鏡にのまれて

木邑 十八

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1章

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 暗闇の中、規則正しい高くて少し不快に感じる音が鳴り響く。少しずつその音は鮮明になっていき、暗闇から光が入ってくる。そして、隣にある音の根源を止める。そのまま、放心状態でいると下の階から母親の声がした。
「旭まだ寝てるの?」
声が大きい声で言われると本当に寝ていたくなってしまう。
「はーい。今行くよー。」
 制服に着替えて下に降りるのはとてもだが、僕は聞き分けのいい息子を演じなければいけない。だから部屋で身だしなみをきちんと揃え、いつもの朝を迎える。
 下に降りるといつものように母親が朝食の用意をしてくれていた。新聞を読みながら座っている父親の前に座り、「おはよう」と声をかけると「ああ。」とだけ返ってくる。それは、果たして挨拶なのだろうか。という疑問は残るがこの家の大黒柱に言えるはずもなく朝食に手を伸ばす。
食べ進めていると階段から駆け下りてくる音が聞こえた。妹が下りてきたようだ。
「おはよう!じゃあいってきます!」
「あら?由希ちゃん朝ご飯は?」
「いらない!コンビニで買う!」
 妹は週に二、三回は朝ご飯を食べていかないことがある。普通の人なら何とも思わないことも僕の家では違う。
 僕も遅刻ギリギリで一度朝食はいらないといったことがある。しかし、いつもは無口の父親が激怒した。「お母さんが一生懸命作った朝食を食べないとは何事か!遅刻しても食べろ!お前が起きないのが悪い!」と妹の時も同じようなことを言っていたが妹はそれを聞き流し普通に食わずに出て行った。
僕は妹とは違い変なところが真面目だ。親に駄目と言われればそれを守らなければならないという義務感が出てきてしまう。だから僕は学校を平然とさぼれる人はうらやましいと思う。別にしているわけではなく、むしろ尊敬している。親という権力者にとらわれず、自分の意志を持っているのだから僕よりは素晴らしい生き方をしているに違いないだろう。
 家を出ていつもの通学路。この時、僕が演者でいなくていい時間の一つだ。あとは部屋にいるときと寝るときそれ以外は気を抜くことはできない。だからこの時間はとても大事だ。好きな音楽を聴きながら学校まで行くのが唯一至福の楽しみでいつも知り合いがいないときに登校している。だからこの時間に邪魔する者はいない。
「あ!旭じゃん!おっはよう!いつもこんな早く登校してんのな!」
同じクラスの山崎 成美(やまさき なるみ)だ。いつも一緒に行動しているメンバーの一人で正直絡むのはとても億劫だが、悪い奴ではない。だがこいつのせいでスイッチを入れなければならない。僕はそっとイヤホンを外し、彼のほうをみる。
「おはよう!成美ちゃーん!」
と、茶化すように返す。これが、学校での俺だ。
「成美ちゃんって呼ぶなよ!俺は女じゃねぇぞ?旭ちゃん?」
「お前も呼んでいるじゃないか。」
「呼んだっけ?」
「とぼけんなよ」
 くだらない話で僕の至福の時間は潰され教室につくと運の悪いことにいつものメンバーが揃い、何やらこそこそと話している。
「おはよう!みんな~旭様の登場だぜ!」
「成美ちゃんやめようね。」
 いつもならこのあと皆、言葉を被せてくるという絡みがあるのだけれど何故か今日は絡んで来ないそれどころか目も僕に合わせない。何かがおかしい。
 その中の一人が俺の前に来てある画像を見せてきた。それは中学校の時の僕の画像だ。僕が中学の時にいじめを受けていた時の写真だった。今とは真逆の根暗で協調性のないくずの時の僕が写っていた。
「旭がまさかそんなんだったとはなぁ俺がっかり」
「私もこれと仲良くしてたと思うと気分わるーい。てか、旭って数年前SNSで周ってきた子じゃね?」
「まじか、旭今と全然違うじゃん」
「お前らそんな写真だけで旭のことを悪く言うなよ。っておい、旭!」
 僕は頭の中が真っ白になり無我夢中で走った。
油断していた。僕は演じていれば大丈夫だと思っていたがそれは違う。僕が軽率だった。高校に上がり、完璧に演じたとしても過去は消えることは決してないのだ。
 校門に差し掛かった時肩をひかれた。振り返ると山崎が息を切らしながら追いかけてきてくれたようだ。
「なんだよ。裏切り者の俺に何か用か?」
「俺はお前の過去とか、容姿なんてどうでもいい。」
「嘘つけ、俺は中学の時眼鏡で協調性のないクズだぞ?どうでもいいわけないだろ。」
「過去のお前がどうであれ、俺は今のお前と馬鹿なことで仲良くできればいい。」
「俺はお前らなんかと仲良くしたくない。本当の僕のことも知らないくせに。」
 何故このようなことを言ったのかはわからない。けどこれで僕は終わりだ。
 僕は彼の腕を解きまた走り出す。後ろから山崎の声が聞こえるが戻れるほど僕に根性なんてあるはずもなく、ひたすら走った。
 家に帰ると母が僕に話しかけてきたが、それを無視して部屋に戻る。母が扉をたたいていたが、僕は耳をふさいで聞こえないようにしてそのまま目を閉じた。
 夕方ごろ妹が帰って来て母に説得を頼まれたようで部屋の前で話始める。
「お兄ちゃん何があったのか知らないけどまた中学の時みたいに引きこもる気なの。」

