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仁の腕の中にいたまゆ

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「二人って、俺ともう一人は誰だ」

「工藤飛鳥だ」

「工藤飛鳥って、工藤組若頭の工藤飛鳥か」

「ああ、はっきり言われたよ、奴が好きだって」

「でも、工藤飛鳥は命を落としたんだよな」

「まゆを助けるためにな」

「でも、お前と結婚して、子供を生むことを選んだんだよな」

「ああ、まゆの中に自分がいなくてもいいだなんて、情けない男だ、俺は」

「それなら、まゆを手放せ、まゆの側には俺がいる」

「だめだ、たとえ、まゆの心の中に俺がいなくても、俺は生涯まゆを守っていくと決めたんだ」

「それなら、お前がまゆを守れ」

俺は自分自身と闘っていた。

まゆの中にいるのは仁だ、いつか俺の元を離れていく、まゆの口からその言葉を聞くことに

恐怖を抱いている。

まゆは子供のため、俺のために俺を好きになろうとしてくれている。

でも、まゆの中に俺はいない。

それでいいのか。





祐志は夜勤の間に、まゆにLINEをした。

『まゆ、大丈夫か、今日、仁が病院を訪ねてきた、若林には十分気をつけるようにとのことだった、まゆは俺の妻だ、そしてお腹の中の子供は俺の子供だ、俺はまゆを守っていく、
俺の命に変えても、でももし、お前の中に存在しているのが俺じゃないならお前は、いつか俺の元を離れるだろう、だが俺は……』

LINEはここまでで送られてきた。

まゆは祐志の気持ちを確かめることが出来ないまま、お疲れ様のLINEだけ返した。

当然この後、祐志からの返信はなかった。

やっぱり、祐志さんは私が仁さんに惹かれているんだと勘違いしてる。

どうしたら、わかってもらえるだろう。

工藤さんの時のことがあるから、説得力ないかも。

今日は祐志さんは夜勤だから、私一人だな。

その時、お腹の子が蹴った。

あっ、そうだね、ママは一人じゃないね。

頑張らなくちゃ。

その頃、俺は自分で送ったLINEを読み返して、そんなこと思ってもいないくせにと、

自分を攻めた。

まゆを手放したくない気持ちといい加減まゆを解放してやれよと言ってる自分がいた。

まゆの気持ちをはっきり確かめることが出来ない。

なんて情けないんだ。



俺は夜勤明けマンションに戻った。

入り口ドアを開けると、男性の靴が置いてあった。

誰が来てるんだ。

リビングのドアを開けると、泣いているまゆを抱きしめている仁が俺の視界に入ってきた。

まゆは俺の存在に気づき、慌てて仁から離れようとした。

まゆは涙を拭いながら「おかえりなさい」と声をかけた。

俺は仁の胸ぐらを掴み殴りつけた。

「祐志さん、やめてください」

「てめえ、俺が留守の間に何してやがる」

まゆは慌てて、俺と仁の間に割って入った。

「祐志さん、違います、仁さんは……」

「うるせえ、そんなに仁が好きなら、離婚でもなんでもしてやる、とっとと出て行け」

「祐志さん」

「うわ言で名前を呼ぶくらい好きなんだろう」

仁はまゆの腕を掴み「まゆ、俺とこい」そう言ってまゆを連れて行こうとした。

嘘、どうしよう、私、祐志さんが好きなのに……

私は仁さんの腕を振り払って、祐志さんにしがみついた。

「祐志さん、誤解です、私が好きなのは……」


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