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番外 2人の旅⑧
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「パーシヴァルの王宮庭園もさぞかし素晴らしいと思いますが、ハンミョウの庭園もなかなかですよ。今の時期にしか咲かない花は他国では珍しいものばかりかもしれません」
オージンはユリアンナをエスコートしながら、王宮庭園に出る。
暑くも寒くもないちょうど良い陽気に涼しい風が吹き、少し緊張していたユリアンナの頰を緩ませる。
「本当ですわね。あの木に咲いている小さな桃色の花は初めて見ますわ」
「あれはメイという花ですよ。毎年この時期に咲く花なのです」
オージンはそう言うと、メイの花を一房手折ってユリアンナの耳にかけ、その美しい金髪に飾る。
「花言葉は『上品』『高潔』……まさにユリ嬢のようですね」
自然と2人の顔が近づき、オージンはユリアンナの瞳をじっと見つめる。
「……ユリ嬢の黄金の髪も美しいですが、その紅の瞳も美しいですね。……貴女とはもっと違う形で出会いたかったですが」
オージンの黒曜石のような瞳が次第に黄味を帯び、淡く光を放つ。
ユリアンナは吸い込まれるようにその瞳をじっと見つめている。
「……できるだけ……優しくしますからね」
オージンがそう呟くと、ユリアンナは糸が切れた操り人形のようにパタリと意識を失って倒れた。
◇
一方ユエンはフアナに手を引かれるままに公爵家専用の個室に来ていた。
もちろん部屋には2人きりではなく、数名の護衛や侍女が控えている。
「お兄様はローストティーがお好みでしたわよね?」
ソファにユエンを座らせ、フアナが自ら茶を淹れる。
「フアナが茶を淹れてくれるのか?」
「ええ!私だってもう立派な淑女ですからお茶だって淹れられますのよ!」
フアナは手際よくお茶をカップに入れると、ソーサーに乗せてユエンの前に置く。
「さ!召し上がれ!」
「ありがとう」
ユエンは優しく微笑むと、銀のスプーンで角砂糖をひとつ掬いカップに落とし、お茶をくるくるとかき混ぜる。
フアナはその様子を嬉しそうにニコニコと眺めている。
「………ん。美味しいね」
ユエンがお茶を口に運ぶのを見届けてから、フアナも自分のお茶に口をつける。
「そういえば。先ほど一緒にいらっしゃった女性、とても綺麗でしたわね」
フアナに話を振られ、ユエンは一瞬瞠目したがすぐに照れくさそうに表情を緩める。
「ユリのこと?……そうだね、見た目も中身も美しい人だよ。それにあんな風に可憐に見えて、とっても強い人なんだ」
嬉しそうにユリアンナについて語るユエンを、フアナは薄い目つきで見据える。
「……とても親しいみたいですわね?もしかして……婚約をお考えとか?」
「はは。実は今、必死で口説いているところなんだ。彼女はあちらの国でも高嶺の花でね。こんな小国に嫁いでくるのは本意でないかもしれないけれど……」
ユエンの独白を聞きながら、フアナは次第に表情を悲痛に歪めていく。
「それでも私は彼女を妃にしたいと思ってる。もしうちに嫁いでくれたら、この身をかけて生涯大切にするつもりだよ」
そう言い終えるや否や、フアナが両手でテーブルの天板を激しく叩く。
「どうしてっ……!!わたくしの方が、ユエンお兄様を幸せにしてあげられますっ!」
ユエンは驚いた表情でフアナを見る。
フアナはその栗色の大きな瞳からポロポロ涙を流している。
「わたくしはずっとお兄様をお慕いしておりました……!お兄様だって、大人になったらお嫁さんにしてくれると言ったじゃない!」
「フアナ……それは幼い君を宥めるために言った言葉だ。君も淑女教育を受けたなら知っているだろう?この国では従兄弟婚は推奨されていない」
ハンミョウ王国は小さな国なので人口も少なく、貴族同士で婚姻を繰り返すとどうしても血が濃くなりがちである。
したがって、従兄弟同士の結婚は禁止ではないが暗黙的に禁忌扱いされている。
「それでも!愛し合っていれば別ですわ!法に反しているわけではありません!」
「フアナ。私は君を可愛く思っているが……それは身内としての情だ。君のことは昔から妹のように思っている。伴侶に求める〝愛〟とは違うんだ」
ユエンにはっきりと拒絶され、フアナは両手を顔で覆って俯いてしまう。
うっうっと嗚咽が漏れ、肩が震えている。
「……私はユリを愛しているんだ。女性にそのような感情を抱いたのは生まれて初めてで……初恋なんだ」
苦しげにユエンの想いが吐露されると、フアナは嗚咽を止める。
「………ふ………ふふふっ」
「………フアナ?」
さっきまで泣いていたフアナがいきなり笑い出し、ユエンは困惑の表情を浮かべる。
次の瞬間、突然ユエンは胸を押さえて苦しみ出し、ソファの下に膝をつく。
「グッ……はぁっ!ハァッハァッ………フアナ!何を……」
フアナが顔を覆っていた両手を外して顔を上げると、天真爛漫な愛らしい表情はすっかり鳴りを潜め、その栗色の瞳は仄暗い愉悦で染まっている。
「……ユエンお兄様が悪いのよ。初めから私を選んでくだされば、こんなことする必要もなかったのに」
