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ノートパソコンとボールペン
①
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「麻生さん。どうしよう。ノートパソコンのモニターが部分的に黒くなっちゃったんだ。」
そう言って情報システム部の部屋に駆け込んできたのは営業部の笹本さんだ。
笹本さんは低姿勢なおじさんである。
少しおっちょこちょいなところはあるが、それは愛嬌ですませる範囲だ。
社内の皆も、笹本さんのことは小動物かなにかのように思っている節があり、暖かく見守っている。
「笹本さん。パソコンを見せていただけますか?」
「うん。もちろんだよ。」
笹本さんは私にノートパソコンを手渡してきた。
「ありがとうございます。」
私はノートパソコンを受け取り画面を見つめる。
ノートパソコンの液晶には1㎝幅の真っ黒な線が引かれたようにそこだけが何も表示されていなかった。
「……これは、……もしかして、ノートパソコンを落としましたか?」
液晶部分に強い衝撃を受けて液晶が潰れてしまったように思えた。
パソコンの設定ではない、明らかに物理的に破損してしまったのではないかと思われるような症状だ。
「いいや。落としたりはしていないんだよ。」
「そうですか。では、このような状態になったのはいつからですか?」
落としていないのならなにがあったのだろうか。
何もしていないのに、このように液晶が潰れるわけがない。なにかしら液晶部分に強い衝撃が加わったことは確かなのだ。
「朝はなんともなかったんだ。……今日は得意先に商談に行って……。ああ、商談中もパソコンを見ながらだったんだけど、そのときはなんともなかったなぁ。でも、話が盛り上がって商談が伸びてしまってね、遅くなってしまってね、会議に遅れてしまいそうだったから、急いでタクシーで会社まで戻って来たんだ。で、いざ会議でパソコンを使用しようと思ったら、こんな状態になっていたんだよ。」
「そうですか。」
ううむ。私は思考を巡らせる。
お客様先では問題なくパソコンが使用できていた、と。そこから急いで帰ってきたらパソコンの液晶が部分的に壊れていた。
つまり、お客様先から帰ってくるときになにかがあったと思っていいだろう。
「急いでタクシーで戻られたということですが、その時パソコンは手で持っていたんでしょうか?それとも鞄の中ですか?」
「ええと……。慌ててパソコンの蓋を閉じて鞄の中に入れて持って帰って来たよ。」
「そうですか。そうすると……もしかすると鞄の中で何かがノートパソコンの液晶に当たってしまったんじゃないかなと思います。パソコンの蓋が鞄の中で開いてしまったり?」
「うーん。考えづらいなぁ……。」
「そうですか。……でも、この形なんか見覚えが……。」
私は細長く破損した液晶を見て、なにか見覚えを感じた。
「麻生さんも、そう思う?私もね、なんか見覚えがあるような気がするんだよ。」
笹本さんはそう言って「うーん」と考え始めた。
私は笹本さんがお客様と商談しているイメージを頭の中に広げる。
ノートパソコンを広げて資料を見ながら説明をする。そして、商談が成立すれば予め印刷しておいた承諾書にボールペンでサインをする。そして、その承諾書を鞄の中に大切にしまいこみ、パソコンの電源を落として鞄の中にしまう。
そこまで想像して、頭の中に引っ掛かったものがあった。
「……ボールペン……もしくは万年筆?」
口に出してみて、ハッとする。
笹本さんも観に覚えがあるのか、「あっ……。」と声を上げた。
「もしかして、身に覚えがありますか?」
「あ、ああ……。慌てて鞄の中にノートパソコンやボールペンをいれたからね……。帰ってきて鞄の中からノートパソコンを取り出したら、ノートパソコンの間からボールペンがでてきたんだ。どうやら挟まってしまっていたみたいでね。……もしかして、ボールペンが原因だったりする……?」
笹本さんは罰が悪そうに私に尋ねる。
私はこっくりと頷いた。
「ええ。たぶん、ボールペンだと思います。ただ、間に挟まっただけなら大丈夫だとは思いますが、鞄の中は得てして窮屈ですよね。きっと、鞄の中でノートパソコンの蓋がボールペンを挟んで思いっきり潰されたんだと思います。液晶ってちょっとの衝撃でもその場所が潰れて真っ黒になってしまいますから。」
「そ、そうなんだ……。ははっ……。ってことは、もしかして……。」
「はい。情報システム部では直せないので、メーカーに修理に出すことになります。ただ、ノートパソコンの画面が破損した場合は、交換費用もそれなりに……。安藤さんとも相談してみますが、パソコンを買い替えてしまった方がトータルコストが安くすむかもしれません。」
「そ、そっか。やっぱり……。」
「ソフトウェア的な破損であれば、初期化すれば情報システム部で対応できますが、物理的な破損となると部品交換が必要になるので……。それが液晶であれば、私たちが直すよりもメーカーに依頼した方が確実ですので。」
笹本さんは私の説明にがっくりと項垂れた。
わざと壊したわけではないのはわかっているが、パソコンを壊してしまったときは始末書が必要になるから笹本さんの気持ちもわかるような気がする。
壊そうとして壊したわけではないし。
「あの……みんな、わかってますから大丈夫ですよ。始末書といっても形式的なものだと思いますし……。」
「うん。ありがとう。御手洗さんに報告してくるね。」
「あ、パソコンのモニターは余ってますので新しいパソコンが届くまではそのノートパソコンをモニターに接続して使ってください。」
