反主流派の公爵令嬢ですが何か?【完】

mako

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王宮主催の夜会

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令嬢たちが待ちに待った王宮夜会。こぞって着飾り蝶の如く舞う。アナベルもまた公爵令嬢として引きこもる事などせず久しぶりの王宮に背筋を伸ばす。

…おっくうだわ。


会場に入ると既に雅楽団の音楽が流れ多くの蝶が今か今かと舞うその時を待っていると音楽が代わりファンファーレが鳴る。

アナベルは正面入り口に向かって頭を垂れる。一斉に皆が顔を上げるとどよめきが起こった。

正式な夜会とは異なる為に国王陛下や王妃の姿は無い。王族と準王族らが並んで入場してくる中、ミハエルの隣にはあのトゥモルデン王国筆頭公爵家、マリアンナが並び立っていたのだ。


マリアンナはトゥモルデン王国筆頭公爵家の令嬢でり王太子派でもある。そのマリアンナがミハエルにエスコートされている。この光景に会場はざわめき混乱となっている。アナベルもまた目を疑い2人を凝視している。

…裏切り?

トゥモルデン王国筆頭公爵家がトゥモルデン王国を捨てるというのか?はたまたミハエルを王太子に担ぐつもりか?


アナベルは心臓を打つ鼓動が強くなるのを感じた。


放心するアナベルを他所に会場の時間は流れ多くの蝶が舞っている。もちろんミハエルとマリアンナも優雅に舞うその姿は注目の的である。そして次に王太子のライドには、あの夢見る夢子令嬢らがハイエナの如く纏わりついているではないか。


…まぁ、そんな事をしている時ではなくてよ?


アナベルの怒りの矛先は何故がいつの間にかライドに向かっていたのである。



アナベルは感情に押し潰されないようバルコニーへ出た。珍しくバルコニーに先客は居ないようだ。日ごろならば令嬢らが井戸端会議をしていてもおかしくは無い時間。今宵は皆、社交に忙しいらしい。

バルコニーからの眺めは高台にある王宮からしか観ることのできない絶景だ。トゥモルデン王国の自慢の街並みが一望出来る。


『久しぶりだね。息災にしていたか?』


アナベルに声を掛けて来たのは王子でありながらいつもアナベルの護衛のようにエスコートしてくれていたランドルフ第2王子であった。アナベルはすかさず膝を折るとランドルフは手でそれを制するとアナベルの横に立った。

…相変わらずデカいわ。


アナベルは少し微笑むと

『やっと笑ったね。貴女は笑顔がよく似合う。』


…?


『何だか申し訳なかったね。』

アナベルは驚いたようにランドルフを見上げると


『殿下が謝る事など何も無いではありませんか?』


『いや、兄上にあんなに群がる輩が居るとは…』


『それこそ殿下の責任ではありませんわ。それにずいぶんと楽しそうではありませんか?』


アナベルは会場の方に視線を流すとランドルフはバツの悪そうに話しだした。


『知ってるとは思うが、その…昔、昔、大昔の話だけど。幼い王子が1輪の花を片手に令嬢にプロポーズ…』


そこまで話すとアナベルはクスクスと笑いながら

『昔、昔の大昔から令嬢が大好きだったのね王太子殿下は。』


アナベルの言葉にランドルフは片手で額を覆った。


…?


『だからそれはその、遊びみたいなもので…』


『遊びだなんて!それこそ一大事ですわ!王太子殿下を庇われる気持ちも麗しき兄弟愛ですが、飛んだ火の粉にケガされますわよ?女性はいくつでも女性なのですよ?』


だんだんとボルテージの上がるアナベルとは対比しランドルフは顔色が悪くなっていた。


『だからその、それは兄上ではなく恐らく私なのだ。』


…。


沈黙するアナベルにランドルフは尚も



『兄上やミハエルは極度の人見知りであったからね。』


アナベルは堪えきれず声を上げて笑った。


『アハハ!御冗談を!あのお二人が人見知りでしたら殿下は貝ですわよ?そこまでしてお守りにならなくても大丈夫ですわ。それこそ今だって嬉しそうにしてみえましたもの。』



『そうではなくて…私の今の騎士団長としての姿があるのは全て父上の決めた事。

私は昔はおしゃべりが過ぎて兄上やミハエルとは異なり自由の身だったからね?いつも厳しい教育を受ける兄上とそして皇太子の従兄弟という血筋であるミハエルには養子縁組の話もあり得る為に相応の教育がなされていた。』


…。


『だから王子でありながら自由を満喫していたのは私だけなんだ。王子だからまぁまぁ好きな事が出来るだろ?』


…まぁまぁじゃあ無いでしょうね。


『だから俗に言う、ダメ王子だったんだ。それを危惧した父上が騎士としての道を引いて下ったおかげで今の私があるのだ。』


『ダメ王子の件は分かりました。が既に時効ですわ!そんなに弱気になられなくとも大丈夫ですわ。』



アナベルはまるで悪戯を母に懺悔する子供のようなランドルフを微笑ましく見つめた。


『アナベル嬢は優しいな…でも違うんだ。
『君のグリーンの瞳に吸い込まれそうだ。』と言って花を差し出すんだ。』


アナベルは聞き覚えのあるセリフに眉を潜めた。因みににアナベルの瞳はグリーンではなくアイスブルーである。


『こう言うとね、令嬢は真っ赤になって俯くんだ。そしたらね『僕が大きくなったら迎えに行く!』って言うとみんな嬉しそうな表情となる。それが嬉しくてね。こう見えて私も王子だ。2人とは違い期待などされていない王子だったけどね?その私が令嬢を幸せにする事が出来る事に喜びを感じていたんだよ。』


謝罪していたはずのランドルフはいつしか懐かしそうに目を細めている。


『でもその話をよく王宮でしていたから、どっかから漏れたんだろうな。全て漏れてくれればまだいいものを変な所だけ切り抜いて漏れるから困るよ。』


…自業自得ですね、殿下。


『それを今のこの混乱する中で持ち出すなんてズルくない?』


とうとう開き直ったランドルフにアナベルは一言


『殿下、自業自得ですわ。』

ランドルフは驚いたようにアナベルを見た。アナベルもまた夢見る夢子となって待ち望んだ王子がこのバカ王子という衝撃に泣きそうになりながらもランドルフを軽く睨見つけたのである。


長年待ち続けた初恋が無残にも砕け落ちたひとときであった。




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