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番外 2人の旅⑦
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「ユエン殿下!そちらの美しい女性を紹介いただけますかな?」
でっぷりとその腹に私腹を蓄えた貴族が居丈高に話しかけてくる。
彼らはハンミョウ語で話をしているが、ユリアンナもオズワルドも準備期間中にハンミョウ語を勉強したために難しい内容でなければ会話が可能なレベルになった。
「彼女はパーシヴァル王国の王家の血を引く公爵令嬢、ユリ・カサルニア嬢だよ」
ユエンは艶やかに微笑んでユリアンナの腰を引き寄せる。
パーシヴァル王国というのはつい最近までユエンが留学していた海向こうの大国で、ユリアンナはそこで出会った貴族の令嬢という設定だ。
「ユリ・カサルニアと申します。以後お見知り置きくださいませ」
ユリアンナは流暢なハンミョウ語で、誰もが息を止めて見惚れるほどの美しいカーテシーを披露する。
それに加えてユリアンナの輝く金髪はこの国ではあまり見られないものだ。
会場のあちこちから感嘆の溜息が漏れる。
「そっ……そちらは……殿下のご友人ですかな?」
でっぷり腹の貴族が脂汗を拭いながらユエンに尋ねると、ユエンはニヤリと口の端を上げる。
「友人か……まあ、今はそうだね。近い未来には違う関係になっているかもしれないけれど……ね」
ユエンが蕩けるような瞳でユリアンナを見つめ、その手の甲にキスをすると、会場から黄色い悲鳴が上がる。
阿鼻叫喚と言っても過言ではない雰囲気の中、2人に近づいてくる人影がいた。
「よお、ユエン。そちらの別嬪さんを紹介してくれよ」
長い黒髪を三つ編みにして片側に垂らし、白い正装を着た男性が品定めするような視線をユリアンナに投げる。
「……兄上。こちらはパーシヴァル王国のユリ・カサルニア嬢だ。ユリ、これは私の兄のマオシン・テイ・シクンだよ」
マオシンと呼ばれた男は色気のある容貌のユエンに比べ、太い眉が男らしく攻撃的な印象を与える顔立ちだ。
「ユリか。まだユエンと婚約していないなら、俺にしときな?軟弱なユエンより愉しませてやれるぜ」
そう言ってユリアンナの手を取ると、舌舐めずりするように舌をペロリと出して手の甲を舐めた。
「兄上!失礼な真似はおやめください」
ユエンが声を荒げると、マオシンは楽しそうに笑いながら手をヒラヒラと振って去って行った。
「……兄上がすまないね。あの通り、素行があまり良くないんだ」
「……いえ」
ユリアンナは無言で手の甲をハンカチで拭いながらマオシンの後ろ姿を見つめていた。
「ユエンお兄様!」
不意に鈴を転がすような可愛らしい声がしてそちらに向くと、この国では珍しい栗毛の少女が笑顔で近づいてきた。
「お久しぶりですわ!最後にお会いしたのはお兄様が留学する前ですから、2年前ですわね!」
「フアナ。久しいな。……この2年で大きくなったな」
「もうっ!お兄様!そういう時は『女性らしくなった』と褒めるものですわっ!」
フアナは血色の良い頰をぷぅっと膨らませる。
「それで、こちらは?」
「パーシヴァル王国の公爵家のご令嬢であるユリ・カサルニア嬢だよ。ユリ、彼女は従妹のフアナ・エンセイ侯爵令嬢だ」
紹介を受けたユリアンナはフアナに優雅に淑女礼をとる。
先ほどまで幼く愛らしい仕草を見せていたのに、ユリアンナにスッと値踏みするような視線を投げかける。
「ふーん………ねぇ、ユリ様。ユエンお兄様をお借りしても良いでしょう?お兄様、お父様もお話ししたがっているの!あちらへ行きましょう?」
フアナはユエンに親しげに腕を絡めて上目遣いに強請る。
「うーん。私が向こうへ行ったらユリが一人になってしまうから……」
「あら、ユリ様なら大丈夫よ!お綺麗だから殿方が放っておかないわ!」
渋るユエンをグイグイと引っ張るフアナ。
すると、人混みから人影が近づいてくる。
「……それでしたら、ユリ嬢のエスコート役に立候補させていただきたいですね」
胸に手を当てていかにも紳士らしく登場した男性がユリアンナの前に手を差し出す。
「僕はシマニシ伯爵家のオージンと申します。ユエン殿下のエスコートには劣ると思いますが、是非この手を取っていただけませんか?」
にこりと笑うオージンを横目に、ユリアンナはチラリとユエンを見遣る。
ユエンは気遣わしげにユリアンナを見つめながら、他の人に気づかれないぐらい小さく頷く。
「……それではエスコートをお願いいたしますわ、オージン様」
ユリアンナは見る者全てを魅了するような美しい笑顔を浮かべると、オージンの手のひらに手を重ねる。
「さあ、ユエンお兄様!こちらにいらして!」
その様子を最後まで見ることなくフアナはユエンの手を引いて会場の奥へと消えて行った。
