こじらせ王子とその妃【完】

mako

文字の大きさ
87 / 94

エリックの恋心

しおりを挟む
ヨハネスはこう見えて案外弟想いな兄なのである。カールトンにエリックが側妃として迎えたい相手を会わす段取りを行い、また相手の女性を慮り王宮ではなく王族の別荘をその場所としたのである。


『殿下もなかなか素敵な所がありますのね。』

嬉しそうなエリーヌにヨハネスは

『そんなんじゃないよ。別荘にまだエリーヌを連れて来れてなかったからね。』


そう言うと馬車の窓から外を眺めた。

一方のキャサリンはあたかも自分が紹介される相手か?という位ガチガチに緊張し何度も鏡に自分を映している。


『キャシー、少しは落ち着いて。君がエリックの想い人のように緊張してどうするの?』


キャサリンはカールトンの隣りに移動するとカールトンの手を握り微笑む。


…ここで?

ヨコシマなカールトンに対してキャサリンは

『身分など置いておいて今日はエリック様のお相手のお人柄を見てくださいね。』


カールトンはがっくりと項垂れるも

『わ、分かっているよ。』


前を走るヨハネス達の馬車とは裏腹に、賑やかな雰囲気のまま別荘へと馬車は進んで行った。




別荘に付くと既にエリックとそのお相手はテーブルに付いていた。

カールトンがノックをして入室すると2人は立ち上がりカールトンに

『兄上!今日はお時間ありがとうございます。』

『礼ならヨハネスに言うんだな。』

カールトンは微笑みながら相手を確認するとエリックが

『こちら、マリーヌです。』

マリーヌは緊張した面持ちながら

『マリーヌと申します。本日はありがとうございます。』

『固い挨拶はやめよう。私はエリックの兄、カールトン。こちらが私の妃でキャサリン。』

キャサリンは大きな瞳を爛々と輝かせマリーヌに微笑みを送った。


『私はエリックの兄、ヨハネス。こちらは私の妃のエリーヌです。』


ヨハネスの言葉にエリーヌもにっこりと微笑むも…マリーヌは目を見開いた。


『エリ?』


エリーヌはたちまち顔色を失う。

『申し訳ございません。よく似ている方と間違ってしまいました。お許しください。』


マリーヌは申し訳なさそうに頭を下げた。


『貴女が謝る事はないのですよ。』


…見られていたのね。

エリーヌはドキドキしながらフォローをした。



エリーヌは町娘であるが、ガサツさなどは無くドレスを着ていれば令嬢だと誰もが思うであろう。


『兄上、彼女を娶りたいと思っています。』


カールトンはキャサリンの視線を痛いほど浴びながら

『マリーヌ嬢はどう考えているの?』


マリーヌは遠慮ぎみに答えた。


『申し訳ありません。エリックが王子様とは知らなくて。ただエリックとの時間が楽しくてとても素敵な時間を過ごしております中、この時間が続けばいいと願っていました。』


カールトンは表情固くも

『それについては私にも少し考えさせてくれ。さあ、今日はせっかくだから楽しもう』


カールトンの言葉で和やかな時間が流れたのである。







『兄上、どうされるのです?』


王宮に戻り4人は緊急会議中だ。


『…。エリックとマリーヌ嬢の気持ちは分かるがな。マリーヌ嬢がもっと落第点なら良かったよ。身分の障害さえ無ければ何の問題もないのにな。』


頭を抱えるカールトン。


『まさかエリックのやつ、王族から抜ける事は考えてないよね?』


ヨハネスが恐ろしい事を口にすると

『そんな無責任なやつじゃないさ。我々の弟だ。義務は心得ているだろう。』


…。押し黙る4人。


『あの、私は生まれながらの能面集団っていうか…生まれながらのムヌクの人間では無いのでよく分からないのだけど。』


『何がです?ったくこんな時まで能面能面うるさいよ。執念深いのだね?義姉上は。』


ヨハネスの言葉をスルーすると


『この国には養子縁組は無いのですか?』

『そんなのあるよ。あれだろ?貴族らが跡取り…ってその手があるか?』


ヨハネスはキャサリンに珍しくお褒めの視線を送る。


…都合のいい男ね。


『だがどこへだ?』


…。


キャサリンはエリーヌに視線を送るとヨハネスが

『ジュリジアン公爵家は無理だよ?』

キャサリンの口を塞ごうとするも

『わかってますわ!エリーヌ様に暴力を働く家など考えてもないわ。ただエリーヌ様は生まれながらムヌク王国の公爵令嬢でしょう?まして脳内お花畑中だったりしましたものね?それこそ人脈はありそうですが?』

…義姉上。貴女という人は


呆れる視線を投げつけるが


『ありますわ!』


…あるんかい!


エリーヌは思いついた様に手を合わせにっこりと微笑んだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

処理中です...