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26. 魔獣の森合宿③
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その日の夜、ユリアンナはミリカからのSOSを受けてこっそりとミリカに会いに行った。
「それで、どうしたの?急に呼び出して」
「それがさぁ、アレックスが……グループに入れてくれなかったんだよね」
本来ならばミリカが森で置き去りにされた後、不審に思ったアレックスたちがミリカを自分のグループに誘う。
なぜならばミリカを同じグループに誘った令嬢たちがユリアンナの取り巻きの令嬢であり、これ以降もミリカに何かしら嫌がらせをしてくる恐れがあるからだ。
しかし、今回アレックスはミリカをグループに誘わなかった。
どういうことなのか?
「たぶん、私とグループを組んだ子たちとユリアンナの繋がりが分かりにくくて、森に置き去りにされたのがわざとじゃなくてただの迷子と思われたみたい」
現実のユリアンナには取り巻きがいないため、今回ミリカを誘わせたのはユリアンナが脅したり買収した令嬢たちであった。
それゆえにユリアンナとの繋がりが疑われず、今回の件を嫌がらせと認識されなかったのであろう。
「だから、もうひとつダメ押しで嫌がらせをして欲しいのよ」
「なるほどね………」
ユリアンナは顎に手を当てて少し考えたあと、顔を上げる。
「それなら、明日の課題でもう一度置き去りにされるのはどう?」
ユリアンナの提案に、ミリカは顔を曇らせる。
「……また私が迷子になったと思われるのも困るのよね。もう少し嫌がらせって分かりやすいやつが良いんだけど」
今企画しているのはゲームのシナリオにない、オリジナルのイベントだ。
何が起こるか予測できない以上、怪我人を出すような危険なことはできない。
「……要するに、嫌がらせと分かれば良いんでしょう?」
「まあ、そうね」
「それなら実際にイベントを起こさなくても、匂わせるだけでいいんじゃない?」
「でも……できるだけ可哀想な目に遭ったほうが、アレックスも私に同情してくれるかもしれないじゃない?」
自分が危険な目に遭うかもしれないというのに、ミリカはどこか他人事だ。
「これはゲームのシナリオにはないことなのよ?ちょうど良いタイミングで攻略対象者たちが助けてくれるとは限らないし、十分準備していないのだから失敗して怪我をするかもしれないわ」
ユリアンナがそう諭すと、ミリカはしぶしぶ頷いた。
「……分かった。それなら、ユリアンナの案をまず試してみて、ダメなら嫌がらせを追加することにしましょ!」
(ミリカはどうしても嫌がらせを受けたいのね………)
ユリアンナは内心溜息をついた。
まさか自分が〝ヒロイン〟だから、ピンチに陥ったらヒーローが格好良く助けてくれると盲目的に信じているのだろうか?
ゲームの強制力とやらが本当に存在するなら良いが、そんな不確かなものに頼ってミリカや他の生徒を危険に晒すわけにはいかない。
一応は納得してくれたところで、ユリアンナは他に話題を逸らすことにした。
「ところで、攻略は順調なの?」
ユリアンナの問いかけに、不満げだったミリカの表情が満面の笑みに変わる。
「もちろんよ!伊達に《イケパー》ヘビーユーザーやってないわよ!」
それからミリカはアレックス、サイラス、ジャックとのエピソードをアレコレ楽しそうに語り出した。
ユリアンナは「へぇー」「すごいね」「やったじゃない」などと相槌を打ちながらそれを聞いた。
「私の話ばっかしてごめん!ユリアンナは最近どうなの?」
「私?家や学園は相変わらずよ」
ミリカはもちろんユリアンナが今置かれている環境を知っているので、何でもない風に答えるユリアンナを見て眉尻を下げる。
「……ごめんね。私はすごく学園生活を楽しんでるのに、ユリアンナには辛い生活を強いてるよね」
「私の環境が悪いのはミリカのせいじゃないわ。家族から疎まれてるのは幼い頃からだし、他の生徒から距離を置かれてるのは自分の過去の行いのせいだもの」
ミリカを安心させるようにユリアンナは悪戯っぽく微笑む。
「……それに、私やっぱり貴族の生活は無理だわ。『わたくしが礼儀というものを教えて差し上げますわっ!』とか一生言わなきゃいけないと思うと嫌になっちゃう」
態とらしく自分の真似をするユリアンナを見て、ミリカは思わずプッと噴き出した。
「確かにね。何かにつけて『音を立ててはいけません』とか言われてさ。ヒール履いて歩くのに音を立てちゃいけないなんて、私ら忍者じゃないっつ~の!」
ついに堪えきれずに笑い出すミリカとユリアンナ。
夜中の密会のため、できるだけ声を立てないよう必死で押し殺す。
「それでも王子妃になろうっていうんだから、ミリカはすごいわ。私は平民になって自由に生きるのが楽しみでしょうがないのよ」
「私はアレックスのお嫁さんになることだけを考えて今まで生きてきたからね!イビアータ王国の未来は私がしっかり支えるから、学園卒業後は心置きなく自由に生きてよ!」
2人は未来の目標を語り合い、笑い合った。
明日からはまた敵対する者同士になるわけだが、同じ未来を志す同志としてこの瞬間だけは気の置けない会話を楽しんだ。
「それで、どうしたの?急に呼び出して」
「それがさぁ、アレックスが……グループに入れてくれなかったんだよね」
本来ならばミリカが森で置き去りにされた後、不審に思ったアレックスたちがミリカを自分のグループに誘う。
なぜならばミリカを同じグループに誘った令嬢たちがユリアンナの取り巻きの令嬢であり、これ以降もミリカに何かしら嫌がらせをしてくる恐れがあるからだ。
しかし、今回アレックスはミリカをグループに誘わなかった。
どういうことなのか?
