夏に降った雪は、儚くも散る

月詠嗣苑

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霊能力者・高塚恭也

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    俺の名前は、高塚恭也。都立弥生学園に通う高校一年。

    人は、俺の事を『方向音痴』と言うが、あながち嘘ではない。なぜなら…

「おかしい。家にたどり着けない…」

    くすっ…

「おい、誰だ?いま笑ったの。お前か?違う?すまんな。じゃ、お前か?違う?じゃ、お前?」
『…。』(いきなり、消えんじゃねーよ!)と、消えたモノに文句を言っても仕方がない。


    学校帰りにいつも曲がらない道を通って通って通って…

「はい、迷子確定わず」(Twitter風?)かと言って、誰かに助けを乞うには、情けなく、トボトボ歩いて、公園についた。

    俺が公園に入ろうとしたら、ペンキのハゲかけたベンチに座ってた女の子と目が合い、女の子が駆け寄ってきた。

『ね、お兄ちゃん。あれ、なーにー?』とにこやかな笑顔を俺を見、ブランコを指差す。

「ブランコ、だな。乗るか?」
『ブランコ?ブランコ?乗るー。乗るー』と俺の周りを走りながら、ブランコ、ブランコと叫ぶ。

『すごーい。ブランコー。ブランコー。』大きな声で叫ぶも、辺りには誰も居ない。いるのは、俺だけ…。

『次は、あれー』とサッサとブランコから降りて、滑り台にかけていって、コケた。

(おっ、立ち上がった。偉いぞ!)と突然の母性本能?

『お兄ちゃーん!はーやーくー』と階段の下で、俺を待ってる。
「触れないのね…」多少、感覚はあるが重くはない身体を支え、階段の上に乗せ、女の子はキャーキャー言いながら、滑り降りる。で、また階段の下で…その繰り返し。

(知らん人が見たら、滑り台の下で、怪しげな躍りをしてる人、だな)

    それが終わると、また他に駆け寄り、突き抜けたり、コケたりしてる。

『これ、なーに?うさぎ?くまさん?』

(俺も、この乗り物の名前知らねーし)

    小さな動物の乗り物に女の子を乗せ、揺らし始めると、

『あー、動いたー。すごーい!』とにかく、見るもの、乗るもの全てが珍しくて楽しいらしい。

    少し遊んで、ベンチに…

『みーちゃんね、もぉお姉ちゃんなんだぁ!』
「うん…」

(みーちゃん、って言うらしい)

『だからね、さっき転んだけど…痛くなんか…うわぁぁぁぁぁぁんっ!!』

(我慢してたんかいっ!って、痛みとかあんの?)

    耳を押さえながら、「痛いの?」と聞けば、『あ、痛くない』と答える始末。

『あ、わんわー。わんわー!』指差す方向に、犬を連れたお婆さんがいた。犬は、ジッとこっちを見てる。

(いや、睨んでる?ヤバくね?)動物には、見えるとか言うし…。場所を…隣にいた筈の女の子が…

「げっ…」

    大人しくしてる犬に、馬乗り…しようとしてるも、空振り…

「ど、ども。か、賢い犬ですね」とヒヤヒヤしながら、お婆さんに…いや、犬に近付く…

(犬、苦手なんだけどぉーーっ!)

    リードに繋がれたゴールデンレトリーバーは、俺と隣にいる女の子を見ながら、クンッと鳴き、お尻を降ろした。

『乗れるの?』と俺を見上げるから、頷く。

『わぁい!わぁい!わんわー、わんわー』

    お婆さんが、ニコニコ笑って、リードを外し、犬は公園の中をゆっくりと歩き始めた。

「すみません」
「いいんですよ。たまには、歩かせてあげないと」一瞬、見えてるのかと思ったけど、違ってたらしく、犬は女の子を満足させると、再び腰を降ろし、またお婆さんと公園を出ていった。

『楽しかったぁ!わんわー、おっきかったぁ』
「みーちゃん、いくつ?」
『んと、6歳。みーちゃん、小学校になるんだぁ!』

(6歳、か。小学生になる前に、かな?)

