たまたま王太子妃になっただけ【完】

mako

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オリヴィアからの詫び

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アレクセイはオリヴィアから事の顛末を聞き、急ぎ迎賓館に非公式で訪れた。


ラインハルトは驚きながら


『どうされました?』



『アリス様は?』


オリヴィアの一声にラインハルトは不思議そうに


『まだだが?なんでも帝国図書館に寄ってから帰るそうだけど?どうした?』


オリヴィアは今にも泣きそうな表情になるとアレクセイが代りに説明を始めた。


『誰だ?それ。』

動転しているオリヴィアは


『違うんです、私がランダ語を話せなかったのがいけないのです。』



『そんなもの、私も話せないよ。』


アレクセイはオリヴィアの肩を抱き込むとラインハルトはイライラしたように


『だから、そんな事はどうでもよい。アリスに暴言を吐いたのはどこの国だ?』


『アングラ王国だ。』


アレクセイがオリヴィアを庇うように前に出て答える。


『アングラ王国…。ったく。』


『元々は私に対する嫌がらせでしたの。それをアリス様が庇ってくださって…』


アレクセイもまた


『皇后に対して?』


2人に問い詰められたオリヴィアは目を白黒させながら焦っていると


『一語一句聞かせてくれないかな?』


アレクセイが本気モードとなってしまった。



オリヴィアは渋々、事細かく説明を始めた。

『ラダン語で話しを促したのか?』

アレクセイが吠えると

『ステファニーを義理とは違い実の姉とはアリスに対する冒涜だ!』


ラインハルトも負けてはいない。


2人が一つ一つ感情を述べる為にいっこうに進まぬ状態にオリヴィアはついに


『ですから、私はアリス様に謝りたいだけなのです!少し黙って!』



2人は思わず目を丸くして固まった。



そうしていると当の本人が満足そうに迎賓館に戻ってきたとの知らせが届いた。アリスがジュリラン王国の部屋に入ると3人が待ち構えている状況に思わず固まる。


…な、なんで?



アレクセイはアリスに


『やあ、アリス。相変わらずの図書館好きだね。』


アリスは驚いた様に


『覚えていらしたのですか?』


嬉しそうに微笑んだ。アレクセイはラインハルトとオリヴィアに


『悪いがアリスと少しばかり昔話がしたい。2人は席を外してくれないか?』



ラインハルトとオリヴィアは渋々部屋を出て行った。




『さて、アリス。君は大のジュリランファンだったよね?私は誰よりもジュリランをこよなく愛す君にジュリラン王太子妃となりラインハルトを支えてほしくて縁談を持ち込んだ。

嬉しい誤算だったのは君はジュリランファンだけの王女ではなくえらく才女であった事だよ。』



アレクセイの言葉にアリスは


『いいえ、私は誰よりもジュリランが大好きなだけですよ?』



アレクセイは尚も



『1つ聞いてもいいかな?何故君は自分の功績をステファニーの功績のままにして帰ってきたの?』


アリスは心から


『逆に何故、それを解く必要がありますか?』



アレクセイは少しばかり考え込むと



『だってあれだけの事をこの短期間で完了させたのだよ?現に他国は2割~3割程だ。大変だったろうに、それを全てステファニー、ステファニーと崇め奉り君は見下されたのであろう?』



アリスも少しばかり考えて



『ステファニー様とてあの課題があれば完了されていたと思いますけど…』


『だとしても、王太子妃は君だ。現に執務を担っているのも君だろ?』



『私の個人的考えでもよろしいでしょうか?』


アレクセイは笑顔で


『もちろんだ。』



アリスは小さく息をはいて


『ジュリラン王国の執務を私であろうとステファニー様であろうと問題なく熟していればそれで良いと思います。

今回のように完了報告が称えられるのであればそれは、私やステファニー様個人ではなく、ジュリラン王国、もしくはラインハルト王太子殿下が称えられるべきだと考えております。

