両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚

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 私の住む王都から南に行ったところに一つの修道院があった。
 暖かな光が差し込む修道院はとても綺麗に整えられていた。
 
「こんにちは。」

「あら、こんにちは。」

 修道院のドアを叩くと穏やかな表情をしたシスターが迎え出てくれた。
 シスターは黒い服に身を包みながらも清楚に笑った。
 まるで天使のように穢れの無い笑みだ。
 オフィーリアが最後に見せた笑みと重なって、私の目から思いがけず涙が零れ落ちた。
 
「あら。あらあら。どうしたのかしら。こちらにいらしてちょうだい。」

 シスターは困惑しながらも慣れた手つきで私を修道院の中庭に案内してくれた。
 そうして、中庭の真っ白に塗られた二人掛けの椅子に座る様に促した。
 
「ちょっと待っていて頂戴ね。」

 シスターは私を椅子に座らせると、その場を後にして、修道院の中に入っていった。
 私は人前で泣いてしまったことが恥ずかしくてそっとハンカチで目元を押さえた。
 
「……やってしまったわね。」

 泣いた理由は明白だ。
 オフィーリアの笑みとシスターの笑みが重なって見えたからだ。
 まるでオフィーリアが目の前に現れたように錯覚してしまったのだ。
 
「待たせてごめんなさいね。」

 すぐに戻ってきたシスターは手に紅茶の入ったポットと二組のカップを持っていた。
 
「この紅茶はね、テデアンジュと言うのよ。」

 そう言ってカップに紅茶を注ぐシスターの手は少しだけ荒れていた。
 
「はい。どうぞ。」

 シスターはそう言って私の前にティーカップを差し出してきた。
 私はそれを受け取る。
 とたんにベルガモットのみずみずしい香りと、ジャスミンの花の香りが漂ってきた。
 
「良い匂い……。」

「そうでしょう?一口飲んでみて頂戴。」

「はい。いただきます。」

 シスターに勧められるがまま、紅茶を口に運ぶ。
 さわやかな柑橘類と華やかな花の香が口の中いっぱいに広がった。

「まるで口の中が春になったみたいだわ。」

「ふふっ。そうね。春のような紅茶よね。」

 目を閉じれば目の前に春の花が咲き乱れる花畑が広がるようだ。花畑の脇にはベルガモットの木が生えており、リスが木にいる姿までもが目の前に鮮やかに広がっていく。
 
「春のように暖かな気持ちになるでしょう。」

「はい。」

「ふふ。あなたの元に天使が舞い降りた証拠よ。」

「え?」

「テデアンジュ。この国の言葉で言うのならば天使の紅茶。この紅茶は天使の紅茶というのよ。」

「……天使。」

 天使という響きに私はオフィーリアのことを強く思い出した。
 オフィーリアが産まれた時、私はオフィーリアのことを天使だと思ったのだ。
 
「この修道院にもね天使がいるのよ。」

 そう言ってシスターはにっこり笑った。

「え?」

「この国では修道院には女神像が必ず置かれているでしょう?でも、ここの修道院には女神像がなくて代わりに天使像が複数体置かれているの。不思議でしょう?」

「え、ええ。」

 確かに我が国では、修道院には必ず女神像が置かれている。それは修道院で生活する人々が女神様の力で前向きに歩いていけるようにと置かれているのだ。
 女神様は迷える人たちを導く存在。柔らかく暖かいまなざしで私たちを加護する存在としてこの国で崇拝されている。
 
「ここは天使のための修道院なのよ。」

「……私の妹は天使だったんです。」

 シスターの柔らかな雰囲気にあてられてか、それともシスターのオフィーリアそっくりの笑顔を見たからか、私はふいにそう言葉を口にしていた。

「まあ、それはとても素敵なことね。」

 シスターは私の言葉を否定することもなく、静かに頷いてくれた。
 
「妹は突然、光に飲まれて私の目の前から消えてしまいました。」

「そう。それは辛かったわね。」

「妹は笑ってたんです。まるで天使のような笑みで。」

「そう。あなたの妹さんはとても幸せな時を過ごせたのね。」

「でも、私は……私は妹のことずっと誤解していて。ずっと妹は私のことを思っていてくれたのに……私は……。」

「あなたの妹さんはあなたを悲しませたいわけじゃあないわ。あなたに幸せになって欲しい。天使のような微笑みだったのでしょう。あなたに幸せになってほしかったのよ。」

「私は、私はそれからずっと妹を探していて……。」

「そう。天使のような妹さん。もしかしたらこの修道院にいるかもしれないわね。ここには沢山の天使像があるわ。きっとあなたの妹さんがいるかもしれないわ。」

「……オフィーリアが。」

「探してみるといいわ。」

 シスターはにっこり笑って、清潔そうな真っ白なハンカチで私の目元を拭った。
 そうして私の身体を支えて私のことを立ち上がらせる。
 私はシスターに促されるように立ち上がりふらふらと中庭の天使像を一体一体確認していく。
 その天使像もまるで生きているように躍動感あふれるたたずまいだ。
 
「……オフィーリア。」

 たくさんの天使像を見て回った。
 どれもこれも素晴らしい天使像だが、オフィーリアはなかなか見つからなかった。
 そうして、中庭の一番奥の最後の天使像を見つめた私は思わず一筋の涙を流していた。
 
「……オフィーリア、ここにいたのね。」

 その天使像はオフィーリアにそっくりだった。まるで、この天使像がオフィーリアそのものかと思われるほどそっくりだった。精巧に作られた天使像は私に向かって手を差し出しているようにも見えた。
 
「……オフィーリア、私の天使様。」

 その瞬間、オフィーリア瓜二つの天使像が私を慰めるかのように優しく淡い光を放ったような気がした。
 
 
 

☆終わり☆


 たくさんの閲覧ありがとうございます。
 皆さまからの温かい感想ありがとうございます。
 感謝の気持ちを糧に、オフィーリア視点の番外編を掲載することといたしました。
 オフィーリア視点の番外編を掲載するにあたり、最終話を大幅に加筆修正させていただきました。
 流れ的には変更しておりません。
 オフィーリア視点の番外編は後日、このページの後に掲載させていただきます。
 準備ができるまで今しばらくお待ちくださいませ。

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