『お兄ちゃん!あれ!ギッコンバッタンしたい』シーソーを指差し、駆け寄りコケる。
「…。」

(さっきも、同じことしたよな?)

『おーっ!たかーい!ひくーい!』みーちゃんの体重じゃ、動かないから、俺が動かす。
『お兄ちゃん!お兄ちゃん!お空、お空』と指差す。

    真っ青な空に、飛行機が飛びながら飛行機雲を作っていた。

『みーちゃんね、1度だけ飛行機乗ったんだよ。おしっこチビッだけど…』
「…。」(そこは、無視した)

「じゃぁな。」
『お兄ちゃん、明日もここくる?』
「うん。くるよ」

    なんとなくこのみーちゃんが、なんで成仏しないで、この世界に居座る?のか知りたくなった。

『明日、いっぱい遊ぼーね!お兄ちゃん』そうみーちゃんは言い、どこかへいってしまった。


    翌日は、朝から小雨がパラついていたが、みーちゃんは公園のベンチに座って待っていた。

『あ、お兄ちゃん!!』と駆け寄り、少し安心した顔になった。
「あそこ、行こっかね?」と小さな祠を指差し、みーちゃんと一緒に雨宿り。

『みーちゃん今日ね、陵ちゃんに会ってきたのー』と嬉しそうに話す。確か、みーちゃんの話だとストーカー(今だと、そうかな?)さながら、毎日陵ちゃんの側にいるらしい。

「あー、弟?」
『うんっ!陵ちゃん!お兄ちゃんより、かっこいい!』
「…。」

(初めてだ。霊に傷付けられたのは!子供は、恐ろしい)

「いくつ?」
『みーちゃん…わかんない。けど、前にあとつけた時にね、大学芋ってとこ行ってた!』

(大学?それとも、大学院?)

「俺より、上か…」

(…ってことは、みーちゃん、も?上?)

『みーちゃん、おうち見に行きたい…』
「おうち?」
『うん…。陵ちゃん、元気ないもん。』

(弟が心配らしい。お姉ちゃんだもんな。小さいけど)

    雨もやんだから、みーちゃんと手をつないで、『こっち…ここ曲がって…で…』

(いま、ここでみーちゃん消えたら、俺、戻れる自信ねーし!)

『いるかなー?どーかなー?』みーちゃんは、ソワソワしながら、その邸宅の門をチラチラ見ていた。

「あ…」門から誰か出てきた!けど…

    出てきたのは、若い男性と年いった女性…母親?

『陵ちゃん!』すぐさま、みーちゃんがかけてなんか言ってたけど、見えないし、聞こえないからな…

    若い男性は、母親に何か言って、俺の方へ向かってきた。隠れるのを忘れたが、幸いにも?その男性は、俺に気付かず駅の方向へと走っていった。

『陵ちゃぁぁぁぁんっ!!うわぁぁぁぁぁぁんっ!!』

    みーちゃん、ガンガン泣いてるが、母親には届かない。泣き叫ぶみーちゃんの手を取り、公園へと戻る。

「喧嘩したのかな?」
『ばがんだいぃ…うぐっ…』
「…。」いくら幽霊でもこのままにしておくのもなぁ。子供っちや子供だし?幽霊だけど!

    で、仕方がないから、みーちゃん、泣き止むまで側にいることにして、俺は母さんに怒られた…

    次の日もそのまた次の日も、学校の帰りに公園に寄ってはみーちゃんと遊んだり、その日あった事とかを聞いたりしていった。


「ね、ひとつ聞いていい?」
「うん。いーよー」いつものように、ブランコに乗ってるみーちゃんに聞いた。
「いつも、握ってるのって、お人形?」と聞いた瞬間、みーちゃんの顔から、笑顔が消えた?ように見えたが…

『これ、みーちゃんの。ママが、買ってくれたの…』

(母親出てきた時、咄嗟に隠れなかった?)

