エステラ旅行記

エステラ・ラ・バステル

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魔式二輪車の購入

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 昨日の両替でかなり大幅な利益を得た私は、この街を出立する朝に凄く悩んでいた。

 オーステリアから相乗りの馬車を使い次の街、サンザドバドルへ向かう予定だったが道中に【黄金の薔薇】と呼ばれるものすごく大きい金色の薔薇のようなキノコがあるというのでそれをどうしても見たい。
 しかし、相乗りの馬車では黄金の薔薇は見に行くことはできない、そして私の目の前には凄く高価な【魔式二輪車】が置かれている。

 オーステリアの中でも中心部にある工業製品の市場で売られているその二輪車は、大陸北部の技術で作られていて、この大陸では暖炉の着火剤として広く扱われる【魔導粉末】を突っ込むことで稼働し馬よりも3倍は速く走ることができる特殊な二輪車である。
 最近SNSで見かけた皆さんの国で言うところの【バイク】とほぼ同じものだ、といっても私の地域で走るこれはバイクと比べれば遅いが、それでも馬よりは圧倒的に速かった。

 価格はアテラ金貨で110枚、家より高い。
 しかし、昨日の商いの結果アテラ金貨は230枚ある、今後の事を考えれば絶対にあった方がいい道具だし230枚払ったとしても手元に二輪車が残るので消耗品を買うのとは訳が違う、買って損は無い。

 でも金貨110枚は大金だ、欲しいけど商売道具でもある金貨を大量消費するのは凄く、凄く気がひけるのです。

「お嬢ちゃんどうしたんだ?冷やかしならどっかいってくれ」

 当然こんな高級品を私が本気で購入を迷っていると思っていない男は私を冷やかしと思って嫌がった。
 仮にも私は商人の端くれ、交渉で有利になりそうな条件が見つかってしまったので思わず買うかどうかも決めていなかったのに二輪車を売っている男に交渉を仕掛けてしまった。

「え、買おうと思ってたのにそんな言い方酷くないですか!」
「え!?これ金貨110枚だぜ、そんな大金持ってるのか!?」
「そんなに私は貧乏人に見えるって言いたいんですね、凄い傷つきました」
「いや、ちょ、まて、まってくれ、金貨105枚でどうだ?悪かったから安くするから、な?」

 私はそう言われると隣に座っているアクセサリー売りの男にこっそり銀貨2枚を支払いながら机においてあった定価でザッパー銀貨1枚の指輪を受け取る、そしてアクセサリー売りの男に見えるようにしてザッパー銀貨4枚を手の中で転がした。

「そこのお兄さんどう思います!こんな酷いこと言っておいて定価からたった5枚割り引くだけで売ろうとするのはオーステリアでは常識なんですか!!」
「あ、ああそうだなぁ、その二輪車は輸入しか仕入れ方法がない超高級品だ、普通値引きはありえない商品なのはお嬢さんも理解すべきだが、それにしても真剣に買おうとしていたお客さんにあんな酷い事を言っておいてたった5枚割り引いて許してもらおうとするのはオーステリアの中でも面の皮が厚い奴しかいねえな」

 二輪車売の男は困った顔をした後に、大きなため息をついて諦めたように言う。

「わかった、100枚、100枚でどうだ、もうこれ異常いじめないでくれ」
「アテラ金貨95枚とバイロン金貨10枚、これで手を打ちましょう、それと貴方が厚顔無恥な人間であると言いふらすことは無いと約束しましょう、北部では聖人であると吹聴する事もお約束します」

 彼をこの先辱める予定も、北部に行く予定も無いがちゃっかり交渉材料にこれを入れれば、

「わかった!それでいい、その代わり一括支払いだ!!!俺の負けだ!!」

 ザッパー銀貨6枚、バイロン金貨10枚、アテラ金貨95枚、これで家より高い二輪車は、家と同じぐらいの値段になった。
 私は早速全額を二輪車売の男に手渡す、二輪車売りの男が金貨の枚数と偽造品の有無を確認している間にアクセサリー売りの男に賄賂のザッパー銀貨4枚を支払った。

「ったく、行商さんに喧嘩売っちゃいけねえな、俺達みたいな温い商人は絶対損するわ」
「いえいえ、貴方にご協力いただいたおかけですから」

 そう言いながらアクセサリー売りの男は銀貨4枚を受け取った。

 暫くすると二輪車売の男は硬貨の確認を終えて、二輪車を私の前に持ってきた。

「高い勉強量だったなぁ、乗り方は分かるか?」
「昔に試乗体験している所があって、その時乗ったことあります」
「おう、こいつは二輪車の中でも最高にイカしたやつだ、可愛がってやってくれ」

 二輪車売の男はそういうと、座面の直ぐ目の前にある取手の様な部分を引っ張り上げ筒状の部品を取り出した、イメージとしては水筒であり、構造も水筒とほぼ同じで上の部分を取り外せるようになっていて、筒の中には魔導粉末が全体の8割ぐらい入っていた。

「いいか?魔導粉末は並々入れるな、粉づまりの原因になるから8分目程度入れろ、空焚きはするなよ壊れる原因になる」

 心配そうにする二輪車売の男は、まるで自分の娘を嫁に出すように心配そうにしている。

「ええ、わかりました、大事に扱うと約束しましょう」

 私がそういうと、二輪車売の男は心配半分、安堵が半分と言った表情を見せた。

「ああ、頼んだぜお嬢ちゃん」

 さあ、次に向かうのはオーステリア近郊、世界最大で最も美しいとされているキノコ【黄金の薔薇】だ。
 キノコと言いながら薔薇というのは、文字に起こすとかなり滑稽だと思った。
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