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王宮 夜会・黄金の間にて
しおりを挟む夜会は盛大だった。
帝国から輿入れした王太子妃・アメリアが、正式にこの王宮に受け入れられた証。
華やかなドレス、香水の薫り、笑顔と礼儀──
すべてが完璧に整えられた夜。
アメリアは凛とした立ち姿で、まるで肖像画のように美しく会場に現れた。
けれど、その完璧さは、一部の女性たちの“逆鱗”に触れるには充分すぎた。
「妃殿下、お招きありがとうございますわ。
わたくしたち、こうしてお話するのを心待ちにしておりましたのよ」
一礼しながら近づいてきたのは、伯爵令嬢ヴァイオレット・カーヴァン。
上品な笑みを浮かべていたが、視線は獲物を値踏みする猛禽そのものだった。
「本当にお美しい……」
「ご機嫌よう、ヴィオレット嬢。そちらのドレスもとてもよくお似合いですわ」
アメリアは落ち着いて返す。
けれど、すぐさま“巧妙な嫌味”が投げ込まれた。
「まあ、妃殿下は“町娘”とも親しくされるのですね?花の温室で、先日ご一緒だったと噂で聞きましたわ。まさか、ご学友?」
周囲の貴族令嬢たちが小さく笑う。
アメリアは表情を変えず、静かに返した。
「ええ、花が好きな者同士、心が通うこともあるかと。身分は関係ありませんわ」
「まあ……妃殿下は“理想のお人柄”なのね。
殿下がお慕いになるのも当然。……たとえ“昔のご縁”が花の香りと共に残っていても、ですわね?」
一瞬、時が止まった。空気の密度が変わる。
アメリアは視線をそらさず、むしろ微笑んだ。
「ええ、殿下は誠実なお方ですから。
過去は、彼を育てたひとつの物語に過ぎません。
今、私がそばにいられることに感謝しています」
一拍置いて、アメリアはグラスを持ち直した。
「それにしても……王都の夜会とは、ずいぶん“劇的”な脚本ですのね。まるで台詞が用意されていたかのよう」
その瞬間、ヴァイオレットの目が一瞬だけ揺れた。
(……この女、引かないわね)
「妃殿下、なかなかお芝居がお上手でいらっしゃる」
「生憎、私は“舞台の上”ではなく、“玉座の隣”に立つと決まっておりますの」
アメリアは優雅に微笑み、グラスの中のワインを口に運んだ。
令嬢たちは、それ以上何も言えなかった。
美しく、冷たく、そして威厳を秘めた妃の態度は、彼女たちの思惑を跳ね返したのだ。
けれど、ヴァイオレットは引き下がらなかった。
(……これはただの始まり。あなたの“感情”をあぶり出すまで、終わらせない)
その夜、アメリアは一見、完璧に乗り切ったように見えた。
だが、胸の奥ではひとつだけ、名もない棘が刺さっていた。
(──過去の女、というだけでこんなに心が波立つなんて)
彼女の完璧な仮面の奥に、微かな炎が灯った夜だった。
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