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アトラテラルの湖畔
しおりを挟む背負う鞄からは時折ジャラジャラと鉄の擦れる音がなっていた。
私は《エステラ・ラ・バステル》、世界各地を旅しながら色々な国や場所で通貨を交換している両替商人だ。
私は両替商をするために旅をしている訳ではなくって、旅をするために両替商をしている。
貿易都市ハンベルハベルで手持ちの通貨の一部を両替した私はハンベルハベル近郊で有名な観光地、アトラテラルの湖畔にやって来た。
「すごいなぁ、これは見とれちゃうな」
【アトラテラルの湖畔】
私がこの湖畔にたどり着いたときには日が少し傾き始めていた、木々に囲まれた湖には空の星が映り込み、まるで地上の空といった有様でだった、そんな湖の中心部には丸く一箇所だけ星空が写り込まず深い青色の部分がある。
アトラテラルの湖の中央は凄く深くなっていて、その箇所は深すぎるあまり光を反射しない。
未だに底がどこにあるか解明できていないアトラテラルの湖にはこんな話がある、深い湖の中央の先は神々が住まう世界があり、かつて神々はこの湖から地上に降臨された、神々の世界に足を踏み入れようとした愚か者は水面の底に引きずり込まれ二度と外には出られない、と。
神々の降臨の地、ということで聖地として崇められているこの湖を一目見ようと観光客は後を耐えない有名な湖畔である、事実私も湖の人気に誘われてやって来た観光客のわけだ。
湖畔を歩いていると、屋台をしている少し毛深い胡散臭いおじさんに声を掛けられる。
「お嬢ちゃん!トルパはどうだい、神々の湖畔で取れた魚で作った霊験あらたかなトルパだよ!」
「トルパ?」
「魚を潰して丸めた後に油でカリッと揚げた料理さ!」
神々の湖で取った魚を潰して練り上げて、それを油であげる、霊験あらたかというよりもどう考えても罰当たりな一品だけれども、別に私はそこまで信心深いわけでもないのでカスティール銅貨を3枚支払って1ダースのトルパを買った。
トルパを食べるために付近のベンチに座って、星の映る湖を肴に熱々のトルパを口に放り込んだ。
「ほぁ、は、は、は」
熱々のトルパが口で弾けて、頬の内側を火傷する。
味は淡白なもので魚の甘みと塩がまぶしてあるのでその味がするだけである、綺麗な湖で取れた魚というのは本当なのだろう、泥臭さは一切なく、雑に練られているぶん食感が独特でそれが美味しい。
「お嬢さん商人だろ、ちょっと商談をしたいんだが」
肌が少し黄色く、顔が少し平たい男性に声を掛けられた。
私を商人と言ってきたのは多分巨大な鞄と明らかに旅を指定そうな身なりであろう、若い女が一人で旅をしている危険は重々承知しているつもりの私は、警戒しながら男の話を聞いた。
「いえ、私は物品を売買している商人ではありません」
「じゃあ両替商人か、話だけでも聞いてくれ」
「両替商人でもありません」
両替商は強盗にあいやすい、商材がお金そのものだ、両替商かいと聞かれて配送ですと街の外でいう者はいない。
「もういっそお金もいらない!受け取ってほしいものがあるんだ」
「いりません」
「そういうなって、な?」
胡散臭すぎる男だった、いつ衛兵を呼ぼうかと私は周囲を見渡した。
「これ、スマートフォンって言うんだが凄いんだぞ、こうここの背面のレンズを合わせて、ここを押すとほら!」
男は四角い平たい箱を湖に向けた後、箱のガラス面を私に見せる。
そこには湖の精巧な絵が書かれている、精巧と言うにはあまり緻密すぎて、まるで箱の中身湖が入り込んだようだった。
「凄い」
「だろ、こいつは近くにあるものを写真っていってまあ絵だな、絵にする事と、こことは違う遥か遠くの世界の人々の世界を見ることができるすげえ道具だ」
男は箱の底にある穴に小さい楕円上の道具の先についている突起を差し込む、するとガラス面に写っていた記号は私のよく知る文字に置き換わった、記号はどこかの国の文字であったと推測できる。
その後男は、写真のとり方、SNSの使い方、太陽の光を貯める機械とその機械を繋げてガラスの箱を充電する方法など、私がそれを扱えるようになるための一通りの内容をレクチャーしてくれた。
使い方が分かるほどにこれには途方もない価値があると私は思うし、そうおいそれと人に渡していいものとは思えない、私なら絶対手放さないだろう。
「これ、貰っていいんですか」
「俺にはもう、必要ないんだ」
「何でですか、これ凄い物ですよね、売るにしたってちゃんと売れば一生の財を築けますよ」
私がそう言うと、少し遠くの方から白いワンピースを着た女性が走ってくるのが見えた。
「あなた~何やってるの?」
どうやらこの男の知り合いのようだった、彼は女性の方を向くと優しい笑顔で私に告げた。
「俺はもっと見てあげないと行けない人がいるんだ、そいつは君が色んなところに連れて行ってあげてくれ」
男性はそういうと私のもとを去っていった、私は手元に残された【スマートフォン】で何となく湖を写真に収めた。
「そうだなぁ、せっかく頂いたんだし、、、旅行記でも付けてみようかな」
この日私は、SNSと旅行記の執筆を始めたのだった。
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