私含め臣下はラインハルト王太子殿下に忠誠を誓っております。全てはジュリラン王国の為にその統率者であるラインハルト殿下の為に。

そして又逆も然り。有事の際は何をおいてもジュリラン王国を守るが統率者の使命。それは誰よりも統率者であられる皇帝陛下が1番よくお分かりではございませんか?』



アレクセイはアリスを真っ直ぐに見据えると

『では他国からの評価は気にしないと?』


『もちろん、王太子妃としての責任もございますので私の行動でラインハルト殿下にご迷惑をお掛けするつもりはありません。


ですが、それはあくまで公式の場。非公式の場で他国に私がどう思われるかなど、どうでもよくないですか?やるべき事は全力でいたします。本日のようなくだらない徴発にはバカになるのが1番早いのです。』


にっこり笑うアリスにアレクセイは


『他国から舐められはしないか?』


アレクセイの笑顔を徴発するかのように微笑むと

『他国から評価など国の繁栄には関係ないと私は思っています。それよりもまずは自国の安定があってこそ。私は王太子妃として執務の手腕を評価されるよりも、民の支持を得る事の方が重要かと存じます。

民が苦しい時は私も苦しみ、また民が幸せの時は私も又同じ。末端の幸せこそ国の幸せです。そこを蔑ろにする国は長くは続きませんもの。

ですから私は客寄せパンダでも何にでもなりましょう。そして国が活気溢れ、国益も上がり、士気も上がり、それこそ他国はジュリラン王国に手出しなど出来ませんわ。』


アレクセイは苦笑いで


『何だか帝国まで食われそうで恐いんだけど?』


アリスは穏やかに微笑む。


『アリス、しかしそれでは君はジュリラン王国だけの為に生きてる事にならないか?』


アリスは不思議そうに


『いいえ、私はジュリランのファンですがそれだけでしたらバーミロン王女の時も同じですわ。今は王太子妃としての考えですからね。』 


『政略結婚でそこまでさせる原動力は?』


アリスは迷う事なく言った。



『ラインハルト王太子殿下ですわ。』


『は?』


『殿下は皇后陛下の為にすることに理由がお有りなのですか?でしたらその原動力は?』


アレクセイはあっけにとられている所へのアリスからの問いかけに少し戸惑いながら


『…。私はオリヴィアを愛しているからね。』


アリスは待っていたかのように

『それと同じかと存じますが?』



『…。』


固まるアレクセイ。


『何かおかしな事を申しましたか?』


アレクセイはハッとし頭を振ると大きく息をはいて


『…いつから?』


アリスは大きな瞳を上に向けると指を顎にあて頭を巡らせながら

『いつからでしょう?確信したのはラインハルト様が熱心に公爵邸に通われる事からかしら?』


『…公爵邸?』


『はい、何かに付けてステファニー様の所へ行かれますので。』

アリスは少し拗ねるような素振りをみせた。


アレクセイは瞬きを3度ほど程繰り返すと


『待て、ステファニーは実の妹だけど?』


『はい、承知してますわ。ですがそうゆう事ではなく、ただ羨ましいだけですの。』

アリスは王女でも王太子妃でもなく、ただ1人の少女のように微笑んだ。


…私より重症のようだ。


『分かった。では最後に。

アリス、君はみんなの前で笑って、1人で泣いていた。何でも無いようにして、1人で悩んでいた。

今後はそのような事が無いように。これは義理の兄弟としての願いである。』



驚き目を見開くアリスに

『こう見えても私は帝国皇帝にまで登りつめた男だよ?若かりし頃でも人を見ていたし見る目も持って居たつもりだ。』


アレクセイは皇帝ではなく義理の兄弟として穏やかに微笑んだ。


アリスもまた涙を堪えながらピンクブロンドの髪を一筋手に取り首を傾げてみせた。


『アリス、それ、懐かしいね。』



2人は大きく笑い合った。













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