出た。




ステファニーの目の前には息遣いを激しく真っ赤にしたアランが苦しそうにステファニーに声を絞り出した。



『君も外へ。頼む…』


ステファニーはオロオロするも素直に部屋を出て扉の前を陣取った。


すぐさま王宮の頃にステファニーに仕えていた侍従を呼び扉の前に椅子を並べて対策本部を設営した。

『これいつまで続くの?』

侍従は首を傾げ


『どの媚薬を飲まれたのかが分かりませんので何とも?』



『媚薬ってそんな種類があるの?』


『薬が切れるのを待つしかないの?』

 
『旦那さまは大丈夫よね?』


『旦那様はどうなるの?』


矢継ぎ早に飛び出す疑問に侍従らは素直に答えていく。しかし目の前の王女から飛び出す疑問は侍従らの知る限り王女のものとは思えぬ内容にむしろそちらに気を取られていた。


…王女?



『何をしておる!』


対策本部の後方から声を掛けるはラインハルト。

『こんな所で陣取っていては誰も控え室を使えぬではないか?』


ステファニーは面倒くさそうにラインハルトを見ると


『あら、管理の者が助かりましてよ?』


簡単に答えるとまたも侍従らに向き直る。



…おいおい仲間にいれてくれよ。



『殿下!』


ラインハルトの側近が報告に来るとステファニーはラインハルトの横に控えた。


…相変わらず勝手な。

ラインハルトはステファニーを横目に次々やってくる報告を聞きながら最後に1つ頷いた。


『お前たちは退散しろ。』


対策本部を撤収させると側近らにアランが女と消えたというデマを流すよう命じた。驚いたステファニーはラインハルトを睨みつけるがラインハルトは一言。

『王太子命令だ。心得よ。』


側近らは一目散に散っていったのである。



ラインハルトは控え室からアランを王族専用エリアまで移動させるとその部屋を施錠しステファニーに言った。


『いいか?明日にはくすりは抜ける。それまでだ。だからお前も侯爵邸に戻らぬならば客間を使って良いからそちらで休め。間違ってもアランには近づくな。よいな?』


睨みつけるステファニーをもろともせずラインハルトは会場へと戻って行った。


ステファニーとてラインハルトの思惑は分かる。デマを流して首謀者をあぶり出すのだ。だがステファニーはその為に一時的にだとしても傷つけられる夫の名誉のほうが今は大事なのだ。


…侯爵夫人もなかなか辛いわね。



ステファニーは扉の向こうのアランを案じながら扉の前を陣取った。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...