悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚

文字の大きさ
3 / 70
本編

しおりを挟む
 

あれは私が15才の頃だったわ。

庭を散歩していたら見つけたのよ。

可愛い茶トラの猫を。

花壇の隅にちょこんと座って、花壇を飛んでいる白い蝶をジッと見つめていたの。

どこから迷い込んだのかわからないけど、初めて猫という動物を見た時の衝撃は忘れないわ。

まあるい瞳を限界まで開いて、ジッと蝶を見つめる茶トラの猫。

体格的には成猫と思われる。

好奇心を刺激されてか、長い尻尾がピンッと上向いている。

トラ柄の尻尾の先っぽ白くなっているのが良く目立つ。

ちなみに、靴下を履いたように足先も白くなっていた。

「可愛いわ。可愛い可愛いと言われている私よりこの猫は可愛いわ。あら、私ってもしかしてそんなに可愛くないのかしら?だって、この猫の方が可愛いもの。」

私は人知れず独り言を吐いた。

この屋敷に住み込みで働いている使用人たちは私をみると可愛い可愛いと言ってくれる。私の両親もしかり。

だから、私も自分のことはこの世の天使のごとく可愛いのだと思っていた。

だけれども、違った。

上には上がいるということを思い知らされた。

艶々に光っている茶色の毛並み。

真新しい雪のように真っ白な足先。

触ったらどんなに素晴らしい感触がするだろうか。

そっと自分の自慢のベビーブロンドの髪に触れた。

さらりとした手触りは侍女が丁寧に香油を塗ってくれているからこそ得られるものだ。

それがどうだろう。

目の前にいる可愛らしい猫は、きっと香油なんて塗られてはいないだろう。

それなのにも関わらず艶々と光る毛並みはきっと私の髪の毛よりも手触りがいいのだろう。

さわりたい。

さわってその感触を確かめたい。

そして、モフってモフってそのふかふかな毛並みに顔を埋めたい。

それは、どんなに気持ちのいいことだろうか。

想像するだけで、思わず生唾を飲んでしまった。

思わず手が可愛らしい猫に向かって伸びてしまう。

ただ、まだ距離があるので猫は蝶に夢中で私には気づいていないようだ。

そろりそろりと足音を忍ばせて猫の元に向かう。

猫に触れるほど近づいても猫は蝶に夢中でまだ私には気づかない。

これは、猫を触るチャンスだろうか。

うん。チャンスだろう。

またとないチャンスだ。

是非ともモフらなければ。

そう思って猫に向かって手を伸ばして、ついに触れるぞ!という瞬間に猫がこちらを振り向いた。

まんまるな猫の瞳と私の瞳がバチッと重なり合った。

その瞬間、私の頭の中に電撃が走った。

そうして、たくさんの情報の波が私に押し寄せる。

そう、私が過ごした過去の記憶がいっきに押し寄せてきたのだ。

私はその情報量の多さに脳が処理をしきれず思わず意識を遠のかせたのだった。

ああ・・・。せっかく猫に触れる機会だったのに。

モフモフ・・・。

 

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

悪役令嬢だから知っているヒロインが幸せになれる条件【8/26完結】

音無砂月
ファンタジー
※ストーリーを全て書き上げた上で予約公開にしています。その為、タイトルには【完結】と入れさせていただいています。 1日1話更新します。 事故で死んで気が付いたら乙女ゲームの悪役令嬢リスティルに転生していた。 バッドエンドは何としてでも回避したいリスティルだけど、攻略対象者であるレオンはなぜかシスコンになっているし、ヒロインのメロディは自分の強運さを過信して傲慢になっているし。 なんだか、みんなゲームとキャラが違い過ぎ。こんなので本当にバッドエンドを回避できるのかしら。

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

【完結】かなわぬ夢を見て

ここ
ファンタジー
ルーディは孤児だったが、生まれてすぐに伯爵家の養女になることになった。だから、自分が孤児だと知らなかった。だが、伯爵夫妻に子どもが生まれると、ルーディは捨てられてしまった。そんなルーディが幸せになるために必死に生きる物語。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...