「たぶん、私とグループを組んだ子たちとユリアンナの繋がりが分かりにくくて、森に置き去りにされたのがわざとじゃなくてただの迷子と思われたみたい」
現実のユリアンナには取り巻きがいないため、今回ミリカを誘わせたのはユリアンナが脅したり買収した令嬢たちであった。
それゆえにユリアンナとの繋がりが疑われず、今回の件を嫌がらせと認識されなかったのであろう。
「だから、もうひとつダメ押しで嫌がらせをして欲しいのよ」
「なるほどね………」
ユリアンナは顎に手を当てて少し考えたあと、顔を上げる。
「それなら、明日の課題でもう一度置き去りにされるのはどう?」
ユリアンナの提案に、ミリカは顔を曇らせる。
「……また私が迷子になったと思われるのも困るのよね。もう少し嫌がらせって分かりやすいやつが良いんだけど」
今企画しているのはゲームのシナリオにない、オリジナルのイベントだ。
何が起こるか予測できない以上、怪我人を出すような危険なことはできない。
「……要するに、嫌がらせと分かれば良いんでしょう?」
「まあ、そうね」
「それなら実際にイベントを起こさなくても、匂わせるだけでいいんじゃない?」
「でも……できるだけ可哀想な目に遭ったほうが、アレックスも私に同情してくれるかもしれないじゃない?」
自分が危険な目に遭うかもしれないというのに、ミリカはどこか他人事だ。
「これはゲームのシナリオにはないことなのよ?ちょうど良いタイミングで攻略対象者たちが助けてくれるとは限らないし、十分準備していないのだから失敗して怪我をするかもしれないわ」
ユリアンナがそう諭すと、ミリカはしぶしぶ頷いた。
「……分かった。それなら、ユリアンナの案をまず試してみて、ダメなら嫌がらせを追加することにしましょ!」
(ミリカはどうしても嫌がらせを受けたいのね………)
ユリアンナは内心溜息をついた。
まさか自分が〝ヒロイン〟だから、ピンチに陥ったらヒーローが格好良く助けてくれると盲目的に信じているのだろうか?
ゲームの強制力とやらが本当に存在するなら良いが、そんな不確かなものに頼ってミリカや他の生徒を危険に晒すわけにはいかない。
一応は納得してくれたところで、ユリアンナは他に話題を逸らすことにした。
「ところで、攻略は順調なの?」
ユリアンナの問いかけに、不満げだったミリカの表情が満面の笑みに変わる。
「もちろんよ!伊達に《イケパー》ヘビーユーザーやってないわよ!」
それからミリカはアレックス、サイラス、ジャックとのエピソードをアレコレ楽しそうに語り出した。
ユリアンナは「へぇー」「すごいね」「やったじゃない」などと相槌を打ちながらそれを聞いた。
「私の話ばっかしてごめん!ユリアンナは最近どうなの?」
「私?家や学園は相変わらずよ」
ミリカはもちろんユリアンナが今置かれている環境を知っているので、何でもない風に答えるユリアンナを見て眉尻を下げる。
「……ごめんね。私はすごく学園生活を楽しんでるのに、ユリアンナには辛い生活を強いてるよね」
「私の環境が悪いのはミリカのせいじゃないわ。家族から疎まれてるのは幼い頃からだし、他の生徒から距離を置かれてるのは自分の過去の行いのせいだもの」
ミリカを安心させるようにユリアンナは悪戯っぽく微笑む。
「……それに、私やっぱり貴族の生活は無理だわ。『わたくしが礼儀というものを教えて差し上げますわっ!』とか一生言わなきゃいけないと思うと嫌になっちゃう」
態とらしく自分の真似をするユリアンナを見て、ミリカは思わずプッと噴き出した。
「確かにね。何かにつけて『音を立ててはいけません』とか言われてさ。ヒール履いて歩くのに音を立てちゃいけないなんて、私ら忍者じゃないっつ~の!」
ついに堪えきれずに笑い出すミリカとユリアンナ。
夜中の密会のため、できるだけ声を立てないよう必死で押し殺す。
「それでも王子妃になろうっていうんだから、ミリカはすごいわ。私は平民になって自由に生きるのが楽しみでしょうがないのよ」
「私はアレックスのお嫁さんになることだけを考えて今まで生きてきたからね!イビアータ王国の未来は私がしっかり支えるから、学園卒業後は心置きなく自由に生きてよ!」
2人は未来の目標を語り合い、笑い合った。
明日からはまた敵対する者同士になるわけだが、同じ未来を志す同志としてこの瞬間だけは気の置けない会話を楽しんだ。
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