反主流派の公爵令嬢ですが何か？【完】

王宮での時間

エレナはお茶会の説明を心此処に有らずという状態で、聞き流し暫くすると

『お友達が来る時間だわ。お昼には戻るからお昼を食べながら聞くわねっ。』

そう言うとピョンピョンとスキップを踏みながら部屋を出でいった。アナベルはこの背中を幾度となく見送っていた。


…。




『アナベル嬢、今日はまた早いね。午後からは茶会だろ？それまでの時間だから今日はこれをお願いするよ。』


そう言うと分厚い書類をドサッとデスクに並べた。


アナベルは忙しいエレナに残された時間は初めこそ1人お茶会をして時間を潰していたが、これでは、給料泥棒だ。空いた時間をこうして王太子の執務を手伝っていたのだ。


今日はリルム語で書かれた契約書の山だ。


…なるほどね。駒の使い道はこれなのね。


仕方なく書類を片付けていくアナベルであるが実は結構こういう仕事が嫌いではない。むしろエレナのお守りをしているより余程有意義な時間なのである。


王太子の執務室は広い。乾いた空気の中に流れる音は２人がペンを走らせる音のみ。心地の良い空間、アナベルはふと息をついた。

目の前のライドは真剣に書類を読み込み時に顔を顰めながらペンを走らせている。こうして見るとやはり一国の王太子なのだ。アナベルは暫くその様子を眺めていた。


…何がどうしたらこうなるのかしら。こうして見ると立派な王太子なのにね…どうして頭ん中にお花を咲かせてんだか…。他にいくらでも居るだろうよ。


ライドは他国の王女やトゥモルデン王国内でもいくらでも後ろ盾のある美しい令嬢を選びたい放題であるのに真実の愛がエレナ・シャニオンなのだ。アナベルは何故かライドが不憫に見えてきた。その視線に誘われるようにライドがアナベルに視線を向けると、うん？というふうに首を傾げた。


アナベルは急ぎ視線を落とした。



そんな時エレナが戻ったと衛兵が扉を開いた。アナベルは逃げるようにエレナの元に戻ったのである。

…驚いたわ。

アナベルは高鳴る心臓の音を鎮めながら歩いた。
　　




午後からのお茶会の為、本日のランチは小さなサンドイッチとスイートコーンのスープ。

王宮のスープは格別。甘くて舌触りも滑らか。
アナベルは一口を楽しむようにゆっくりと味わい幸せを噛み締めている。


…これがあるから王宮も悪くないのよね。


『これっぽっちなんて足りないわよね？』

エレナの言葉にアナベルは視線を上げると驚きの光景を目の当たりにした。もう大概の事では驚かないアナベルではあるがこれには驚き固まった。


なぜならエレナは猫のようにスープの皿をきれいに舐めあげている。固まるアナベルへは人差し指を立てて『しぃー。』とウインクをしている。



…内緒って、そんなにきれいなお皿を見たら給仕の者が驚いてひっくり返るんじゃなくて？


アナベルは瞬きしながらその光景を眺めているとエレナは

『あっお花摘みに行ってから先に戻りますわ。そこでお茶会のお話しを聞かせて下さいね。』


そうしてまたもピョンピョンと跳ねて出ていった。


…。




『お食事中に失礼します。』


ライドの側近が安定の身のこなしで部屋に入ってくるとアナベルははっと我に返り

『レイナード様どうされました？』


レイナードは申し訳なさそうにアナベルに近づくと前の席にに乱雑に置かれるカトラリーそして使用前のような真っ白なスープ皿を見て、目を見開き更に視線を落とした。


…そうでしょうそうでしょう。そうなりますわよね？


アナベルは恐る恐るレイナードを見るとレイナードは顔を顰めて１つ咳払いをしライドからの伝言を残して行った。