僕は中学の時に引きこもったことがあった。
 中学校の入学式の時小学生の友達と一緒に新しい友達ができるか、同じクラスになりたいという他愛のない会話をして向かっていた。その友達は隼人くんといい明るく元気で人懐っこくて万人受けする性格の子で僕はいつもその子の後ろに隠れていた。隼人くんがいないと僕は分離不安症のようになり隼人君とクラスが違っても常に一緒にいて中学でもそれが続くと僕は思っていた。
 学校に着いてクラス発表を見ると隼人君と僕は同じクラスで僕と隼人くんは喜び、教室に向かい席に着く。隼人くんとの席は見事に離れ、僕は少し不安になった。反対に隼人くんは初対面のみんなと楽しそうに会話をしていた入学式の次の日は入部体験で僕は当然隼人くんと周ると思っていて、授業が終わった後隼人くんの所に行くとそこには隼人くん以外に四人いた。
「あ、旭ごめん俺今日この五人で周ることになったから一緒に周れないごめんね」
隼人くんに初めて断られた。初めてのことで僕はすごく戸惑い、その場を逃げた。その日から理由をつけては隼人くんに断られ続けた。そんなある時放課後に忘れ物をして教室に忘れ物を取りに帰った時、隼人くん達の声がした。
「隼人あの子に誘われてもすごい断るじゃんあれ何でなの。」
「え、だって、あいつずっと俺に付きまとってきてうざいからさ。マジ、ホモかよって感じだよな。」
隼人くんたちが嗤う。
 その日から僕は隼人くんに付きまとわなくなった。独りで過ごすようになり、隼人くんから遊びに誘われても断るようになった。それが気に食わなかったのか隼人くんは僕に当りがきつくなった。朝僕が来ると「お、陰キャが来たぞ」と嗤う。それを聞いてクラスのみんなも嗤う。
独りなのはつらくなかったが、隼人くんたちの機嫌悪い時は暴力を振るわれた。クラスのみんなはそれを笑ってみているだけだった。そんな中一人だけ庇ってくれる人がいた同じクラスの谷口さんでこけさせられた時には「大丈夫?」と声をかけてくれ、朝僕を見かけると「おはよう」と声をかけてくれた。それから谷口さんとは放課後一緒に帰ることが多くなり、相談をよくするようになり自然に僕は谷口さんと行動するようになる。そんな生活が続いたある時に谷口さんに「どうして関わってくれるの」ときいてみると「可哀想だから」といった。同情心で付き合ってくれているとは思っていたが面と向かって言われると少し悲しい所があったが、その時は独りじゃないだけで心強い味方だ。
 中学二年になってすぐのころ僕へのいじめは過激になっていき暴力や暴言は当たり前になっていた。
いつものように校舎裏に連れてこられて暴力を振るわれると思っていた。
「旭君って女子より細いじゃんほんとに男の子なのかな」
と隼人くんのグループの女子が嗤う。
「確かに背も小さいよな。」
「じゃあ、男か確認しようよ服脱がして。」
僕は全力で抵抗したが、四人相手に勝てるはずもなく、僕は後ろで見てる隼人くんに助けを求めたが「助けるわけないじゃん」と嘲笑われる。それから服を脱がされ抵抗したら暴力を振るわれ、痣だらけの身体に落書きをされた。僕がいくら謝っても、泣いてやめてと訴えてもそれは聞き入れてはもらえなかった。
「ちょっと、ダメだよ。」
聞きなじみのある声ですぐ谷口さんだと分かり僕の中に小さな希望が生まれる。「谷口さん助けに来てくれたの」と声を出そうとしたとき谷口さんが「もっと可哀想にしなきゃ」といった。
「え。」
「ぬるいよ。帰る服を無くすくらいに制服刻まないと」
「なんで。」
「言ったじゃん可哀想だからって、だから仲間のふりをして助けに来たと思わせて裏切る。そしたら救えないくらい可哀想ってことになっていい娯楽になるじゃん?」
その発言と共に希望が砕け散る。
「この写真クラスのメッセージに送ろうよそのほうが可哀想じゃん。」
と谷口さんが続け、隼人たちは名案といい抵抗する僕をよそに写真を撮り、続けて暴行を加えた。
 後日クラスの女子がインターネットに写真を載せたことによりいじめが世間に知れた。 それから先生がいじめについて聞きにきたので隼人くんが主犯だと言ったが、先生が言うには主犯をやらされていたと証言していてグループの一人に擦り付け、他の三人と口裏を合わせているようで僕の前に連れてこられた隼人くんは「ごめん。助けたかったけど怖くて助けれなかった。」と平然と嘘をついた。最初は本当に改心して言ったのかと思っていたが先生の後ろで不敵な笑みを浮かべながら彼は口を動かした。「うそだよ」とそれから学校では主犯と言われた子がいじめにあっていると風のうわさで聞いた。僕はまたいじめられるのではないかと思い学校に行かなくなり引きこもった。

