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第二十一章 偽りの言葉

西沢の愛

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「それなら、私を愛人にしてください、冨樫さんの妻なんてそんな贅沢は言わないから、
ずっと側においてください」

「由子が許さない、俺は由子を愛してしまったんだ、あいつと身体を重ねて、
今まで味わった事がない快楽を経験した……」

「いや、聞きたくない」

葉月は自分の耳を塞いだ。

「もう、お前じゃ、満足出来ねえ」

冨樫は視線を外した。

「はっきり言わねえとわからないなら言ってやる、他の男に感じる女はいらねえんだよ、とっとと荷物まとめて出て行ってくれ」

冨樫は葉月に背を向けたまま、言葉を投げ捨てた。

「冨樫さん」

葉月は冨樫の背中に抱きついた。

冨樫は目を閉じて、ギュッと握った拳が小刻みに震えていた。

葉月は冨樫の前に回り込み、唇にキスをした。

冨樫は愛おしい気持ちをグッと堪えた。

葉月は冨樫を見つめて一言呟いた。

「さようなら」

葉月は部屋を出て行った。


葉月はエレベーターでエントランスに降りると、涙が溢れて泣き出した。

エレベーターの閉まりかけたドアにもたれかかり崩れ落ちた。

泣き疲れたのか、いつの間にか眠ってしまった。

気がつくと、ベッドに横になっていた。

ここはどこ?

「気がついたか」

男性が声をかけてくれた。

「冨樫さん」

「残念ながら俺は西沢守だ」

「西沢さん」

「冨樫のマンションに用があって行ったら、エレベーターのところで、お前がぶっ倒れてたから驚いたよ」

西沢は尋常じゃない葉月の姿に、何かがあったんだろうと、自分のマンションに連れてきたのだった。

「何があった?」

葉月は急に泣き出した。

西沢はベッドに腰をかけて、葉月の肩をそっと抱いた。

西沢にとって、葉月は可愛い妹のようで放っておけないのだ。

「冨樫さんに連絡してしまいましたか」

「いや、お前に何があったのか確かめてからと思い、まだ連絡してねえ」

「よかった、これ以上迷惑かけられないから」

「何があったんだ」

「私、冨樫さんに振られちゃったんです」

西沢は驚きの表情を見せた。

「嘘だろ」

「本当です、冨樫さん、白金組の由子さんと結婚するそうです」

「はあ?」

「それにいろいろあって、由子さんに負けたんです、私」

「信じられねえ」

西沢はしばらく考え込んでいた。

「つまり、お前は冨樫のところを追い出されたってことだな」

「はい」

「そうか、それならここにいろ、俺がお前の面倒を見てやる」

「そんなこと出来ません、西沢さんに迷惑がかかります」

西沢は葉月を引き寄せ抱きしめた。

「俺はお前を放っておけない」

そう言って、葉月のおでこにキスを落とした。
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