【完結】転生悪役令嬢は転生ヒロインに協力する

hama

文字の大きさ
76 / 81

番外 2人の旅⑥

しおりを挟む
 依頼の決行日当日。
 ユリアンナは久々に豪華なドレスに身を包んでいた。
 侍女たちに手際よく飾り立てられ、本来の高貴な美しさが磨き上げられていく。
 支度が終わった頃、扉がノックされる。

「準備は終わったか?……おお、これは………どこかのお姫様と言われても誰も疑問に思わないだろうな」

 部屋に入ってきたのはハンミョウ王国の騎士の格好をしたエマーソンと、侍従の格好をしたオズワルドだった。
 ドレス姿のユリアンナを見て、エマーソンは口元を押さえて言葉を失っている。

「ふふ。ありがとうございます。目標ターゲットの目を惹きそうですか?」

「ああ、完璧だ。依頼主も満足してくださるに違いない」

 そう言ってエマーソンは部屋に据え置かれているソファにどっかりと腰掛ける。
 年代物のアンティークではあるがしっかりと手入れの行き届いたそれは、一目で値が張るものだと分かる。
 ソファに限らずこの部屋の中の調度品は一流のものを取り揃えてある。

 それもそのはずだ。
 ここはハンミョウ王国の王族が住まう王宮の一室なのだから。

「それじゃあ今日の任務のおさらいだ。ユリは依頼主のパートナーとして夜会に参加する。目標ターゲットの炙り出しのためにできるだけ親密に振る舞ってくれよ。俺とオズは護衛と侍従に扮して後方支援だ。目標ターゲットが仕掛けてきたら生かしたまま捕縛!いいな?」

 緊張した面持ちで、ユリアンナは首肯する。

「今回の任務のために噂を流しているからな。一番危険なのはユリだ。決して気を抜くなよ」

「ユリは俺が守るから大丈夫。それよりも、もっと地味なドレスはないのか?」

「「え?」」

 不機嫌そうなオズワルドの態度に、ユリアンナとエマーソンは戸惑いの声を上げる。

「『親密に振る舞え』だって?そんな内容だと知っていたらこんな依頼受けなかったのに。……ああ、そうか。今からでも俺が女装して………」

 オズワルドが小声でぶつぶつと呟いていると、再び扉が叩かれる。
 入ってきたのは、青みがかった黒髪に墨色の瞳が美しい長身の男性だった。

「失礼するよ。この度は依頼を受けてくれてありがとう。私は依頼主のユエン・テイ・シクン。この国の王太子だ」

 流暢な公用語で挨拶をしたユエンは、ユリアンナの顔を見てハッと息を呑んだ。

「………これは驚いたな。S級冒険者が、これほど麗しい女性だったなんて」

 ユエンはユリアンナの前に歩み出て跪き、その手を取って指先に口付けを落とす。

「今日はパートナーとして宜しくね、淑女レディ。私のことはどうか〝ユエン〟と呼んで」

「畏まりました、ユエン様。御身はしっかりお守りいたしますので、どうぞご安心くださいませ」

 ユリアンナが微笑むと、ユエンは楽しそうにくつくつと笑う。

「ははっ。こんなに愛らしい女性に『守ります』と言われたのは初めてだな。……癖になりそうだ」

 楽しそうに会話する2人を、オズワルドが不機嫌そうに眺めていた。





 夜会が始まり、オズワルドとエマーソンは先に会場に潜入している。
 ハンミョウ王国の文化は一風変わっているが、夜会の様子は他国とあまり違わない。
 この国の貴族らしき老若男女が皆煌びやかに着飾り、会話や食事を楽しんでいる。
 ただ、並んでいる料理はやはり独特だ。

(ユリが喜びそうな料理だな)

 侍従のフリをして壁際に待機しているオズワルドがそんなことを考えていると、人が集まったところから一際大きな歓声が上がる。
 人々の視線の先はまるでスポットライトが当たったかのように光が照らされ、その中心に2人の男女が立っている。
 ユエンとユリアンナだ。
 2人はまるで想い合っているかのような揃いの衣装を着て、ぴたりと寄り添っている。

「ユエン殿下だわ!……隣にいらっしゃるのはもしかして……噂の方かしら?」

 周囲の貴族たちが俄に騒ぎ出す。
 今日のために、ハンミョウ王国の社交界では「ユエン殿下には心に決めた人がいて、近々婚約者が発表されるのではないか」という噂を意図的に流していた。

 どこの国でも同じだが、未婚の王族というのは貴族令嬢にとって最良の嫁ぎ先である。
 ハンミョウ王国では、19歳になるユエンの婚約者が誰になるのかが最大の関心事であった。

 現国王には正妃と側妃の間に王子が1人ずついて、ユエンは次男で側妃の子だがその優秀さゆえに現国王より王太子に選ばれた。
 他国ならば正妃の第一子が選ばれそうなものだが、ハンミョウ王国では先に子を産んだ者が正妃、誰が次期国王になるかは完全に能力次第なのだという。

 今までユエンに婚約者がいなかったことから、王家と繋がりたい者や次期王政下で影響力を持ちたい者が婚約者の席を虎視眈々と狙っている。
 また多くはないものの第一王子のマオシンを次期国王に推す派閥もあり、最近ではユエンを狙った傷害未遂事件も起きていた。

 美しい容姿と佇まいで会場中の視線を集めているユエンとユリアンナ。
 しかし羨望の眼差しの裏には様々な思惑が渦巻いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。 体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。 でも、スチル一枚のサブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。 ※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。 ※完結しました。ありがとうございました! ※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。 表紙イラストはのの様に依頼しました。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

その破滅エンド、ボツにします!~転生ヒロインはやり直し令嬢をハッピーエンドにしたい~

福留しゅん
恋愛
自分がシナリオを書いた乙女ゲームの世界に転生したメインヒロインはゲーム開始直後に前世を思い出す。一方の悪役令嬢は何度も断罪と破滅を繰り返しては人生をやり直していた。そうして創造主の知識を持つヒロインと強くてニューゲームな悪役令嬢の奇妙な交友が始まる――。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

処理中です...