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罰ではなく、未来を
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終わりの見えない二人のやり取りに、セリュアンは深く息を吐いた。
「……取り込み中、悪いが。沙汰は追って出す。それまでは、しばらく王宮の外には出せない」
その言葉に、エルナとライドは、はっとしたように頭を垂れた。
場の空気には疲労の色が濃く、誰もがその場を離れたそうにしていたが、アメリアだけが一歩前に出て、小さく尋ねた。
「……あの、策を練ったとおっしゃっていましたが、その一つ……聞いても?」
エルナは、仮面を外した“エルナ・リュミエル”として微笑んだ。
その表情は、アメリアが連日接していたエルナとはまるで別人のようだった。
「どうぞ」
「側妃のお願いに来られた時……その、殿下を忘れられない、と。それから……殿下の、肌の温もりがどうとか……」
言葉を続けるのがためらわれるのか、アメリアの声は次第にか細くなり、ついには消え入りそうになる。
すべてを察したエルナは、柔らかく微笑んで答えた。
「妃殿下、すべては――お芝居ですわ。殿下のぬくもりなど、私が知る由もございません。……ご心配をおかけし、申し訳ございませんでした」
アレンは眉間にしわを寄せ、アメリアをじろりと睨みつけた。
(おい……今は没落中とはいえ、他国の王女と貴族相手に何聞いてんだよ……)
カイルはそっぽを向き、まるで「我関せず」とばかりに無言を貫く。
一方で、セリュアンはなぜか口元を抑えて真っ赤になっていた。
そして、二人が衛兵の待つ扉へと歩を進めたその時――
「待って!」
(……まだあんのかよ!)
アレンは驚いたようにアメリアを振り返った。
「私のところに“堕胎薬”を持って来たのは、“エルナ・シュタット”という町娘だったのよ!」
(知ってるよ……!)
アレンは思わずアメリアの肩をつかんで、回収したくなった。
「だから、リュミエルの王女は関係ないわ! 未来あるリュミエルの方々が、そんな馬鹿げたことに加担するはずないでしょう!?」
(加担どころか主犯なんだけどな……)
子供のように駄々をこねるアメリアに、エルナは微笑みながら、ゆっくりと首を振った。
「妃殿下、いけません。どのような場合でも、国と国との間には“けじめ”が必要です。それは、貴女もよくご存じでしょう?」
「ええ、もちろん。私、ノルディア王国の王女でしたもの」
(今度は自己紹介かよ……)
「だからこそ声を大にして申し上げます。国と国では、いかなるときも“けじめ”は必要。でも――申し訳ありませんが、リュミエル王国はもはや“国”ではございません。エルナ様も……えっと、ライド様、でしたか? お二人は今や、王族でも貴族でもなく、ただの“平民”ですの。だったら、平民は――二人で未来を築いていけばよろしいのですわ!」
……もう、自分で何を言っているのか分からなくなっているのだろう。
混沌とする場の空気に、セリュアンがぽつりと呟いた。
「どうやら我が妃は、“罰する”ことを望んでいないようだね」
「ですが、事が事ですから……」
冷静なカイルに、アメリアは必死に食らいつく。
「だから、事が事って何? あの“なんちゃって誘拐”? あれには、私にも非がありますの。
それに、ヴァイオレット様にも“慈悲”が与えられたのですから!」
(慈悲与えたの、お前だろ……)
アレンは、心の中でため息をつきながら、すでにこの騒ぎにすっかり辟易していた。
「お言葉ですがそうなりますとグレゴール殿の罪も問えなくなりますよ?」
カイルは又も果敢にそして冷静に問うた。
「もう、わからない人ね!彼は公印を使ったのよ?公印よ?あの、公印。わかる?」
(ちょい落ち着けって…)
「それは言語道断ですが、それはこのお二人からの脅しとなるので周り回ってお二人に戻ってきませんか?」
「弱みを握られている時点でアウトでしょう?そもそもこのお二人が彼を脅すなんて出来ないわ。だってその立場もないもの。それとも何?彼は侯爵でありながら平民に弱みを握られ脅されたって言うの?ならばそれは脅しではなくてお願いだわ!」
(…誰か止めてやってくれ、本人自制が出来ねえんじゃねえか?)
