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第6話
しおりを挟む「明日の夜、とはまた随分と急なことで……。」
私はやっとの思いで口を開く。覚悟はしていたといえど、やはり驚きは隠せないものだ。
「そうだ。国王陛下から婚約の話と初顔合わせの日程の件は伺っていたのだがな、両方一緒に話してしまえばアンジェリカのショックが大きいだろうとギリギリまで知らせないつもりだったんだ。だが、今のアンジェリカを見ると吹っ切れたような表情をしていたから、今なら告げても大丈夫だと思ったんだが。」
一度に言われても別けられてもショックは同じような気がする。いや、でも一緒に言われていたら話が消化しきれなかったかもしれないから、これでよかったのだろうか。
「そうでしたか。ご配慮くださりありがとうございます。」
「まあ。アンジェリカ。それならば着飾らなければなりませんでしたね。新しいドレスを新調……するには時間がないわ。それにうちにはオーダーメイドのドレスを購入するだけの資金もありません。ロザリー、侯爵様との晩餐会に相応しいドレスはありますか?」
お母様は私のドレスの心配をし始めた。確か、婚約者もいない私のドレスはどれも古めかしいものだったはず。侯爵家の晩餐会に相応しいようなドレスは一着もなかったと思う。
それはうちの伯爵家が貧しいため、新しいドレスを新調する機会などなかったからだ。ほとんどはお母様のおさがり、もしくは知り合いの貴族からの貰いものだ。
「いえ。アンジェリカお嬢様のドレスはここ数年新調しておりませんので侯爵家の晩餐会に相応しいようなドレスはありません。」
私のドレスを管理しているロザリーも私と同じ答えを出す。
そうだろうな。採寸なんてしてないし。適当にお母様のおさがりのドレスをロザリーが私の背丈に合うように繕ってくれているんだから。まあ、そのお母様のドレスだってこの伯爵家に嫁いできてから新調したのは1度か2度くらいだったような気がする。
つまりは侯爵家に相応しいドレスを用意することができない。
「まあ、困ったわね。」
「そうだな。ドレスのことまで気がまわらなかったよ。」
お父様はドレスのことは失念していたようだ。
それもそのはず。日々を生活するための資金集めだけでお父様の頭の中はいっぱいいっぱいなんだろう。
「私は構いません。そこで見限られるようなら侯爵様とは縁がなかっただけなのです。」
私はそう答えた。呪い持ちとされる侯爵と結婚をしたいわけではない。ただ会ってみるだけなのだ。そして、本当に呪い持ちで私が堪えられなさそうならば、私の素を見せて嫌われるだけだ。今更ドレスくらいどうってこともない。
「そうね。そうよね!」
私が出した答えにお母様はぱあっと花が咲き誇ったような笑顔を浮かべた。
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