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しおりを挟む「……エスフォードよ。闇魔法使いは悪ではない。ただの個性だ。王族たるもの率先して差別をしてはならない。民は民なのだ。」
「いいえ。父上は騙されております!光魔法の使い手こそ至上。闇魔法の使い手は魔王なのです。世の理はそうなっているのです。」
エスフォード王子殿下は国王陛下の言葉に首を横に振った。
国王陛下はエスフォード王子殿下の言葉に顔を曇らせる。
「エスフォードよ。誰がそのような考えをそなたに植えこんだのだ。」
「誰でも良いではありませんか。それが正しいことであればよいのです。」
「……そなたの考えは正しいとは言えぬ。」
「いいえ。私の考えは正しいものです。今すぐにでも闇魔法の使い手は処分すべきなのです。」
「……そなたは、闇魔法の使い手は魔王だと言った。魔王を簡単に処刑できるというのか?魔王の力は絶大であろう?」
「ええ。国王陛下の言葉には闇魔法の使い手は逆らうことができません。ですから、闇魔法の使い手を処分するのは簡単なのです。」
エスフォード王子殿下は自信をもってはっきりと告げた。
どこからその自信が湧き出てくるのだろうか。疑問である。
本当に魔王だったら、人間である国王陛下の命令に従わずに逃げるだろう。いや、下手をすると国王陛下を亡き者にするのではないだろうか。
魔王というのは魔物の王だ。この世界の頂点に等しい強さを持っていることだろう。
そんな相手をたかが一国の国王が処刑できるはずがない。もし、処刑できるとするならばそれは魔王ではないはずだ。
エスフォード王子殿下は、そんな矛盾にも気づけないのだろうか。
辺りを見回せば貴族たちの残念そうな表情が見て取れる。
「残念だよ。エスフォード。なぜ、そなたはそのように凝り固まった考えをするのか。」
「父上っ!闇魔法使いは悪なのです!全て処刑せねばならないのですっ!なぜ、そのことが父上にはわからないのでしょうかっ!!」
「……マチルダ・メメラーニャ侯爵令嬢。息子が大変失礼をした。このような息子と一緒になってもそなたは幸せになれぬであろう。そもそも、このような息子がこの国を治めるのは難しいだろう。そなたと息子の婚約は解消することとする。」
国王陛下はエスフォード王子殿下のことを見ずに、マチルダ・メメラーニャ侯爵令嬢に告げた。国王陛下の表情は苦渋に満ちていた。
「いえ。エスフォード王子殿下をお支えすることができず誠に申し訳ございません。ですが、私は今後もこの国の為尽くす所存でございます。」
「そなたの忠誠しかと受け取った。」
マチルダ・メメラーニャ侯爵令嬢は国王陛下に最上級の礼をした。
国王陛下の言葉を聞いた貴族たちは一斉に拍手を送る。
「エスフォードよ。少し一人になって頭を冷やすと言い。皆の者はどうか舞踏会を楽しんでいってくれ。」
国王陛下はそう言うと、側近に何事かささやいてその場を後にした。
国王陛下の側近はエスフォード王子殿下の肩を掴むと、舞踏会の会場の外へと連れ出していく。
エスフォード王子殿下がどこに向かったのかは私はわからない。
でも、これでマチルダ・メメラーニャ侯爵令嬢がエスフォード王子殿下と婚姻を結ばずに済むことは確かなことだ。
これでよかったのだろう。
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