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救世主なるか
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すぐに妃殿下の捜索に戻ろうとしていたエドワードが、ふと足を止めた。
「殿下、あの……」
口ごもる彼に、セリュアンは鋭い視線を投げる。
「なんだ?」
「妃殿下は連れ去られる際、騒いだ様子もなく、痕跡もほとんど残っておりません。手がかりがあまりに少ないのです。お役に立てるかわかりませんが、我が家の犬を使ってもよろしいでしょうか?」
「……犬だと?」
意外な申し出にセリュアンの眉がわずかに動いた。エドワードは慌てて付け加える。
「はい。我が家のロンという犬なのですが、匂いに非常に敏感でして。姪が迷子になったときなど、すぐに見つけてくれるのです」
「……迷子ってなあ」
アレンは思わず呆れた視線をエドワードに向ける。
「だが、アメリアの匂いなど今さらどこにある?」
セリュアンが苦々しげに言うと、エドワードは少し自信ありげに言葉を返した。
「それならば、私が持っております」
「……なに?」
本日一番の鋭い声音が飛び、エドワードは慌てふためく。
「ち、違います!その、あまりの汗っかきな私を見かねて、妃殿下がハンカチを……お貸しくださったのです!」
「……」
アレンは呆れを通り越して、もう笑うしかないという表情で言う。
「だったらお前の汗の匂いしかしないだろうが!」
「ですが、その……ずっと妃殿下の胸元にしまわれていたものですので。きっと妃殿下の香りも、少しは……」
恐る恐る差し出されたハンカチを見て、アレンは渋い顔で一度黙り込むと、やがて小さく頷いた。
「……よし。藁にも縋る思いってのは、こういうことだな。行くぞ」
二人が慌ただしく執務室を出ようとしたその時――
「待て」
セリュアンの低く重い声が響く。
「アメリアが胸元で温めていたハンカチを……お前が?」
振り返ったセリュアンの顔は、珍しく鬼のような形相だった。
「……」
「……」
エドワードとアレン、同時にフリーズ。
凍りつく空気の中、唯一冷静だったカイルが静かに口を開いた。
「殿下、今はそのようなくだらぬことを気にしておる場合ではありません」
その一言に、セリュアンはハッと我に返る。
「……そうだった。早く行け!」
怒鳴るようなその声に、アレンはエドワードの背をぐいと押し、急ぎ足で部屋を後にする。
(……勘弁してくれよ)
アレンは内心でぼやきながら、妃殿下の無事を願って駆け出した。
「殿下、あの……」
口ごもる彼に、セリュアンは鋭い視線を投げる。
「なんだ?」
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「……犬だと?」
意外な申し出にセリュアンの眉がわずかに動いた。エドワードは慌てて付け加える。
「はい。我が家のロンという犬なのですが、匂いに非常に敏感でして。姪が迷子になったときなど、すぐに見つけてくれるのです」
「……迷子ってなあ」
アレンは思わず呆れた視線をエドワードに向ける。
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「……」
アレンは呆れを通り越して、もう笑うしかないという表情で言う。
「だったらお前の汗の匂いしかしないだろうが!」
「ですが、その……ずっと妃殿下の胸元にしまわれていたものですので。きっと妃殿下の香りも、少しは……」
恐る恐る差し出されたハンカチを見て、アレンは渋い顔で一度黙り込むと、やがて小さく頷いた。
「……よし。藁にも縋る思いってのは、こういうことだな。行くぞ」
二人が慌ただしく執務室を出ようとしたその時――
「待て」
セリュアンの低く重い声が響く。
「アメリアが胸元で温めていたハンカチを……お前が?」
振り返ったセリュアンの顔は、珍しく鬼のような形相だった。
「……」
「……」
エドワードとアレン、同時にフリーズ。
凍りつく空気の中、唯一冷静だったカイルが静かに口を開いた。
「殿下、今はそのようなくだらぬことを気にしておる場合ではありません」
その一言に、セリュアンはハッと我に返る。
「……そうだった。早く行け!」
怒鳴るようなその声に、アレンはエドワードの背をぐいと押し、急ぎ足で部屋を後にする。
(……勘弁してくれよ)
アレンは内心でぼやきながら、妃殿下の無事を願って駆け出した。
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