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波乱の幕開け
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廊下の向こうが突然騒がしくなったかと思うと、駆け込んできたのはアメリアの護衛であるエドワードだった。
額からは汗が滴り落ち、衣服も乱れている。それ以上に、その顔は青ざめていた。
「どうした?」
セリュアンの問いかけに、エドワードは肩で息をしながら、かすれた声で叫んだ。
「妃殿下が――妃殿下が、姿を消されました!」
「……『消えた』!?」
セリュアンとアレンの声が同時に重なる。
エドワードは混乱しながらもなんとか状況を説明しようとするが、セリュアンは手を上げて制した。
「まず落ち着け。いいな、時系列で話せ」
エドワードは何度も頷き、深呼吸をひとつ挟んでから口を開いた。
「本日は予定通り、妃殿下は孤児院のバザー準備へ向かわれました。
準備を終えた後、殿下の“ご指示”で設置されている花のアーチをご確認に――」
「……“殿下の指示”?」
アレンが眉間に深い皺を刻みながら、セリュアンの方へ視線を向ける。
しかし、セリュアンは静かに首を横に振った。
「……続けろ」
「はい。花屋のエルナと、妃殿下の間で、少し……口論のようなものがありました」
「口論?」
「はい。会場の入り口に設置された花のアーチには、ブルーローズが使われていたのですが――
妃殿下は、“この色は、孤児院の雰囲気にはそぐわない”とおっしゃったのです」
「……“そぐわない”?」
セリュアンが繰り返すように問い返す。
「ええ。子供たちが暮らす場所には、向日葵のように元気が出る暖色の方がふさわしいと……」
その言葉に、三人は無言で頷いた。
アメリアらしい、優しさのにじむ判断だった。
「しかしエルナは……妃殿下に対し、強い口調で反論を」
言いにくそうに目を伏せるエドワードに、アレンが静かに促す。
「忖度は無用だ。すべて話せ」
頷くセリュアンの顔を確認しながら、エドワードは口を開いた。
「……“妃殿下には、この国のことが分かっていない”と。
“政略結婚で他国から来たお方には、殿下のお気持ちも、この国のしきたりも分からぬ”と」
セリュアンはあきれたように天を仰いだ。
「……それで?」
「その後、二人で“お手洗いへ”と席を外されました。
……しかし、戻ってきたのはエルナだけで、妃殿下の姿がどこにも見当たらなかったのです」
「エルナはなんと言っていた?」
「“先に戻られたのだと思った”と。すぐに周囲を探しましたが……見つかりませんでした」
「……“消えていた”のか」
カイルが小さく呟いた。
全てを語り終えたエドワードは、拳を握りしめ、頭を下げた。
「申し訳ございません。妃殿下の安全を守るはずの私が……すべては、私の不覚にございます!」
セリュアンは険しい表情で彼を見据え、そして小さく頷いた。
「責任の追及は後だ。今は一刻も早く、アメリアの所在を突き止めるのが先だ。
……まずは、エルナを呼べ。すぐにだ」
日が傾き、薄闇が王宮に忍び寄る。
その中で、一つの波乱が、音もなく幕を上げようとしていた。
額からは汗が滴り落ち、衣服も乱れている。それ以上に、その顔は青ざめていた。
「どうした?」
セリュアンの問いかけに、エドワードは肩で息をしながら、かすれた声で叫んだ。
「妃殿下が――妃殿下が、姿を消されました!」
「……『消えた』!?」
セリュアンとアレンの声が同時に重なる。
エドワードは混乱しながらもなんとか状況を説明しようとするが、セリュアンは手を上げて制した。
「まず落ち着け。いいな、時系列で話せ」
エドワードは何度も頷き、深呼吸をひとつ挟んでから口を開いた。
「本日は予定通り、妃殿下は孤児院のバザー準備へ向かわれました。
準備を終えた後、殿下の“ご指示”で設置されている花のアーチをご確認に――」
「……“殿下の指示”?」
アレンが眉間に深い皺を刻みながら、セリュアンの方へ視線を向ける。
しかし、セリュアンは静かに首を横に振った。
「……続けろ」
「はい。花屋のエルナと、妃殿下の間で、少し……口論のようなものがありました」
「口論?」
「はい。会場の入り口に設置された花のアーチには、ブルーローズが使われていたのですが――
妃殿下は、“この色は、孤児院の雰囲気にはそぐわない”とおっしゃったのです」
「……“そぐわない”?」
セリュアンが繰り返すように問い返す。
「ええ。子供たちが暮らす場所には、向日葵のように元気が出る暖色の方がふさわしいと……」
その言葉に、三人は無言で頷いた。
アメリアらしい、優しさのにじむ判断だった。
「しかしエルナは……妃殿下に対し、強い口調で反論を」
言いにくそうに目を伏せるエドワードに、アレンが静かに促す。
「忖度は無用だ。すべて話せ」
頷くセリュアンの顔を確認しながら、エドワードは口を開いた。
「……“妃殿下には、この国のことが分かっていない”と。
“政略結婚で他国から来たお方には、殿下のお気持ちも、この国のしきたりも分からぬ”と」
セリュアンはあきれたように天を仰いだ。
「……それで?」
「その後、二人で“お手洗いへ”と席を外されました。
……しかし、戻ってきたのはエルナだけで、妃殿下の姿がどこにも見当たらなかったのです」
「エルナはなんと言っていた?」
「“先に戻られたのだと思った”と。すぐに周囲を探しましたが……見つかりませんでした」
「……“消えていた”のか」
カイルが小さく呟いた。
全てを語り終えたエドワードは、拳を握りしめ、頭を下げた。
「申し訳ございません。妃殿下の安全を守るはずの私が……すべては、私の不覚にございます!」
セリュアンは険しい表情で彼を見据え、そして小さく頷いた。
「責任の追及は後だ。今は一刻も早く、アメリアの所在を突き止めるのが先だ。
……まずは、エルナを呼べ。すぐにだ」
日が傾き、薄闇が王宮に忍び寄る。
その中で、一つの波乱が、音もなく幕を上げようとしていた。
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