アレンは眉を下げた。アレンの思い通じたのかセリュアンは
「まぁ一理はある。侯爵でありながら没落している国とは知らず脅されていたならばある意味滑稽だな。あのグレゴールが(笑)」
(いやいや笑い事じゃねえし。ってか何なんだ?この夫婦は。揃いも揃ってよ。)
「とにかく今日はもう遅い。またにしよう。お二人はこの王宮でゆっくりしていけば良い。」
この日に終わりを告げるセリュアンの言葉に2人は驚いたように顔を見合わせ深く頭を垂れた。
「……取り込み中、悪いが。沙汰は追って出す。それまでは、しばらく王宮の外には出せない」
その言葉に、エルナとライドは、はっとしたように頭を垂れた。
場の空気には疲労の色が濃く、誰もがその場を離れたそうにしていたが、アメリアだけが一歩前に出て、小さく尋ねた。
「……あの、策を練ったとおっしゃっていましたが、その一つ……聞いても?」
エルナは、仮面を外した“エルナ・リュミエル”として微笑んだ。
その表情は、アメリアが連日接していたエルナとはまるで別人のようだった。
「どうぞ」
「側妃のお願いに来られた時……その、殿下を忘れられない、と。それから……殿下の、肌の温もりがどうとか……」
言葉を続けるのがためらわれるのか、アメリアの声は次第にか細くなり、ついには消え入りそうになる。
すべてを察したエルナは、柔らかく微笑んで答えた。
「妃殿下、すべては――お芝居ですわ。殿下のぬくもりなど、私が知る由もございません。……ご心配をおかけし、申し訳ございませんでした」
アレンは眉間にしわを寄せ、アメリアをじろりと睨みつけた。
(おい……今は没落中とはいえ、他国の王女と貴族相手に何聞いてんだよ……)
カイルはそっぽを向き、まるで「我関せず」とばかりに無言を貫く。
一方で、セリュアンはなぜか口元を抑えて真っ赤になっていた。
そして、二人が衛兵の待つ扉へと歩を進めたその時――
「待って!」
(……まだあんのかよ!)
アレンは驚いたようにアメリアを振り返った。
「私のところに“堕胎薬”を持って来たのは、“エルナ・シュタット”という町娘だったのよ!」
(知ってるよ……!)
アレンは思わずアメリアの肩をつかんで、回収したくなった。
「だから、リュミエルの王女は関係ないわ! 未来あるリュミエルの方々が、そんな馬鹿げたことに加担するはずないでしょう!?」
(加担どころか主犯なんだけどな……)
子供のように駄々をこねるアメリアに、エルナは微笑みながら、ゆっくりと首を振った。
「妃殿下、いけません。どのような場合でも、国と国との間には“けじめ”が必要です。それは、貴女もよくご存じでしょう?」
「ええ、もちろん。私、ノルディア王国の王女でしたもの」
(今度は自己紹介かよ……)
「だからこそ声を大にして申し上げます。国と国では、いかなるときも“けじめ”は必要。でも――申し訳ありませんが、リュミエル王国はもはや“国”ではございません。エルナ様も……えっと、ライド様、でしたか? お二人は今や、王族でも貴族でもなく、ただの“平民”ですの。だったら、平民は――二人で未来を築いていけばよろしいのですわ!」
……もう、自分で何を言っているのか分からなくなっているのだろう。
混沌とする場の空気に、セリュアンがぽつりと呟いた。
「どうやら我が妃は、“罰する”ことを望んでいないようだね」
「ですが、事が事ですから……」
冷静なカイルに、アメリアは必死に食らいつく。
「だから、事が事って何? あの“なんちゃって誘拐”? あれには、私にも非がありますの。
それに、ヴァイオレット様にも“慈悲”が与えられたのですから!」
(慈悲与えたの、お前だろ……)
アレンは、心の中でため息をつきながら、すでにこの騒ぎにすっかり辟易していた。
「お言葉ですがそうなりますとグレゴール殿の罪も問えなくなりますよ?」
カイルは又も果敢にそして冷静に問うた。
「もう、わからない人ね!彼は公印を使ったのよ?公印よ?あの、公印。わかる?」
(ちょい落ち着けって…)
「それは言語道断ですが、それはこのお二人からの脅しとなるので周り回ってお二人に戻ってきませんか?」
「弱みを握られている時点でアウトでしょう?そもそもこのお二人が彼を脅すなんて出来ないわ。だってその立場もないもの。それとも何?彼は侯爵でありながら平民に弱みを握られ脅されたって言うの?ならばそれは脅しではなくてお願いだわ!」
(…誰か止めてやってくれ、本人自制が出来ねえんじゃねえか?)
アレンは眉を下げた。アレンの思い通じたのかセリュアンは
「まぁ一理はある。侯爵でありながら没落している国とは知らず脅されていたならばある意味滑稽だな。あのグレゴールが(笑)」
(いやいや笑い事じゃねえし。ってか何なんだ?この夫婦は。揃いも揃ってよ。)
「とにかく今日はもう遅い。またにしよう。お二人はこの王宮でゆっくりしていけば良い。」
この日に終わりを告げるセリュアンの言葉に2人は驚いたように顔を見合わせ深く頭を垂れた。
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