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第一章 俺様御曹司

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「はあ?どう言う事だ」

望月はムッとした表情になった。

「お前の名前で彼女を呼び出した」

「親父さんの会社まで行ったのか」

「ああ」

「それで会えたのか」

「会えた、俺、彼女に惚れた、結婚する」

望月は絶句した。

「おい、話が飛躍しすぎだろう、彼女はお前を俺だと思ってるんだよな」

「そこまで、印象づけていないよ」

「わからないぜ、望月さんって今頃うっとりして、俺の名前を連呼してるかもよ」

俺は望月の胸ぐらを掴み、拳を上げた。

「冗談だよ、怒るなよ」

「彼女のことで冗談は俺には通用しない」

「わかった、わかった、それで一目惚れか」

「ああ、そうだ、まず優しい笑顔、それから三十五とは思えない可愛らしさ、控えめな雰囲気、目の前にいて、抱きしめたくなった」

俺は興奮して声が上擦った。

「蓮、落ち着け、そんなに愛らしいなら彼氏いるだろう、人妻かもしれない、指輪を確認したか?」

「いや、そこまで気が回らなかった」

そうだよな、俺がこれほど入れ込んでるなら、他の男が放っておくはずがないな。

でも、俺の気持ちの燃え上がる炎はますます勢いを増していった。

まず親父の会社の採用試験を受けた。

落ちた。

ぼろ負け状態だった。

翌年再度挑戦し、見事合格した。

「蓮、おめでとう、やったな」

「サンキュー、望月」

「でも、これからだな、社長目指すんだろ」

「ああ、少し総務部で勉強だ」

「やっと彼女に会えるな」

「ほんとだよ、もう我慢の限界だ」

だが、俺はやっとスタートライン立ったところで、道のりはまだまだ長い。

そんなある日、俺は休憩室でコーヒーを買おうと自販機の前に立ち、財布から小銭を出した。

「十円足りねえ、マジかよ」

そこに「これ使って下さい」と百円玉を差し出した女性がいた。

俺はその女性の方を振り向くと藤城美希だった。

俺は目が点になり、固まった。

彼女は恥ずかしそうに俯いた。

なんて可愛いんだ。

久しぶりの対面といきなりの可愛さに俺は彼女の手を引き寄せてしまった。

やばい、我に帰りすぐに彼女から離れた。

「すみません、俺、あの……」

彼女は「大丈夫ですよ」と百円玉を手渡してくれた。

それから事あるごとに、話す機会を狙っていた。

楽しい、彼女とのたわいもない会話は何て楽しいんだ。

俺は彼女にぞっこんだった。

俺は次の目標に向かって進み出した。

社長の座を親父から奪う事だった。

俺は勉強のためアメリカへ渡米した。

彼女に会えない事は胸を引き裂かれる思いだが、彼女との結婚に向けての第一歩だから、根性見せる時と自分に言い聞かせた。

アメリカに渡米する前に、望月と呑み明かした。

「望月、俺は彼女と結婚するからな」

ろれつが回っていない、俺はあまり酒は強い方ではない。

それに引き換え、望月はめっぽう酒に強い。

「まっ、頑張れ、そう言えば彼女、旦那とか恋人とかいるかどうか聞いたか?」

「旦那とか恋人?あっ聞くの忘れた」
「何やってるんだ、彼女、旦那や恋人いたら、お前の入る余地なしだぞ」

「奪えばいいじゃん」

望月は大きなため息をついた。

「おい、蓮、バカな事言ってるんじゃないぞ、そんな事出来る訳ないだろう」

俺は急に酔いが覚めて心配になってきた。

次の日、出社した時、思い切って彼女に聞いてみた。

「藤城さんは結婚してますか」

彼女は目を丸くして、驚いた表情を見せた。

「結婚はしていないです」

「じゃあ、付き合っている人はいますか」

「いないです、なんでそんな事聞くんですか」

「気になるからです」

「おばさんをからかわないで下さい」

彼女はちょっと拗ねた表情を見せた。

「藤城さんは、おばさんじゃないし、からかってなんかいないです」

「鏑木さんはおいくつですか」

初めて俺の事聞いてくれたからテンションが上がった。

「俺は今年二十三です」

「お若いですね、ひと回りも私が上です」

「全然見えないですよ」

彼女は恥ずかしがり俯いた。

俺はデートを申し込みたかった。

しかし、親父に釘を刺されていた、立場を考えろと……

それにもう時期アメリカに渡米するのに、からかわれていると思われては俺の人格に関わるので、ここはグッと堪えた。

そして俺はアメリカに渡米した。

いつも休憩室にいて、話しかけてくる俺の存在を彼女は多少は気にかけてくれていたなんて考えも及ばなかった。


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