記憶を無くした公爵夫人【完】

mako

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ある朝、アルベルタはナターシャに言う。


『ナターシャ?何故私にいつもこのようなドレスを着せるの?』


ナターシャは目を丸くして逆に問い返してきた。


『奥様の意向ですが?』


‥。


『ねえ、その奥様は前の私でしょう?これからは初めて嫁いで来た日だと思ってちょうだい。こんなドレスは好きではないし髪型だって何よこれ。』


アルベルタは自分の好みをはっきり伝えるとナターシャは嬉しそうに


『では、美容に長けた者も呼んでまいりますわ!』


こうして、今まで夫人付の侍女は5人も用意されていたのに、することもなく暇を持て余していた侍女たちは目を輝かせアルベルタを公爵夫人へと仕上げていった。


また公爵邸も仕切る夫人が在宅不在の状態であったのが一気に生き生きと動き出した。


『まあ、奥様。思った通りですわ!磨けば光ると思ってましたの。』


何やら楽しそうな侍女たちに囲まれアルベルタとうれしくなる。


アルベルタは流行りのドレスに見を包み、艶やかな髪型にナチュラルメイクを施しどこから見ても公爵夫人という出で立ちとなっていた。


『ナターシャ、執事を呼んでくれない?』


ナターシャはすぐに執事のセバスチャンを呼び寄せた。セバスチャンは久々に見るアルベルタに目を見開く。


『これはこれは奥様。』

ニコリと微笑むセバスチャンにアルベルタは

『早速なのですが、帳簿を持ってきて。それに私が担う仕事も全部持ってきて。』 

アルベルタは執務室に向かい、侍女たちに部屋をすぐに使える様に用意をさせた。

『奥様!執務はともかく帳簿の方は‥』


アルベルタはセバスチャンを見上げ


『何か困る事でもあるの?』


セバスチャンは驚き首を振り


『そんな事はございません!』


『では持ってきなさい。』


執務室に持ち寄られた帳簿をアルベルタはじっくり確認しながら

『これは今まで誰が?』


セバスチャンは不安気に


『私ですが、何か不備でもございましたか?』


アルベルタはにっこり笑い


『完璧だわ。貴方仕事ができるのね。これからは共に頑張りましょう』


そう言うとアルベルタは書類の山に手を伸ばした。


そんなある日、アルベルタが執務室を出て私室に戻ろうとした時、廊下の向こう側から、主と思われる男がやって来た。


アルベルタは踵を返そうとした時


『待て』

主から声が掛けられた。

‥面倒なのと会ってしまったわ。


アルベルタは主に向き直りにっこりと微笑んだ。
主はアルベルタを見て目を見開く。



『‥。』

『何でしょうか?』

アルベルタの問いに主は答えられない。


『何も無いようでしたら私はここで』

アルベルタが先を行こうとすると


『その、体調は良いのか?』

‥は?

『あら、ご心配にはお呼びませんわ。』

またも先を行こうとすると

『何か言う事があるのではないか?』


アルベルタは頭を巡らせるも

‥無いけど。

言葉にならず首を傾げると主はまたも目を見開く。


‥めんどくさい男ね。

『執務を行なっているようだが?』


『それが何か?』

アルベルタは主を真っすぐに見据える。

『出来るのか?』


‥は?


『出来ない理由がございませんが?』


『足手まといは困る。』


‥こいつ。



『足手まといかどうかは確認してから仰って下さい。』


アルベルタの一言に言葉を飲み込む主。

アルベルタはこれ以上は無用と私室に戻った。


その後ろ姿を主は見えなくなるまでみつめていた。 













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