王子と王女は今日も仮面をかぶって愛し合う【完】

mako

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初対面、微笑みの裏側で

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ルヴェール王宮の謁見の間は、普段より少しだけ豪華な装飾が施されていた。
赤と金の絨毯が陽光に映え、王族同士の政略的な“顔合わせ”にふさわしい荘厳な空気を醸している。

扉が開き、ノルディアの王女・アメリアが静かに歩を進めた。背筋を伸ばし、首筋まで完璧に整えた礼装。
まるで彫像のような冷ややかさと、氷の気品をまとって。

対するルヴェール王太子・セリュアンは、爽やかで完璧な“王子様スマイル”を湛えながら、優雅に一礼した。

「ようこそルヴェールへ、お会いできて光栄です、アメリア殿下」

「ご挨拶、痛み入ります。お招きいただき、感謝いたしますわ」

笑顔と丁寧な言葉――形式としては完璧だった。
だが、二人の目は笑っていない。少なくとも、本心では。

(……本当に、絵に描いたような王子。完璧すぎて、逆にうさんくさいわ)

(うわ……顔も完璧、姿勢も完璧。氷の姫って呼ばれてるって聞いてたけど、なるほど納得)

静かな火花が散る。だが外から見れば、ただ優雅な貴族同士の微笑み合いでしかなかった。

セリュアンは小さく首をかしげてみせた。

「ご旅路はお疲れになったのでは? ノルディアからは遠い道のりだったでしょう」

「いえ、陸路でも意外と快適でしたわ。馬車の揺れより……環境の変化のほうが大きいですもの」

「それは失礼。ルヴェールの空気が、お気に召さなかったでしょうか?」

「いいえ。空気は……思ったより“軽やか”で驚きました」

そのやり取りを横で聞いていたアレンが、こっそりカイルに耳打ちする。

「これ、言葉選びが優雅なだけで、やってるの舌戦だよな……?」

「完全にそうだな。なかなかの化かし合いだ」

だが次の瞬間、アメリアがふいに笑みを深める。

「でも、殿下。こうして直接お顔を見て、少しだけ安心しました。思っていたより、怖くはなさそうで」

セリュアンもまた、にこりと笑う。

「それは僕も同じです。……氷の姫君、などという評判を聞いていたので、少し緊張していたのですが」

「その噂、案外便利なのです。近づく者が減る分、静かに暮らせますから」

「僕も“王子様”なんて呼ばれてますけど、正直なところ……少し息苦しいですね」

一瞬だけ、二人の仮面がずれた。
完璧な礼儀と装いの奥で、ほんのわずかに“本音”が顔を出した。

だがすぐに、また仮面は戻る。

「それでは、今後ともよろしくお願いいたします、セリュアン殿下」

「ええ。僕たちがどんな未来を築くか、王たちは知らぬことでしょうね」

その言葉の意味に、アメリアは一瞬だけ眉を動かした。
だが、それ以上は何も言わず。ふたたび微笑を浮かべ、次の儀式へと進んでいく。

仮面のままで。

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