婚約破棄から始まる物語【完】

mako

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メープル王国のある日

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婚約披露会が迫りレイモンドの機嫌はすこぶる悪い。
アナスタージアもアレクセイからあまり触れない様に釘をさされている。


今夜はアナスタージアが王妃となり初めて主催する夜会が行われる為、朝から王宮ではてんやわんやとなっていた。

アナスタージアは下級貴族まで招待し盛大に催す様に取り計らう。レイモンドも流石に血眼になって動いていた。




夜会が始まりファーストダンスも無事終わり、ダンスを楽しむ者、社交を行う者で賑わう一時。もちろんレイモンドの婚約はまだ正式発表されていないので正装でありながらアレクセイの側に控える。

王妃のアナスタージアは令嬢たちの元へと入り、和やかな時間を過ごしている。

ふと見ると、シルビアの姿もそこにある。
幼く見える王妃の隣に凛と立つシルビアは派手な顔立ちに負けないくらいの真紅のドレスに髪をアップにしおくれ毛が何とも色気を醸し出している。

先程から色々な輩がシルビアをダンスに誘っているが、シルビアは氷の微笑で断わっている。


‥ダンスが苦手か?


そうしていると、シルビアとアナスタージアの前に1人の令嬢がやって来た。

‥あれは確か。あの時の?


先日、シルビアが首を突っ込んだ男爵令嬢だ。
男爵令嬢はシルビアには見向きもせずアナスタージアにカーテシーを取る。

アナスタージアはにっこりと微笑むと男爵令嬢は

『王妃様!少し良いですか?』

あろう事か男爵令嬢はアナスタージアの腕に手を回しテラスの方へ歩き出した。

驚いた周りの貴族たちは唖然とし、もちろんシルビアも目を見開いている。
そこへ先日揉めていた伯爵令嬢が男爵令嬢の前へ出て

『貴女!何をされますの?事もあろうに下級貴族が王妃さまに話しを掛け、腕を引き連れ回すなど言語道断ですわよ!』

『!貴女には関係ないわ!それに顔を見る度下級貴族、下級貴族って煩いわね!私は王妃様を連れ回してなんておりませんわ!ただちょっとご相談があるだけよ!』


誰もが男爵令嬢の行いに怪訝そうな表情をしている。

『貴女のような者が王妃様にご相談など』

男爵令嬢のもう片方の手を引っ張るとよろける男爵令嬢。
それに連なるアナスタージア。仮にも王妃である。


怒りが沸点に達した男爵令嬢はアナスタージアの腕から手を抜いて伯爵令嬢を突き飛ばすも伯爵令嬢は流石の体幹。びくともしない。男爵令嬢は真っ赤に憤りテーブルのワインを掴むと伯爵令嬢めがけて、何を思ったかワイングラスごとぶち撒けた、その時2人の間によろける様に倒れ込むシルビア候爵令嬢。



静まり返る一同。

『申し訳ございません。私今朝から調子が悪く、貧血かと存じますが失礼をいたしました。』


起き上がるシルビア・ランドルト候爵令嬢はもちろん頭の先からワインを被っている。

アナスタージアは駆け寄ろうとするも、シルビアの大きな瞳が静止を表す様に首を振る。
我に返ったアナスタージアは令嬢たちをゆるりと見渡す。


この中で1番の身分でありながら、残念ながら1番幼い。
それでも皆、深く膝を折る。


『貴族の中に生かされている我々にとって、爵位は絶対。しかしその爵位を盾に言い負かすのは私は好きではないわ。』


先日シルビアが放った言葉通りを語るアナスタージア。

男爵令嬢は得意気に声を上げる


『王妃様!』

アナスタージアはふわりとした表情を一転させ王妃の顔となる。


『貴女、貴女は男爵令嬢だからバカにされているのではありませんわ。貴女だからですよ。己を客観視出来るようになりなさい。』


そう言うと男爵令嬢は


『違います!そこの令嬢は勝手に真ん中に倒れ込んで来たただの事故ですわ!』

アナスタージアは大きな溜息を漏らす。

‥話が通じない。


『ですが、シルビア候爵令嬢が真ん中に倒れ込まれなかったら貴女は、男爵家よりも上位の伯爵家の令嬢に怪我を負わせた事になります。そうなれば、我々は貴女をここから帰す事ができなくなっていましたよ?』


言葉を挟んだのは、メープル王国宰相を努める、レイモンド・グランチェスター公爵令息であった。


男爵令嬢は伯爵令嬢の側に寄り添う婚約者であろう男に助けを求めるが男は伯爵令嬢の肩を抱きテラスに出て行った。


男爵令嬢は声を上げた。

『ヴァンズ様』


男は振り返る事などするわけもない。まして伯爵令嬢を放ったらかしに男爵令嬢の元に走り寄る訳が無い。

常日頃、伯爵令嬢ではなく、この男爵令嬢に愛を囁いているのかも知れない。それでも公式の夜会でこんな問題を起こした男爵令嬢には二度と近寄らないであろう。


それが貴族だ。
貴族なルールが分からない奴が貴族で居てはならない。

レイモンドは頭からワインを被ったシルビア候爵令嬢に手を差し伸べエスコートをし会場を出て行った。


アナスタージアは心から嬉しかった。
共に王妃になるまで歩んでくれたレイモンド。
彼には幸せになってもらいたいしならなきゃ駄目なのだ。


心地よい雰囲気の中、令嬢たちと和やかに社交を行い、アレクセイの待つ壇上へと戻ると‥


アレクセイの後ろには既にレイモンドが控えている。


‥貴女、エスコート早すぎない?

アナスタージアはレイモンドを小さく睨み付け席に付いた。

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