「うん。わかったよ。ありがとう。」
そう言って、笹本さんは肩を落として歩いて行ったのだった。
そう言って情報システム部の部屋に駆け込んできたのは営業部の笹本さんだ。
笹本さんは低姿勢なおじさんである。
少しおっちょこちょいなところはあるが、それは愛嬌ですませる範囲だ。
社内の皆も、笹本さんのことは小動物かなにかのように思っている節があり、暖かく見守っている。
「笹本さん。パソコンを見せていただけますか?」
「うん。もちろんだよ。」
笹本さんは私にノートパソコンを手渡してきた。
「ありがとうございます。」
私はノートパソコンを受け取り画面を見つめる。
ノートパソコンの液晶には1㎝幅の真っ黒な線が引かれたようにそこだけが何も表示されていなかった。
「……これは、……もしかして、ノートパソコンを落としましたか?」
液晶部分に強い衝撃を受けて液晶が潰れてしまったように思えた。
パソコンの設定ではない、明らかに物理的に破損してしまったのではないかと思われるような症状だ。
「いいや。落としたりはしていないんだよ。」
「そうですか。では、このような状態になったのはいつからですか?」
落としていないのならなにがあったのだろうか。
何もしていないのに、このように液晶が潰れるわけがない。なにかしら液晶部分に強い衝撃が加わったことは確かなのだ。
「朝はなんともなかったんだ。……今日は得意先に商談に行って……。ああ、商談中もパソコンを見ながらだったんだけど、そのときはなんともなかったなぁ。でも、話が盛り上がって商談が伸びてしまってね、遅くなってしまってね、会議に遅れてしまいそうだったから、急いでタクシーで会社まで戻って来たんだ。で、いざ会議でパソコンを使用しようと思ったら、こんな状態になっていたんだよ。」
「そうですか。」
ううむ。私は思考を巡らせる。
お客様先では問題なくパソコンが使用できていた、と。そこから急いで帰ってきたらパソコンの液晶が部分的に壊れていた。
つまり、お客様先から帰ってくるときになにかがあったと思っていいだろう。
「急いでタクシーで戻られたということですが、その時パソコンは手で持っていたんでしょうか?それとも鞄の中ですか?」
「ええと……。慌ててパソコンの蓋を閉じて鞄の中に入れて持って帰って来たよ。」
「そうですか。そうすると……もしかすると鞄の中で何かがノートパソコンの液晶に当たってしまったんじゃないかなと思います。パソコンの蓋が鞄の中で開いてしまったり?」
「うーん。考えづらいなぁ……。」
「そうですか。……でも、この形なんか見覚えが……。」
私は細長く破損した液晶を見て、なにか見覚えを感じた。
「麻生さんも、そう思う?私もね、なんか見覚えがあるような気がするんだよ。」
笹本さんはそう言って「うーん」と考え始めた。
私は笹本さんがお客様と商談しているイメージを頭の中に広げる。
ノートパソコンを広げて資料を見ながら説明をする。そして、商談が成立すれば予め印刷しておいた承諾書にボールペンでサインをする。そして、その承諾書を鞄の中に大切にしまいこみ、パソコンの電源を落として鞄の中にしまう。
そこまで想像して、頭の中に引っ掛かったものがあった。
「……ボールペン……もしくは万年筆?」
口に出してみて、ハッとする。
笹本さんも観に覚えがあるのか、「あっ……。」と声を上げた。
「もしかして、身に覚えがありますか?」
「あ、ああ……。慌てて鞄の中にノートパソコンやボールペンをいれたからね……。帰ってきて鞄の中からノートパソコンを取り出したら、ノートパソコンの間からボールペンがでてきたんだ。どうやら挟まってしまっていたみたいでね。……もしかして、ボールペンが原因だったりする……?」
笹本さんは罰が悪そうに私に尋ねる。
私はこっくりと頷いた。
「ええ。たぶん、ボールペンだと思います。ただ、間に挟まっただけなら大丈夫だとは思いますが、鞄の中は得てして窮屈ですよね。きっと、鞄の中でノートパソコンの蓋がボールペンを挟んで思いっきり潰されたんだと思います。液晶ってちょっとの衝撃でもその場所が潰れて真っ黒になってしまいますから。」
「そ、そうなんだ……。ははっ……。ってことは、もしかして……。」
「はい。情報システム部では直せないので、メーカーに修理に出すことになります。ただ、ノートパソコンの画面が破損した場合は、交換費用もそれなりに……。安藤さんとも相談してみますが、パソコンを買い替えてしまった方がトータルコストが安くすむかもしれません。」
「そ、そっか。やっぱり……。」
「ソフトウェア的な破損であれば、初期化すれば情報システム部で対応できますが、物理的な破損となると部品交換が必要になるので……。それが液晶であれば、私たちが直すよりもメーカーに依頼した方が確実ですので。」
笹本さんは私の説明にがっくりと項垂れた。
わざと壊したわけではないのはわかっているが、パソコンを壊してしまったときは始末書が必要になるから笹本さんの気持ちもわかるような気がする。
壊そうとして壊したわけではないし。
「あの……みんな、わかってますから大丈夫ですよ。始末書といっても形式的なものだと思いますし……。」
「うん。ありがとう。御手洗さんに報告してくるね。」
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「うん。わかったよ。ありがとう。」
そう言って、笹本さんは肩を落として歩いて行ったのだった。
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