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アッシュクアハランのカフェ
しおりを挟むアトラテラルの湖畔近郊から南に移動する道中、大陸中央から東の王国に続く【アッシュクアハラン】、遠くの皆さんの国の言葉に直訳すると【琥珀の道】と呼ばれるこの道は、北部の琥珀の原産地から南方の王国へ琥珀を輸出する目的で整備された歴史を持っている。
現在では国家間の公益が増加した影響で更に人往来が増えた事で、より厳重な警備が行われていて治安が良く、所々の関所で関税を取られ難点があるものの、全然性の高い人気の陸路だ。
南の大国、バイロン王国では近年大規模な蝗害が発生していると噂で聞いている。
その噂のせいでバイロン系の通貨は大きく価値を下げていた、私のような個人の両替商にとってはこの噂の真偽がとても重要であり、もし本当なのであれば手持ちのバイロン通貨の数を減らす必要があった。
【ハドリア公爵の墓は無かった】ということわざが私の国にはある、皆さんの国では【百聞は一見にしかず】と同義のことわざだ、ハドリア公爵という有名な貴族が死んだと噂されていたが、いざ足を運べば生きていた、という逸話から生まれた言葉だ。
バイロン王国の蝗害だって実際発生しているかは定かじゃない、足を運ばないと真相はいつまで立っても闇の中だ、それにもしこの噂が間違いであればバイロン王国で安値の通貨を不安要素を払拭した状態で仕入れられる。
旅のついでに商売をしている私だが、旅先は儲けそうなところを狙って旅をしているのだ。
そんなところで、大陸中央からアッシュクアハラン経由で南部に向かう、アッシュクアハランの途中の交易都市で一度宿泊して、そこから相乗り馬車を使う予定だ。
交易都市までは徒歩で移動して半日程度、紅葉している木々を眺めながらの移動は気持ちのいいもので、時折すれ違い人々の会話を聞いたり、人間観察をしながら目的地まで黙々と移動する。
そんな道中、道の脇に1件の建物を見つける。
木造建てで少し植物のツタが巻き付いているその建物はお食事処のようだった、ちょうどお腹も空いていた私は早速そのお店に入る。
お店の中はなかなか忙しそうだった、私はカウンター席についてテーブルの上に置いてあるメニューを見る。
注文しようとして店員さんを見ると、黒い髪の毛の中から出ている獣耳が目に入った、ピッグハロンの女性である、人間の耳の他に頭に豚のような耳が生えている種族だ。
色々な場所を訪れている私でもピッグハロンを見たのは初めてだった、スラッとしていて大人っぽく少し憧れてしまう、どちらかといえば私はチンチクリンなので大人な女性は羨ましい。
「サンドイッチと紅茶、砂糖無しでお願いします」
「はいかしこまりました」
ピッグハロンの店員さんにオーダーを出し、私はスマホで遠い世界のニュースを見る。
このスマホを手に入れてからというものの少し空いた時間にはついつい触ってしまう依存性がある、遠い世界の皆さんはこれ以外にも様々な便利な道具があるというのだから、便利すぎて逆に疲れてしまいそうだとさえ思う。
「うわぁ、凄いなぁ、遠い世界は大変そうだ」
今見ていたニュースは大雨で橋が落ちたというニュースだった、大陸中央は天候が温暖でこういった災害はほぼ起こった歴史がない、それこそ今向かう南部なんかは天候に変化があって災害とかも起こるらしいが。
何より遠い世界の人々は橋が落ちたことをこうして直ぐ知れるというのが凄い、私なんかいざ行ってみたら橋が壊れててひどく遠回りをした経験が1度や2度ではない、羨ましい限りだった。
そうこうしている内にさっそく注文していた料理が届いた。
パンを口にほ織り込むと、異常なほどしょっぱい肉に水分を持ってかれるバサバサのパン、そして紅茶は色の付いたお湯だった、これがいい。
街から遠い場所にあるお食事処は保存の効く食材で調理せざるおえないから、基本的には美味しくない。
ある意味これも旅の醍醐味といったところで、この美味しくない料理を食べながら周囲の、色々な境遇、国、人種の人々が集まった中で、周囲の会話を聞きながら時間を過ごすのが楽しい。
それにしてもここまで紅茶が美味しくないのは珍しかった、この手の店の紅茶は風味は無いけどやけに苦い、というのが相場で味も匂いもここまで薄いのはそうそうお目にはかかれない。
そうして食事をしているなか、気になる会話が聞こえてきた。
「オーステリアに大聖堂が新設されたんだってよ」
「金持ってんなぁあそこ」
「凄えらしいぞ、教会関係者集まってわやだってよ」
次に向かう街がオーステリアだ、聖地アトラテラルに近いこともあり教会色の強い街だ。
大聖堂の新設直後ならば教会へ寄付をしたい人が街にわんさかいるはずだ、教会への寄付はアテラ銀貨と決まっていて、銅貨でも金貨でも駄目で銀貨だ、こうなってくると両替の需要が上がっていて結構吹っかけてもいい条件で両替が成立する。
「そろそろ出発するか、お金置いてきますね」
私はメニュー表通りザッパー銅貨15枚を置いて店を後にした。
次に向かう先は交易都市であり大聖堂の新設地、オーステリアだ。
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