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しおりを挟む扉の音に促されるように、こちらを向いた瞳は虚ろに濡れていた。だらりとしなだれた上肢。拘束の中で未だ逃げを打とうと痙攣する下肢が惨めたらしい。衰えを知らない淫具に何度も絶頂を強いられた穴から玩具を引き抜き、木馬を下げる。天井から吊るした両手はそのままに、立たせた足を左右に開かせ、足首を床の留め具と繋ぎ止めた。
混濁をうつす瞳が、新たに牢の中へと立ち入った気配に吊られて上を向く。その瞬間。濁りかけていた表情に爛々とした殺意が蘇った。
三人の奴隷を背に従えながら、牢に立ち入った人物こそ、我らが王であった。
拘束具を打ち鳴らす音が一度響いたが、それきり。宿敵ともいえる存在を前に、彼は無様に喚くような真似はしなかった。冷静を纏う態度の一方で、その瞳は冴え冴えとした怒りに滾っていた。
二人が対峙したのは王子を捕えたその日以来だ。その際の王の暴君の如き行為を思い返し辟易とするが、今回はまた趣向が異なるようだった。
今日はお前に機会をやろうと王が言った。三人の奴隷が王子を囲み、据え置いた長台の上に砂時計が置かれる。
これから、十五分間。
奴隷がお前の身体を嬲る。その間に絶頂に堕ちなければ、捕虜の一人を解放しよう。
十五分の間に達してしまえば王子の負けと下し二人目のカウントに入る。これを十五人いる捕虜の数だけ繰り返す。
拘束された肢体を一方的に嬲られるのだ。誰にとって不利な条件であるかは明らかだったが、王子は慎重に言葉を選び、解放条件が確かであるかを確認した。国民へ自由を与えられる可能性がある。その一抹の望みの為に、この男は自身を差しだすことを厭わない。今日迄の態度で確信していたが、それはセリヴィアの民からすれば失笑を誘うような甘さだった。上に立つものとしては、あまりに。
砂時計が返された。
同時に陰茎の根を縛る紐が解かれる。巡る血液に肉棒は熱く滾り、既にはち切れそうな勃起をみせた。この数日間射精を堰き止めていた。腹に仕込んだ媚毒も通常より強力な類であったが、どうせいつも発情状態に落としこんでいる体だ。常と大差ないだろうとわざわざ口にはしなかった。
四肢を拘束された身体に六本の手が這い回る。その指先は性感帯を避けて、既に触れれば震えるほどの熱を孕む身体から更なる性感を引きだしていく。たっぷりと時間をかけて下拵えを施し、背をなぞる指先にすら過敏な反応を返すほどに仕立てられた時、ひとりの手が勃起を包んだ。直接的な快感に腰元が震えたが、王の手前、王子は己の意志で反応を押し留め、ともすれば溢れそうな声を喉奥で擦り潰した。
根本から先端までを絞るように、ねっとりと扱きあげる。他愛無い手淫も今の彼には拷問に近しいのだろう。否応なしに掻き立てられる快楽の波を何度も身中で制し、やり過ごしているのは傍目に明らかだった。他の手は陰部への快感を引き立たせるように肌を撫でながらも、不意にくすぐるように脇腹や太腿に触れては、快楽を凌ごうと強張る肢体に脱力を促した。その度に王子の爪先が冷たい床を強く踏みしめる。なんの枷もなければとっくに吐きだしているだろう肉棒に溢れた蜜を塗り拡げられ、淫猥な音を立てながら扱かれる。一絞りごとに筋だった内腿が震え、漏れ出す呼吸は浅く短くなり、何度も何度も限界を飲みこむ音が静寂に染まる牢の壁に響いた。王子の視線は時折砂時計を向いた。さらさらと落ちゆく砂を睨みつけながら、刻々と耐え忍ぶ時間は過ぎ、ようやくその砂が落ちきろうとしたところで陰茎を嬲る手が一本増えた。吐精を待ってひくつく尿道口ごと亀頭を包まれて、噛み締めた口端から濁った呻きが漏れる。だがすぐに唇を噛み、敏感な先端を撫で擦る容赦のない手のひらに顔を真っ赤に染めあげながらも、王子は砂が落ちきるその瞬間まで射精を耐えきってみせた。
──しかし愛撫は止まらなかった。
一瞬安堵に染まった瞳が、驚愕に塗り変えられる。まだ五分残っていることを告げると、困惑の表情が徐々に怒りに染まっていった。砂時計が指標に足るとは誰も口にしていない。目に見える希望に勝手に縋っては勝手に打ち砕かれ、一度限界を超えた体を突き崩すのはたやすかった。後ろから伸びた手が陰囊を揉み込む。三本の手で丹念に肉棒を蹂躙され、十五分に達する直前に濃い精液が奴隷の手を汚した。
乱れた吐息を漏らす王子の顔を上げさせる。絶望と自己嫌悪に染まる瞳に、ぞくぞくと甘い恍惚を覚えた。床に散った敗北の証を指しながら、国民よりも吐精を選ぶ愚かさを揶揄するとその表情がまた酷く歪んだ。一人の男の堕落を見届けた王はそのまま続けろとだけ残して牢を後にした。
まだ何も終わっていない。絶頂の余韻を残す身体に手が這い回り、勃起したままの肉棒が奴隷の口に咥えられた。厚い舌の感触に仰け反ると、突きでた胸の突起が摘まれる。刺激をきらって引こうとする腰を押さえつけられて、肉棒を熱い咥内に絞られる。王子は先と同様に快感に抗い、十四分間、耐えて、耐え抜いた先で乳首を捻られて吐精した。奴隷が口を開き、舌を突きだす。白濁を見せつけられた彼の目が昏く沈んでいく。
三人目に入ると、蕩けた肉穴も凌辱の対象に加わった。一日目中梁型を咥えていた穴は容易に三本の指を飲みこんだ。弱点に成り下がった腹の中を掻き回されて、くぐもった声がひっきりなしに響いた。度重なる絶頂と巧みな愛撫によって、肌は鋭敏さを増していく。その上で全身の性感帯を捉えられては持ち堪えようもないはずだったが、刻々として苦悶の時間は重ねられていく。その意図に王子も勘づき始めているだろうか。時間が満ちる寸前まで丹念に嬲られて、最後は鈎方に曲げた指先に前立腺を圧迫されて、とぷりと精液が押しだされた。息もつかない内に次のカウントが始まる。そうして次も同じく、時間いっぱい弄ばれた後、あと少しというところで精を搾り取られる。
最初から、王子に勝ち目なんてない遊戯だった。
長けた性奴隷たちの手にかかれば、媚毒に染まった身体の支配などたやすいことだ。尿道のひくつき、肉壁の痙攣、肌の震えから読み取り、絶頂の一歩手前で凌辱の手を緩める。しかし決してその高みから降りてこられないよう、手は止めず、王子が強靭な精神をもって抗えばギリギリ堪えうる快感を練りこみ続ける。そうして限界の狭間に押し留められた肉体の感度が頂点に達し、残り数秒となった時点で、決定的な愛撫により絶頂を叩き込む。
手の届く場所に吊るされた希望が、目前で断ち切られる。王子がこの行為の本質に気づいたところで、制止の声を上げることはない。民を餌にされる限り、彼はこの凌辱に身を投じるしかなかった。そうして肉体は緊張と弛緩を、心は期待と絶望を繰りかえし、少しずつ摩耗していく。
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