たまたま王太子妃になっただけ【完】

mako

文字の大きさ
53 / 62

ジュリラン王国の日常

しおりを挟む
アリスが王太子妃となりジュリラン王国は活気に満ちていた。王宮でもその人気はうなぎのぼりである。

一見するとポワーンとしているアリスだが、執務は抜け目無く熟し、人当たりもよく、気持ち良く人を使い感謝も忘れない。


ジュリラン王国では効率を考慮し、執務室は王太子と同室に置かれている為、アリスの人気ぶりはラインハルトは嫌でも知ることになる。



…。


ラインハルトが思うに、アリスは目の前に山があればまず越えるのだ。アリスには後からという言葉は無いらしい。だからいつもデスクに積まれる書類を一目散に片付けていく。そしていつもそれを終えるまでは食事どころか一息つく事もしない。

そしてそれを片付けると、一気にイメージ通りのポワーンとした表情となり、嬉しそうに執務をする文官を眺めたり、側近とお茶を飲んだりしている。



そんな姿を一目拝もうと何やら最近執務室への出入りが盛んになっている。


…。


ラインハルトとしては誰にも文句は言えないが自分の妃がアイドルのように扱われる事に面白くないのだ。


…そもそも執務室に何故こんなに人が居る?

…アリスも愛想が良すぎるのではないか?


…ってかアリスは執務より私の癒やしでは無かったのか?



ラインハルトは賑わう妻のデスクを横目に書類と格闘するのであった。



そんな中、ラインハルトは珍しくステファニーの居る公爵邸へ出向いていた。



『来週はいよいよ夫婦揃って帝国入りですわね?』


ラインハルトの出迎もせずテラスでお茶を飲むステファニー。


『公爵夫人は暇そうだな?』


ラインハルトはステファニーの前に腰を下ろす。


『まあ、ご機嫌ななめですのね?大方アリス様にお相手されず拗ねていらっしゃるのでは?』


『…。』



ラインハルトは目の前のカップを手に取ると優雅に口に運んだ。



『で?』


ステファニーの直球にラインハルトはむせながら


『ゴホンッ。その、アリスの執務を少し減らそうかと思ってな…』


『何故です?』



…。



『何故って、そもそもアレクセイ殿下は執務はステファニーが居るからジュリランの国母は2人もいらぬと。アリスはその、私の癒やしになればと言うことであったはずだ。』


ステファニーは嬉しそうに


『やっぱり拗ねていらっしゃるのではないですか!アリス様の足りない所は私が補うならわかりますがアリス様は余裕で熟していらっしゃるわ。それにまだまだ執務をお増やしになるおつもりみたいですわよ?』



ラインハルトは驚いたようにステファニーを見ると


『お増やしにってそれを止めるのがお前の仕事ではないのか?』


ステファニーはこれまた驚いたように


『何故ですの?勢力的な王太子妃の何が悪いのですか?』



『悪くは無いが…』


ステファニーはあからさまにため息をつくと



『いいですか?誰も執務が好きでやってる訳ではないのです。一重に義務だからです。』


『その義務は既に果たしておろう。』



…。ステファニーは呆れたようにラインハルトを見ると



『本当、女心の分からない男ですのね?アリス様は何よりお兄様の為に、お兄様に認めて貰う為に頑張っていらっしゃるのですよ?それを私がしゃしゃり出てはまるでアリス様のお邪魔をするみたいですわ!』



ラインハルトは目を丸くして


『私の為?』



『…他に誰がおりますの?だいたいお兄様はお言葉が足りないのです。お父様にそっくりですわ!』



…。

黙りこくるラインハルトに


『いいですか?アリス様はお兄様を良く見ていらっしゃる。そして隣に立つに相応しくなるよう努めていらっしゃるのです。』



『よく分からぬが…』



ステファニーは面倒くさそうにラインハルトを睨みつけると


『気づいてないのですか?アリス様がこちらに入られた時につけておられた香水はローズ系でしたわ。しかしお兄様はマリン系ですよね?隣に並ぶと香りがケンカしてしまうと感じられたアリス様は現在お兄様同様にマリン系をつけられております。


それだけではありません。アリス様はお兄様の好きなお花や好きな食べ物、好きなお色まで把握されておりますわ。そんな面倒な事どうしてなさるのですか?』



…。



『まだ分かりませんの?』


ステファニーは怒り出すといきなり立ち上がると徐ろに窓を開け新鮮な空気を吸い込んだ。



…マズいわ。手が出そう。




ステファニーは振り返ると


『お兄様はアリス様の何をご存知?』


…。


『相手の事をどうこう言う前にまずはご自分をどうにかしてくださいませ!』


ラインハルトはステファニーに文句を言う前にえらく叱られたまま公爵邸を後にした。



…?









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...