「みーちゃんは、どうして上にいかないの?」
『…。』

(行けない、ではなく、行きたくない何かがある!)

「みーちゃん?」みーちゃんの手を…人形を持ってる手に触れた瞬間!!

    全てが伝わってきた。この子は、こんな小さな身体でずっと悩んでたんだ…。

「陵くんの事が、心配?」みーちゃんは、泣きたいのを堪え、頷いた。

『陵ちゃん、ずっど元気ないもん。ずっどお目めにじわあるもん』小さな小さな女の子は、また泣き出した。

(今までのとは違うな。きつい)

『どぼじだら、陵ちゃん元気になる?』

(それは、俺にもわからない)

「早く元気になるといいけど」

(気休めにしかならない)

    一通り泣いて、段々と落ち着いてきたみーちゃん。

『しょだ、宝物!陵ちゃんに、それあげる!』切り替えが早いのは、子供だから?
「宝物?」
『うんっ!お兄ちゃん、明日、来てくれる?』
「うん。みーちゃんが、嫌になるまで来てあげる」
『じゃ、明日、宝物出して。みーちゃん、触れないもん。触れるのこれだけだもん』

    固く握っていた手が開いて、お人形が落ちた。顔と股の部分には、真っ赤なクレヨンで塗りつぶされているお人形が…

“性的虐待”僅か6歳で、父親に乱暴され続けた女の子。そして、命まで失った?

「明日は、土曜日だからお昼位にはこれる。きっと」
『うんっ!待ってる!』みーちゃんは、手をぶんぶんと振って、またどこかにかけて行った。

「うちに戻ったのかな…」


    翌日、昼少し前に公園にやってくると、みーちゃんはしゃがんでいた。

「蟻の巣?」
『ありさーん!いーっぱい!』

    少しだけブランコ(が、気に入ったらしい)で遊んで、祠を指差し、

『あの下に隠してあるんだぁ。いこっ!』とかけて…

「懲りんなー。痛くないんだろ?」
『うん…』土ほこりもついてないのに、何故か払ってるし。女の子だからね。

『あるぅ?まだ、あるかなー?』祠の床下は、暗くてよく見えないから、スマホのライトを照らして、探し出す。

『まーるくて、真ん中に女の…』
「これか?」錆び付いてるから、いまいちわからないが、丸い缶は見つかった。

『それぇーーっ!』と立ち上がるみーちゃん。床下だから、首から下しか見えてない。

(漫画でよくありそうだ、な世界)

『開けて、開けてーっ』なかなか開けにくかったが、それでも…

    ガゴッ…

「開いたーっ」
『開いた!お兄ちゃん、ありがとう』

    みーちゃん、触れないから、俺がひとつひとつ取り出していくと、みーちゃんそれらを見ては、キャーキャー言ってた。

「あ、写真…」缶の中には、古ぼけた写真が二枚入ってて、一枚はみーちゃんと赤ん坊の頃の陵くん。もう一枚は…二人を囲んでる両親が写ってるモノ。小さな穴だらけだけど。

『可愛いでしょ!陵ちゃん』
「うん。みーちゃん、そっくりだ」
『これ、陵ちゃんに渡したら、元気になるかな?』
「たぶん…」

(時間かかりそうだけど、やるしかないか)

『みーちゃん、陵ちゃんにヨシヨシするんだ!』

(寧ろ、される側では?)

『陵ちゃん、元気になったら、みーちゃんお空行くから…』

っ!!

『前にね、知らないおじちゃんが言ってたの。この世の未練を達成させてくれる人がいるって!その人は、儂達が見えるんだって!』
「…。」
『お兄ちゃん、みーちゃん見えたもん。』
「うん…。」

    それが、どんな結果になるのかは、予想はつかなかったけど、

「頑張るから」としか言えなかった。

    それからの俺とみーちゃんは、それぞれ役割分担をして、毎日報告しあっていった…
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