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真贋
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三人が執務室に戻ると、セリュアンとカイルは安堵の表情を浮かべた。しかし、セリュアンはすぐに王太子としての顔つきに戻る。
「疲れているところ悪いが、話を聞かせてほしい」
アメリアは、当然のことといわんばかりにうなずいた。
「まず、私は英雄のように命知らずの行動を取ることなど望んではいない」
突拍子もない言葉に、アレンは怪訝そうなまなざしをセリュアンに向けた。
…。
…。
…。
「今日、君は王太子妃として孤児院を訪れたはずだ。その君が、のこのこと誘拐されるなど、到底信じがたい」
(のこのこ、って……ノルディア王国の王女の嗜みらしいぜ?)
冷たく言い放つセリュアンに苛立ちながらも、アレンは心の中で皮肉を呟いた。ふとアメリアに目を向けると、彼女は表情を変えることなく、じっと耳を傾けている。
「そして、ハンカチ。」
(ハンカチ……?まだそれにこだわってるのか?)
アレンはカイルに視線を向けるが、カイルもまた困惑した様子で首をかしげた。
「この気候で汗をかくのは当然のことだ。エドワードだけでなく、彼に付き従う騎士たちも同様だろう。むしろ、彼以上に汗をかく者もいるはずだ。そんな中、よりにもよって彼に目がいくとこれも甚だ信じがたい。」
…。
…。
…。
「君は知っていたんだろう? エドワードの家に、“ロン”という捜索能力に長けた犬がいることを。だからこそ、自ら愚かにも“誘拐”という手段に身を委ねたのだ」
あまりに決めつけた物言いに、アレンが思わず声を上げた。
「殿下、それはあんまりでは?」
だがセリュアンはアレンの言葉を無視し、さらに問いを重ねた。
「君は、何を掴んでいたのだ?」
アレンは苛立ちを隠せず、セリュアンをにらみつけたままアメリアに視線を移す。しかしアメリアは、アレンの思いとは裏腹に、嬉しそうに口角を上げた。
「殿下、ありがとうございます」
(……ありがとうございます?)
アレンは驚き、隣のカイルを見ると、彼もまた目を大きく見開いていた。
「アメリア、誓って言う。私は個人的にエルナに命じたことはない。彼女との接見も、すべてを受け入れていたわけではない」
「存じておりますわ」
二人のやり取りは、もはやエドワードはもちろん、側近のアレンとカイルにも理解できない。ただただ、その濃密な会話に周囲は困惑の色を浮かべていた。
「ならば、なぜ?」
「まずはお礼を言わせてください。あなたは、私を見てくださっていたのですね」
「もちろんだ」
「でも、無理は──」
アメリアの言葉を遮るように、セリュアンは強く言う。
「していない!」
一つ頷き、アメリアは背筋を伸ばした。
「エルナの言動には、最初こそ苦しみました。でも、それがエスカレートするにつれ、私の知るあなたが、こんなことを許すだろうか? こんな発言をするだろうか? と疑問がわいてきたのです。そんな折、偶然一枚の書面を目にしましたの。その書面には公印が……。あなたではない、誰かがエルナを操っているのだと、そう確信したのです」
アメリアは、三人の視線を一身に受けながら続ける。
「公印があるということは、相当な立場の者であるはず。その者が、何のためにたかが一人の娘を操るのか? 私はそれを突き止めたくて、エルナの元へと通いました。そして今日、ようやく……そう、“ようやく”動きが見えたのです。もちろんヴァイオレット様は囮。彼女もまた、操られている一人。そして肝心の黒幕との接触には……残念ながら至りませんでしたけれど」
自嘲気味に微笑むアメリア。その姿には、もはや迷いなど微塵もなく、ルヴェール王国の王太子妃としての気品と覚悟が、確かに宿っていた。
「疲れているところ悪いが、話を聞かせてほしい」
アメリアは、当然のことといわんばかりにうなずいた。
「まず、私は英雄のように命知らずの行動を取ることなど望んではいない」
突拍子もない言葉に、アレンは怪訝そうなまなざしをセリュアンに向けた。
…。
…。
…。
「今日、君は王太子妃として孤児院を訪れたはずだ。その君が、のこのこと誘拐されるなど、到底信じがたい」
(のこのこ、って……ノルディア王国の王女の嗜みらしいぜ?)
冷たく言い放つセリュアンに苛立ちながらも、アレンは心の中で皮肉を呟いた。ふとアメリアに目を向けると、彼女は表情を変えることなく、じっと耳を傾けている。
「そして、ハンカチ。」
(ハンカチ……?まだそれにこだわってるのか?)
アレンはカイルに視線を向けるが、カイルもまた困惑した様子で首をかしげた。
「この気候で汗をかくのは当然のことだ。エドワードだけでなく、彼に付き従う騎士たちも同様だろう。むしろ、彼以上に汗をかく者もいるはずだ。そんな中、よりにもよって彼に目がいくとこれも甚だ信じがたい。」
…。
…。
…。
「君は知っていたんだろう? エドワードの家に、“ロン”という捜索能力に長けた犬がいることを。だからこそ、自ら愚かにも“誘拐”という手段に身を委ねたのだ」
あまりに決めつけた物言いに、アレンが思わず声を上げた。
「殿下、それはあんまりでは?」
だがセリュアンはアレンの言葉を無視し、さらに問いを重ねた。
「君は、何を掴んでいたのだ?」
アレンは苛立ちを隠せず、セリュアンをにらみつけたままアメリアに視線を移す。しかしアメリアは、アレンの思いとは裏腹に、嬉しそうに口角を上げた。
「殿下、ありがとうございます」
(……ありがとうございます?)
アレンは驚き、隣のカイルを見ると、彼もまた目を大きく見開いていた。
「アメリア、誓って言う。私は個人的にエルナに命じたことはない。彼女との接見も、すべてを受け入れていたわけではない」
「存じておりますわ」
二人のやり取りは、もはやエドワードはもちろん、側近のアレンとカイルにも理解できない。ただただ、その濃密な会話に周囲は困惑の色を浮かべていた。
「ならば、なぜ?」
「まずはお礼を言わせてください。あなたは、私を見てくださっていたのですね」
「もちろんだ」
「でも、無理は──」
アメリアの言葉を遮るように、セリュアンは強く言う。
「していない!」
一つ頷き、アメリアは背筋を伸ばした。
「エルナの言動には、最初こそ苦しみました。でも、それがエスカレートするにつれ、私の知るあなたが、こんなことを許すだろうか? こんな発言をするだろうか? と疑問がわいてきたのです。そんな折、偶然一枚の書面を目にしましたの。その書面には公印が……。あなたではない、誰かがエルナを操っているのだと、そう確信したのです」
アメリアは、三人の視線を一身に受けながら続ける。
「公印があるということは、相当な立場の者であるはず。その者が、何のためにたかが一人の娘を操るのか? 私はそれを突き止めたくて、エルナの元へと通いました。そして今日、ようやく……そう、“ようやく”動きが見えたのです。もちろんヴァイオレット様は囮。彼女もまた、操られている一人。そして肝心の黒幕との接触には……残念ながら至りませんでしたけれど」
自嘲気味に微笑むアメリア。その姿には、もはや迷いなど微塵もなく、ルヴェール王国の王太子妃としての気品と覚悟が、確かに宿っていた。
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