悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚

文字の大きさ
9 / 70
本編

しおりを挟む
私の急な発言に父はびっくりして目を丸くした。

「ど、どうしたんだい?昨日まで高等魔術学院へ入学するのを楽しみにしていたではないか?なにがあったんだい?」

父は心配するように私の肩をつかんで、私の顔を覗きこんだ。

「私、高等魔術学院で精霊の卵を貰うのですが、邪竜が産まれてきてしまうのです。そうなれば、お父様もお母様も、この家に尽くしてくださっている使用人のみんなも、路頭に迷ってしまいます。それならば、わたしが卵を受け取らないように、高等魔術学院に行かなければいいと判断したのです。」

「ちょっと待ってエメロード。どうして、邪竜が産まれてくるとわかるんだい?それに、だいたいは火の精霊や水の精霊など生活を助けてくれる精霊が産まれてくるだけだよ。邪竜だなんて、そんな存在が産まれたという記録は残っていないよ。」

確かにお父様の言うとおりだ。

今まで邪竜どころか普通の竜ですら産まれてきたことはないのだ。

精霊と言っても産まれてくるのは生活に役立つのがやっとな下級精霊のみ。

戦闘力を持つような上級精霊などまず産まれてはこない。

仮に産まれてきたとしても、100年に一度あるかないかの出来事だ。

ましてや、邪竜が産まれたという記録などはまったく残っていない。

だから、父が言うように考えすぎだというのも一理ある。

だが、ここが乙女ゲームの世界ならば私は邪竜の卵を育ててしまうのだ。

そして、世界が混乱することになる。

「だって、邪竜が産まれてしまうんですもの。私、未来を知っているの。」

どうか、邪竜が産まれてこないように、私を高等魔術学院に入学させないようにと父に懇願する。

しかし、私に甘い父だがこの件に関しては首を縦に振ることはなかった。

「エメロード。大丈夫だから。そんなに心配するようなことではないよ。それに卵は育てた者の感性を吸収して育つのだよ。エメロードはとっても優しい良い子だ。エメロードが邪竜を育てたところで、その邪竜はとても良い子になるだろう。もしかしたら同じ竜でも聖竜かもしれないよ。」

「でも!!」

「エメロード。エメロードが人の道を踏み外そうとしているとわかったら、私たちが止めてあげるから安心して暮らしなさい。エメロードがエメロードである限り邪竜など産まれてこないのだから。」

父の言葉にそれ以上反論することはできなかった。

こうして父を説得することは失敗に終わったのだった。

まあ、邪竜が産まれてくるなど誰にも信じられない話だと思うから仕方がないとは思うけれども。

父がダメなら母はどうだろうか。

私は次に母にお願いすることにした。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】かなわぬ夢を見て

ここ
ファンタジー
ルーディは孤児だったが、生まれてすぐに伯爵家の養女になることになった。だから、自分が孤児だと知らなかった。だが、伯爵夫妻に子どもが生まれると、ルーディは捨てられてしまった。そんなルーディが幸せになるために必死に生きる物語。

悪役令嬢だから知っているヒロインが幸せになれる条件【8/26完結】

音無砂月
ファンタジー
※ストーリーを全て書き上げた上で予約公開にしています。その為、タイトルには【完結】と入れさせていただいています。 1日1話更新します。 事故で死んで気が付いたら乙女ゲームの悪役令嬢リスティルに転生していた。 バッドエンドは何としてでも回避したいリスティルだけど、攻略対象者であるレオンはなぜかシスコンになっているし、ヒロインのメロディは自分の強運さを過信して傲慢になっているし。 なんだか、みんなゲームとキャラが違い過ぎ。こんなので本当にバッドエンドを回避できるのかしら。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

処理中です...