恐怖さえも滲むユエンの表情を見てクスリと笑うと、フアナはその細く美しい指をユエンに伸ばして頰をするりと撫でる。
ユエンはそのままゆっくりと瞼を閉じてその場に崩れ落ちた。
オージンはユリアンナをエスコートしながら、王宮庭園に出る。
暑くも寒くもないちょうど良い陽気に涼しい風が吹き、少し緊張していたユリアンナの頰を緩ませる。
「本当ですわね。あの木に咲いている小さな桃色の花は初めて見ますわ」
「あれはメイという花ですよ。毎年この時期に咲く花なのです」
オージンはそう言うと、メイの花を一房手折ってユリアンナの耳にかけ、その美しい金髪に飾る。
「花言葉は『上品』『高潔』……まさにユリ嬢のようですね」
自然と2人の顔が近づき、オージンはユリアンナの瞳をじっと見つめる。
「……ユリ嬢の黄金の髪も美しいですが、その紅の瞳も美しいですね。……貴女とはもっと違う形で出会いたかったですが」
オージンの黒曜石のような瞳が次第に黄味を帯び、淡く光を放つ。
ユリアンナは吸い込まれるようにその瞳をじっと見つめている。
「……できるだけ……優しくしますからね」
オージンがそう呟くと、ユリアンナは糸が切れた操り人形のようにパタリと意識を失って倒れた。
◇
一方ユエンはフアナに手を引かれるままに公爵家専用の個室に来ていた。
もちろん部屋には2人きりではなく、数名の護衛や侍女が控えている。
「お兄様はローストティーがお好みでしたわよね?」
ソファにユエンを座らせ、フアナが自ら茶を淹れる。
「フアナが茶を淹れてくれるのか?」
「ええ!私だってもう立派な淑女ですからお茶だって淹れられますのよ!」
フアナは手際よくお茶をカップに入れると、ソーサーに乗せてユエンの前に置く。
「さ!召し上がれ!」
「ありがとう」
ユエンは優しく微笑むと、銀のスプーンで角砂糖をひとつ掬いカップに落とし、お茶をくるくるとかき混ぜる。
フアナはその様子を嬉しそうにニコニコと眺めている。
「………ん。美味しいね」
ユエンがお茶を口に運ぶのを見届けてから、フアナも自分のお茶に口をつける。
「そういえば。先ほど一緒にいらっしゃった女性、とても綺麗でしたわね」
フアナに話を振られ、ユエンは一瞬瞠目したがすぐに照れくさそうに表情を緩める。
「ユリのこと?……そうだね、見た目も中身も美しい人だよ。それにあんな風に可憐に見えて、とっても強い人なんだ」
嬉しそうにユリアンナについて語るユエンを、フアナは薄い目つきで見据える。
「……とても親しいみたいですわね?もしかして……婚約をお考えとか?」
「はは。実は今、必死で口説いているところなんだ。彼女はあちらの国でも高嶺の花でね。こんな小国に嫁いでくるのは本意でないかもしれないけれど……」
ユエンの独白を聞きながら、フアナは次第に表情を悲痛に歪めていく。
「それでも私は彼女を妃にしたいと思ってる。もしうちに嫁いでくれたら、この身をかけて生涯大切にするつもりだよ」
そう言い終えるや否や、フアナが両手でテーブルの天板を激しく叩く。
「どうしてっ……!!わたくしの方が、ユエンお兄様を幸せにしてあげられますっ!」
ユエンは驚いた表情でフアナを見る。
フアナはその栗色の大きな瞳からポロポロ涙を流している。
「わたくしはずっとお兄様をお慕いしておりました……!お兄様だって、大人になったらお嫁さんにしてくれると言ったじゃない!」
「フアナ……それは幼い君を宥めるために言った言葉だ。君も淑女教育を受けたなら知っているだろう?この国では従兄弟婚は推奨されていない」
ハンミョウ王国は小さな国なので人口も少なく、貴族同士で婚姻を繰り返すとどうしても血が濃くなりがちである。
したがって、従兄弟同士の結婚は禁止ではないが暗黙的に禁忌扱いされている。
「それでも!愛し合っていれば別ですわ!法に反しているわけではありません!」
「フアナ。私は君を可愛く思っているが……それは身内としての情だ。君のことは昔から妹のように思っている。伴侶に求める〝愛〟とは違うんだ」
ユエンにはっきりと拒絶され、フアナは両手を顔で覆って俯いてしまう。
うっうっと嗚咽が漏れ、肩が震えている。
「……私はユリを愛しているんだ。女性にそのような感情を抱いたのは生まれて初めてで……初恋なんだ」
苦しげにユエンの想いが吐露されると、フアナは嗚咽を止める。
「………ふ………ふふふっ」
「………フアナ?」
さっきまで泣いていたフアナがいきなり笑い出し、ユエンは困惑の表情を浮かべる。
次の瞬間、突然ユエンは胸を押さえて苦しみ出し、ソファの下に膝をつく。
「グッ……はぁっ!ハァッハァッ………フアナ!何を……」
フアナが顔を覆っていた両手を外して顔を上げると、天真爛漫な愛らしい表情はすっかり鳴りを潜め、その栗色の瞳は仄暗い愉悦で染まっている。
「……ユエンお兄様が悪いのよ。初めから私を選んでくだされば、こんなことする必要もなかったのに」
恐怖さえも滲むユエンの表情を見てクスリと笑うと、フアナはその細く美しい指をユエンに伸ばして頰をするりと撫でる。
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