 続けて妹が口を開く
「お兄ちゃんが今日学校で何があったのかはわからないけど前みたいに引きこもる気なの?なんでそんなくだらないことをするの?私には理解できないし、お母さんがめんどくさいからやめてほしいんだけど」
僕の件で母と父にとやかく言われるのが迷惑で説得しに来た妹の言葉に言い返せずにいた。
沈黙が続いていた時二階への階段を上がる憤怒を読み取れる足音が聞こえてきて上がりきる頃に「お父さんおかえり」妹が言う、父は「ああ、どけ」といい僕の扉の前に立ったらしい。
「お前は本当にお母さんを泣かせて本当にダメな奴だ。高校になって少しはマシになったと思ったが、気のせいだな。お前は何ができるんだ親孝行もまともにできないのに一人前に引きこもってほんとに屑だなゴミだ」
何故ここまで言われなければならない?僕は僕なりに今まで言われた通り生きてきたのにと考えていたら母が来て父に「そんなに言わないで上げて私は大丈夫、あの子に期待してた私がバカなのよ。」という。何故、家族なのに僕は心配されない?なんで妹ができることが僕にはできない?なんで誰も僕を愛さない?そのようなことが頭でぐるぐる考えていた。
「僕って家族だよね」
 そう発した僕の言葉に「残念ながら家族だ養いたくもない屑だよ」と返される。僕はこれ以上両親の言葉を聞きたくなくなった。そして怒りがこみあげてきたどこにも向けれないこの怒りを鏡にぶつけることにした。怒りを拳に閉じ込め鏡に向い思い切り目を瞑り殴った。
 殴ったことがない僕は痛くなるのを恐れ目を瞑ったが、全然痛みがやってこない。むしろ手にはやわらかいスライムのようなものが手を包んでいく感覚がした。恐る恐る目を開けると手がどんどん鏡に飲み込まれていった。とっさに近くにいる家族に助けを求めようとしたが、必要とされていない僕が助けを求めたってきっと家族は助けてくれないだろう。それを見て悲しむのは俺で俺がいなくなることで悲しむ人もいない。きっと俺はこれで死ぬのかもしれないけれど、今死んでも後悔はない。そう思い鏡に飲み込まれていった。
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