婚約破棄から始まる物語【完】

mako

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アナスタージアのお説教

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レイモンドは、いそいそと執務室に戻り、ぐったりとしていた。

アレクセイは部屋に入るなりソファに飛び込んだレイモンドを視界に入れない様にしながらも気に掛ける。

『‥』

アレクセイが掛ける言葉を思案していると、アナスタージアが入室してきた。


アナスタージアはギロリとレイモンドを睨み付けると

『大方、執務が立て込んでいるとか言って、早々に戻られたのでしょうね?』


‥え?見てたの?ってかあの場に居たの?

レイモンドは黙ったまま天を仰ぐ。


『レイモンド様?政略結婚は貴族の努めですわよ?アレクの時はあんなに必死でしたのに、ご自分の事となるとどうなのですか?』

レイモンドを覗き込む。

『アレクは王太子だからね?』

『では、あの時アレクが連れてきた令嬢がヴィクトリア様ではなくてシルビア様ならいかがでした?』


ヴィクトリアの名が出て一瞬手が止まるアレクセイであったが平静を装いペンを走らす。


『シルビア嬢ならば問題無かったと思うよ。彼女なら王太子妃として問題無いだろ?』

アナスタージアはニヤリと笑い


『王太子の婚約者として問題ない令嬢が宰相の婚約者で問題があるのですか?それともレイモンド様はご自分こそ真実の愛とやらをお探しになられるとでも?』


レイモンドはぐうの音も出ない。


『アレク!アナスタージアは王妃になって益々強くなっていないか?』


アレクセイは顔を上げ

『そうか?私には変わらない様に思うが?』

にっこり微笑むアレクセイにアナスタージアも同じく微笑む。





『シルビア嬢は美しく聡明でいらっしゃるわ!』

アナスタージアが言うと


『美し過ぎてもはや芸術のようだけどね?』



『シルビア嬢はご自分の意志をしっかりお持ちですわ』


アナスタージアが誇らしげに言うと

『しっかり持たれ過ぎて、他のイザコザにも首を突っ込むけどね?』




『シルビア様は感情をそのまま出されず一旦飲み込まれ、状況を判断して口にされる、貴族のお手本ですわ』


アナスタージアがレイモンドを睨み言い切ると

『そのまま感情を出されない故に無表情なのが美しさと相まって恐ろしいけどね?』




『もぉ~アレク!』


ついにアレクセイを巻き込むアナスタージアにアレクセイは苦笑いをしながらアナスタージアの肩を抱き宥める。


『レイもアナも落ち着け。まだ時間はあるのだ。何もそう急ぐ事は無いだろ?』



そう言っていたアレクセイであったが、現実にはレイモンドとシルビアの婚約の話しは当人たちの知らないうちに着々と進みグランチェスター公爵家での婚約披露会が間近に迫っていたのである。
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