エステラ旅行記

エステラ・ラ・バステル

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聖都オーステリアと銀翼の銀貨

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 アッシュクアハランを通って半日程度、既に日が傾きつつあるなかで、斜陽にオーステリアの街が見えてきた。
 聖なる都市オーステリア、アトラテラルに近くアッシュクアハランが通るこの街は巨大な貿易街の側面と、宗教の中心地としての側面を兼ね備えている。

 暫く歩きオーステリアの検問に到着する、検問は長蛇の列となっていて多くの人々が街へ入ろうと待っている。

「憲兵さん」

 私はこんなの待ってはいられない、憲兵の男に声を掛ける。

「どうしたお嬢さん」
「鎧が少し錆びてきているわ、鍛冶屋に出したほうがいいわよ」

 私はそう言いながらバイロン銀貨を5枚ほど憲兵の手に握らせた、俗に言う賄賂である。
 憲兵の男は銀貨の枚数を数えると私を憲兵用の入り口に通してくれた。

「これで娘にいい食事を食わせてやれる、それではよい旅を、お嬢さん」

 オーステリアの公務員は給金が低い傾向にある、教会の力が強くて禁欲は美徳という理念が浸透してしまっているからだった。
 教会の上層部は腐敗していて、末端は貧困に喘ぐのがこの街の問題だった、だから少し賄賂を掴ませれば何でもできてしまうし教育も行き届いていないから対して価値のないバイロン銀貨なんかで賄賂が成立してしまう。
 
 街に入ると底には貧富の格差を絵で書いたような世界が広がっている。
 私の目の前には簡易的な住宅が立ち並び、屋台では安くて健康に悪そうな屋台飯が売られている中で景色の奥には教会勢力の権威の象徴とも言える白い大理石の摩天楼が幾つも立ち並び、新設された大聖堂は圧倒的な存在感を示していた。

 権威と貿易の街、オーステリアに私はやって来たのだ。

 早速まず商売の準備に取り掛かる、屋台が集まっているところに向かいポロニャという穀物のスープを売っているおじさんから木箱を借り、その木箱に布を掛けると私はその上に座り込む。
 そして鞄から部品を取り出して小さな鉄製のテーブルを組み上げた、テーブルにはガラスの装飾が施されていて、ガラスの装飾の中には油が入っていて気泡の位置でそのテーブルが水平かどうかが分かるようになっていた、当然外にテーブルを置いただけでは水平にはならない、机の脚には角度が調整できる装置があるのでそれで水平を取った。

 両替商はこれがなければ始まらない、ブロバックルと呼ばれる机だ、皆さんの国の言葉に直訳すると【水平機付き簡易テーブル】と言う。
 これの上に天秤を置くことで両替の際に構成な取引が約束される、実際はちょろまかす方法はいくらでもあるのだけれど、一般的に両替の詐欺は死刑だ、そんなリスクは誰も侵さない。

 今回取引する通貨はアテラ銀貨だ、前にもちらっと言ったけれど教会への寄付はアテラ銀貨と決まっている、かつて降臨した神は銀翼であったという逸話から、金貨でも銅貨でもなく教会は銀貨しか受け取らない。
 いまオーステリアでは金貨と銀貨の価値が逆転していた、しかしそれは教会が新設された今だけの話で必ずどこかで銀貨と金貨の価値はもとに戻る、今銀貨を吐き出して他の通貨を得るのは大変お得なのだ。

 鞄の中から天秤を取り出して机の上に置く、そして麻袋の中からアテラ銀貨を250枚取り出した。

 さっそくお客さんがやってくる、見た感じ商人だろう。
 ここら辺で商売をするなら教会への寄付は必須と言ってもいい、そしてこの段階で銀貨を買いに来るということは恐らく銀貨が手に入らず困っているといったところだ、寄付が遅れれば送れるほど教会からの印象はよろしくない。

「おい、アテラ銀貨を40枚、バイロン金貨20枚で交換してくれ」

 舐めるなといった内容だった、まあ行商の両替商には最初ふっかけるのが常識なのだけれど、それにしても馬鹿にしすぎである。
 そして最初から成立したら相手が大損するような提案をする相手には商売しないと私は決めている。

「他あたってください、貴方とは商売をしませんので」
「え、まってくれ、交渉ぐらいは」
「しません、帰ってください、これ以上は憲兵呼びます」

 男は渋々私の前を後にした、それを見た周囲の人影が数名消えてなくなる。
 私をカモにしようと考えていた人間は今のやり取りで弾かれた、ここから来るお客が本当のお客様と言うことだ。

「おいお嬢さん、銀貨を10枚ほど、アテラ金貨でいくら必要だ?」

 次に来たのは貴族風の男性だった、教会の新設を祝いにやってきたのはいいが銀貨が手に入らなかったというところだろう。
 貴族の場合は別に少し遅れても寄付さえすればそうそう教会も文句を言わない傾向にある、こちらがあまり有利な条件では仕入れは難しい。

「平時であれば7~8枚ですが、今は寄付の特需で価格が高騰しています、13枚は頂きたいですね」
「ん~、10枚じゃだめかね」
「12枚と銅貨を25枚は如何でしょうか」
「11枚とバイロン金貨を1枚」
「バイロンはいりません、12枚で調印がかなり綺麗なものを選別しましょう」
「13枚でいいから調印が綺麗なものを選別してくれ」
「交渉成立ですね」

 流石貴族だ、要は負けてやるからより綺麗なものを寄越せと言ってきている。
 私もこのために手持ちの銀貨350枚の内100枚はお酢を使って変色をある程度取っている、それに法的にはグレーゾーンだだけれども研磨剤を使って磨いている、そのため変色しているのが常の銀貨が異常に綺麗になっていた。
 
「交易通貨はお持ちですか?」
「ええ、これをどうぞ」

 私は貴族風の男から交易通貨と呼ばれる商業組合から発行されている銅貨を10を受け取る。

 私の手持ちの交易銅貨と男の交易銅貨を天秤に乗せるとその重さは均一だった、あとは毎日商業組合が発行している【重量比率表】を確認し、交易銅貨とアテラ銀貨の重さの比較をする。

 今日発行されている重量比率表でいくと、交易銅貨とアテラ銀貨の重量比は3:1である、後は下記のように重さを測っていった。

①アテラ銀貨1枚と交易銅貨3枚を量る。
②重量がつりあったらアテラ銀貨1枚と別のアテラ銀貨1枚を量る。
③重量がつり合ったらその量った2枚を同じ皿に乗せて、別のアテラ銀貨を2枚置く。
④後は全枚数になるまでこれを繰り返す。

 そして次は同じ流れで相手の金貨を量り、お互いの貨幣のお互いが納得したら契約は成立する。
 これも商業組合を全面的に信用して成立する内容だけれども、もうそこは皆考えないようにしていた。

「私は契約は成立させたいと思いますが、どうでしょうか」
「ああ、俺も問題ない」

 お互いの合意が取れると、握手を交わして契約が成立する。
 男から金貨を13枚受け取り、綺麗な銀貨を10枚手渡す。

 交渉が成立したのを見てわらわらと私の近くが人だかりになる。

「あはは、これは全部捌ききれそうかな」



 気がつけば日は完全に落ちて夜になっていた、250枚は全て捌く事ができて、しかもかなりいい条件で契約できた。

「今から、宿取れるかなぁ、、、」

 私は道具を全て形付けると、こんな遅い時間から宿探しを開始するのだった。
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