オージンはユリアンナの手を軽く握ると、ユリアンナを気遣いながらゆっくりと歩き始めた。
でっぷりとその腹に私腹を蓄えた貴族が居丈高に話しかけてくる。
彼らはハンミョウ語で話をしているが、ユリアンナもオズワルドも準備期間中にハンミョウ語を勉強したために難しい内容でなければ会話が可能なレベルになった。
「彼女はパーシヴァル王国の王家の血を引く公爵令嬢、ユリ・カサルニア嬢だよ」
ユエンは艶やかに微笑んでユリアンナの腰を引き寄せる。
パーシヴァル王国というのはつい最近までユエンが留学していた海向こうの大国で、ユリアンナはそこで出会った貴族の令嬢という設定だ。
「ユリ・カサルニアと申します。以後お見知り置きくださいませ」
ユリアンナは流暢なハンミョウ語で、誰もが息を止めて見惚れるほどの美しいカーテシーを披露する。
それに加えてユリアンナの輝く金髪はこの国ではあまり見られないものだ。
会場のあちこちから感嘆の溜息が漏れる。
「そっ……そちらは……殿下のご友人ですかな?」
でっぷり腹の貴族が脂汗を拭いながらユエンに尋ねると、ユエンはニヤリと口の端を上げる。
「友人か……まあ、今はそうだね。近い未来には違う関係になっているかもしれないけれど……ね」
ユエンが蕩けるような瞳でユリアンナを見つめ、その手の甲にキスをすると、会場から黄色い悲鳴が上がる。
阿鼻叫喚と言っても過言ではない雰囲気の中、2人に近づいてくる人影がいた。
「よお、ユエン。そちらの別嬪さんを紹介してくれよ」
長い黒髪を三つ編みにして片側に垂らし、白い正装を着た男性が品定めするような視線をユリアンナに投げる。
「……兄上。こちらはパーシヴァル王国のユリ・カサルニア嬢だ。ユリ、これは私の兄のマオシン・テイ・シクンだよ」
マオシンと呼ばれた男は色気のある容貌のユエンに比べ、太い眉が男らしく攻撃的な印象を与える顔立ちだ。
「ユリか。まだユエンと婚約していないなら、俺にしときな?軟弱なユエンより愉しませてやれるぜ」
そう言ってユリアンナの手を取ると、舌舐めずりするように舌をペロリと出して手の甲を舐めた。
「兄上!失礼な真似はおやめください」
ユエンが声を荒げると、マオシンは楽しそうに笑いながら手をヒラヒラと振って去って行った。
「……兄上がすまないね。あの通り、素行があまり良くないんだ」
「……いえ」
ユリアンナは無言で手の甲をハンカチで拭いながらマオシンの後ろ姿を見つめていた。
「ユエンお兄様!」
不意に鈴を転がすような可愛らしい声がしてそちらに向くと、この国では珍しい栗毛の少女が笑顔で近づいてきた。
「お久しぶりですわ!最後にお会いしたのはお兄様が留学する前ですから、2年前ですわね!」
「フアナ。久しいな。……この2年で大きくなったな」
「もうっ!お兄様!そういう時は『女性らしくなった』と褒めるものですわっ!」
フアナは血色の良い頰をぷぅっと膨らませる。
「それで、こちらは?」
「パーシヴァル王国の公爵家のご令嬢であるユリ・カサルニア嬢だよ。ユリ、彼女は従妹のフアナ・エンセイ侯爵令嬢だ」
紹介を受けたユリアンナはフアナに優雅に淑女礼をとる。
先ほどまで幼く愛らしい仕草を見せていたのに、ユリアンナにスッと値踏みするような視線を投げかける。
「ふーん………ねぇ、ユリ様。ユエンお兄様をお借りしても良いでしょう?お兄様、お父様もお話ししたがっているの!あちらへ行きましょう?」
フアナはユエンに親しげに腕を絡めて上目遣いに強請る。
「うーん。私が向こうへ行ったらユリが一人になってしまうから……」
「あら、ユリ様なら大丈夫よ!お綺麗だから殿方が放っておかないわ!」
渋るユエンをグイグイと引っ張るフアナ。
すると、人混みから人影が近づいてくる。
「……それでしたら、ユリ嬢のエスコート役に立候補させていただきたいですね」
胸に手を当てていかにも紳士らしく登場した男性がユリアンナの前に手を差し出す。
「僕はシマニシ伯爵家のオージンと申します。ユエン殿下のエスコートには劣ると思いますが、是非この手を取っていただけませんか?」
にこりと笑うオージンを横目に、ユリアンナはチラリとユエンを見遣る。
ユエンは気遣わしげにユリアンナを見つめながら、他の人に気づかれないぐらい小さく頷く。
「……それではエスコートをお願いいたしますわ、オージン様」
ユリアンナは見る者全てを魅了するような美しい笑顔を浮かべると、オージンの手のひらに手を重ねる。
「さあ、ユエンお兄様!こちらにいらして!」
その様子を最後まで見ることなくフアナはユエンの手を引いて会場の奥へと消えて行った。
オージンはユリアンナの手を軽く握ると、ユリアンナを気遣いながらゆっくりと歩き始めた。
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